第15回日本中性子科学会年会が2015年12月10日〜11日に埼玉県和光市で開催され、古府麻衣子氏（山室研・助教）が第13回日本中性子科学会｢奨励賞｣を受賞しました。本賞は本会の正会員であって、中性子科学に関して優秀な研究を発表し、その年齢が当該年の4月1日において40歳に達しない若手研究者に対して授与されます（件数は毎年2件程度）。
　古府氏の受賞テーマは｢イオン液体の階層的構造およびダイナミクスの研究｣です。イオン液体は室温で液体であるイオン性化合物で、現在の液体科学分野で最も注目されている物質です。不揮発性のグリーン溶媒や高性能電気化学材料として応用面で注目されているだけでなく、特異な階層的構造やガラス性ダイナミクスにより基礎物性の立場からも大いに興味がもたれています。古府氏は、回折法から準弾性散乱法まで様々な中性子散乱法を用いて、最も代表的なイミダゾリウム系イオン液体の階層構造が温度やイオンサイズを系統的に変えることでどのように変化するかを明らかにしました。また、その階層構造に対応する複雑なダイナミクスを丁寧に解析し、緩和マップとも言うべきイオン液体の緩和の全体像を提案しました。緩和マップのうち、最も遅い高次構造（層状構造）の緩和は、古府氏が中性子スピンエコー法により初めて発見したものです。このような古府氏の研究は国内外で非常に高く評価されており、今回の受賞に至りました。

対象論文
(1) M. Kofu, M. Tyagi, Y. Inamura, K. Miyazaki and O. Yamamuro
Quasielastic neutron scattering studies on glass-forming ionic liquids with imidazolium cations
J. Chem. Phys., 143, 234502 (10 pages) (2015). 　 DOI: 10.1063/1.4937413
(2) M. Kofu, M. Nagao, T. Ueki, Y. Kitazawa, Y. Nakamura, S. Sawamura, M. Watanabe and O. Yamamuro
Heterogeneous Slow Dynamics of Imidazolium Based Ionic Liquids Studied by Neutron Spin Echo
J. Phys. Chem. B, 117, 2773-2781 (2013). DOI: 10.1021/jp312608r
(3) M. Kofu, T. Someya, S. Tatsumi, K. Ueno, T. Ueki, M. Watanabe, T. Matsunaga, M. Shibayama, V Garcia Sakai, M. Tyagi and O. Yamamuro
Microscopic insights into Ion Gel dynamics using neutron spectroscopy
Soft Matter, 8, 7888-7897 (2012). DOI: 10.1039/C2SM25348H