圧縮センシングとその成否診断
e-mail: kato@issp.u-tokyo.ac.jp講演言語 : 日本語
実験データを解析すると何らかの結果が得られるが,その結果はどのように受け入れられているだろうか.ひょっとすると,慎重になりすぎて必要以上にデータ獲得を行うあまり,非効率な実験計画を立てているかもしれない.もしくは,不十分なデータによる誤った解析結果 が,偶然にも予想と一致しているだけかもしれない.本セミナーではこうした問題について圧縮センシング(Compressed Sensing, CS)の成否診断を題材に議論したい.
CSとは統計科学を活用して実験計測を効率化する手法の総称であり,近年ではスパースモデリング(Sparse Modeling, SpM)に基づくものが物性研究をはじめ様々な分野に広がりを見せている(たとえば走査トンネル顕微・分光法による準粒子干渉実験[1]).SpMは,計測対象 を適切な基底で表現したときに非零成分がごく少数すなわちスパースであるということを活用する.SpMによるCSでは,閾値となるデータ量を境に解析結果が失敗から成功へと相転移的に切り替わることが知られている[2,3].しかし,閾値を知るためには,計測対象がどの程度 スパースであるかを予め知っておく必要があり,問題である.
本セミナーでは,我々が提案するCSの成否を診断する手法を紹介する[4].本手法は,交差検証と呼ばれるオーソドックスな統計手法を,これまでには見られない方法で用いることにより,計測対象のスパース度を事前に知らなくとも,いわばデータ駆動的に,診断することができる.
文献:
[1] Y. Nakanishi-Ohno, M. Haze, Y. Yoshida, K. Hukushima, Y. Hasegawa, and M. Okada, J. Phys. Soc. Jpn. 85, 093702 (2016).
[2] D. L. Donoho and J. Tanner, Proc. Natl. Acad. Sci. 102, 9446—9451 (2005).
[3] Y. Kabashima, T. Wadayama, and T. Tanaka, J. Stat. Mech. 2009, L09003 (2009).
[4] Y. Nakanishi-Ohno and K. Hukushima, in preparation.