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ハイドロゲルの流動性をDNAで予測・制御する ~細胞培地や注入型ゲル薬剤など、医療への応用に期待~

北海道大学大学院先端生命科学研究院の李 响准教授(研究当時:物性研究所 柴山研・山室研 助教)と東京大学大学院工学系研究科バイオエンジニアリング専攻博士後期課程の大平征史氏らの研究グループは、ハイドロゲルの流動性をDNAの塩基配列を設計することによって予測・制御することに成功しました。

ハイドロゲルはヨーグルトやスライムなどに代表される、柔らかく、流動性を示すことができる材料で、人工硝子体や癒着防止材などの医用材料としても応用されています。ハイドロゲルを医用材料に応用するには、その流動性を予測・制御することが重要ですが、生理的条件下で実現することはこれまで困難でした。

本研究グループは、DNAが作る二重らせん構造の安定性が、DNAの塩基配列に大きく左右されることに着目し、DNA二重らせん構造(*1)架橋(*2)された新しいハイドロゲルを合成しました。このゲルのマクロな流動時間を調べたところ、DNA二重らせん構造の解離時間と幅広い時間領域で一致することが判明しました。DNA二重らせん構造の安定性は、塩基配列を設計することで自在に調整できるため、本手法を用いてゲルを合成することで、生理的条件下においても任意の流動性をもつハイドロゲルを合成できることが示唆されました。今後、生体に近い流動性をもつ細胞培養培地や注射可能なゲル材料、さらにはソフトロボティックスなど、医療分野への応用が期待されます。

本研究成果は、2022年2月16日(木)公開のAdvanced Materials誌にオンライン掲載されました。

北海道大学発表のプレスリリース

fig1

図1. (左) 本研究で合成したDNAゲルの模式図。DNAは二重らせん構造を形成するが,絶えず解離と結合を繰り返す。(右)試験管に入れた透明なDNAゲル。室温ではゲル状態であるが,温度を上昇させるとDNAの二重らせん構造が解離してゾル状態(液体)となる。DNAゲルに蛍光色素を入れた場合,DNA二重らせん構造が形成されるときにのみ,緑色蛍光を示す。

発表論文

  • 雑誌名:Advanced Materials(2022年2月16日オンライン公開)
  • 論文名:Star-Polymer-DNA Gels Showing Highly Predictable and Tunable Mechanical Responses(力学応答の予測・制御が可能な星型高分子DNAゲル)
  • 著者名:大平征史1,片島拓弥1,内藤 瑞2,青木大輔3,吉川祐介4,岩瀬裕希5,高田慎一6,宮田完二郎7,鄭 雄一1,酒井崇匡1,柴山充弘4,5,李 响8
    (1東京大学大学院工学系研究科バイオエンジニアリング専攻,2東京大学大学院医学系研究科疾患生命工学センター臨床医工学部門,3東京工業大学大学院物質理工学院応用化学系,4東京大学物性研究所附属中性子科学研究施設,5一般財団法人総合科学研究機構中性子科学センター,6国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 J-PARCセンター,7東京大学大学院工学系研究科マテリアル工学専攻,8北海道大学大学院先端生命科学研究院)
  • DOI:10.1002/adma.202108818
  • URL:https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/adma.202108818

用語解説

*1 DNA二重らせん構造
2本の相補的な塩基配列を持つDNA鎖が作るらせん状の構造。DNA鎖鎖間の水素結合やスタッキング効果により構造形成しているが、力や温度刺激を与えると解離する。
*2 架橋
高分子同士を部分的に結合させ、橋架け構造を形成することを指す。架橋を導入した量、架橋を導入した場所、さらに架橋の安定性などによって材料の性質が大きく変化する。
(公開日: 2022年02月17日)