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辛教授、服部報公賞を受賞

辛 埴 教授
辛 埴 教授
物性研究所先端分光研究部門の辛埴教授が平成17年度第75回服部報公賞を受賞されました。服部報公賞は、昭和5年に株式会社服部時計店の創業者服部金太郎が設立した公益事業団体「服部報公会」が、「国家及び社会に対して有用なる発明又は研究を成就したるものに対して贈与」してきた、日本でもっとも古い歴史がある賞のうちの1つです。

辛教授はこれまで、光電子分光の高分解能化に尽力し、強相関物質、超伝導体、半導体、超イオン伝導体の材料開発の基礎に大きな貢献をされました。今回、受賞の対象となったのは「超高分解能光電子分光の開発による材料物質の電子機能性解明」で、その詳細は以下に再録した服部報公賞審査報告にまとめられています。

本研究は、深紫外線から軟X線に及ぶ光子エネルギー領域での光電子分光法を用いて物質の微視的構造を明らかにし、特に物性科学の分野で注目されているいくつかの物質の電子機能性について新たな知見を獲得したものである。深紫外線領域の光電子分光装置の改良を行って世界一の分解能を達成したことが新発見の重要な推進力となっており、装置開発、物性解明の両面とも世界的水準の優れた業績である。以下に特筆すべき内容を述べる。

(1) レーザー励起光電子分光装置の超高分解能化による物質の電子機能性解明
レーザー励起光電子分光装置を種々の工夫によって世界最高のエネルギー分解能0.36meVを達成するとともに、測定領域の深さを増加させ、表面処理の影響が少ない測定を可能にした。これを用いて現代の物性科学で注目されている超伝導体CeRu2、MgB2、NbSe2、Y(Ni1-xPtx)2B2C及びBa8Si46のバルク電子構造やそれに基づく電子機能性解明の手掛りを得ることに成功した。

分解能0.25meVの光電子分光装置をスウェーデンのメーカーと共同開発した。これに東京大学渡部教授研究室が開発した波長安定化紫外線レーザー(線幅0.26meV)を適用して総合分解能0.36meVのシステムを構築した。光照射で真空中に放出される光電子のエネルギーを計測する光電子分光法は電子構造を直接に反映する現象を利用しているため、物質のミクロな構造解明の有力な手段と成り得るものであるが、表面の浅いところから電子が放出されることからデータは表面処理に敏感に影響されるという欠点を有していた。本研究では光子エネルギー7eVの波長安定化されたレーザーを照射源とすることによって脱出長を数十nmまで長くすることができた。

物性解明の事例としては、高温超伝導体MgB2における2種類の超伝導ギャップエネルギー依存の発見、4f電子を含む超伝導体CeRu2における超伝導ギャップエネルギーの異方性直接測定、電荷密度波物質NbSe2における超伝導ギャップエネルギーのフェルミ面依存性発見などが挙げられる。これらは超伝導発現機構解明への重要な手掛りを与えるものである。

(2) 電子構造の軟X線分光的手法によるイオン伝導機構の解明
イオン伝導体として注目されているペロブスカイト型酸化物プロトン伝導体を対象に、シンクロトロン放射光を用いた軟X線分光測定(SXES=soft x-ray emission spectroscopy、XAS=x-ray absorption spectroscopy)を行った。この物質については、母体酸化物が水などのプロトン源と接触すると酸化物中のホールまたは酸素欠陥と作用して結合の長いOH種が生成され、プロトンが隣接する酸素にホッピングするという伝導メカニズムが提唱され、分子動力学シミュレーションなどの方法で検証が試みられてきた。本研究では電子構造面からこのメカニズムの妥当性を確認することに成功するとともに、表面・粒界現象を主要な寄与ではないかとする疑問に対しても軟X線分光法がバルク敏感な測定法であることから、バルク現象が支配的であることを明快に示している。本研究は既に国内外のイオニクス分野研究者から高い評価を得ている。イオン伝導機構の解明を基盤としてイオン伝導特性向上のための指針を提供する発展が今後期待される。

これらに加え、磁性半導体GaCrN、準結晶Cd-Ca、シリコン単結晶上の高誘電率薄膜HfO2/Siなどの興味ある物質系についても光電子分光法を適用し、優れた成果を挙げている。


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(公開日: 2005年11月10日)