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500テスラ超強磁場下において強相関半導体鉄シリサイドの磁気相図を解明

東京大学物性研究所の中村大輔 助教(研究当時。現:理化学研究所 研究員)、松田康弘 教授、嶽山正二郎 教授(現:東京大学名誉教授)らは東北学院大学と共同で、強相関半導体鉄シリサイド(FeSi)の磁場誘起半導体-金属転移を500テスラに至る超強磁場下での高精度電気抵抗測定によって観測することに成功し、その磁気相図を明らかにしました。

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(下)電磁濃縮法によって発生したパルス超強磁場の時間変化と、(上)同時に計測されたFeSi単結晶に印加された高周波電気信号の出力波形。背景色の変化は、半導体から金属状態への変化を示している。

物質中の電子間に強い相互作用がはたらくことによって、電子の波動関数が混ざり合い、高温超伝導のような興味深い物性が現れます。また、ある物質では、高温では金属的な電気伝導性を示すものが、低温では電子が占有できないエネルギー帯であるバンドギャップが開くことにより半導体のように振る舞うことが知られています(強相関半導体)。この強相関半導体の代表例の一つに、本研究の対象物質である鉄シリサイド(FeSi)がありますが、その電子エネルギー構造や磁場下での電気伝導特性などははっきりとわからないままでした。

そこで、本研究では、最大で1,200テスラの磁場発生が可能な、物性研究所にしかない「電磁濃縮法」装置を用いて500テスラ級の超強磁場中でFeSiの電気伝導特性を調べました。これほどの巨大な磁場下で物性測定を行うには様々な実験技術上の制約がありますが、その中でも電気抵抗の測定は、物質科学研究の最も代表的な手段でありながら、超強磁場下での測定はこれまで非常に困難であるとされてきました。中村大輔 助教らはこの問題に何年もの間取り組み、2018年に超強磁場下における高精度の電気抵抗測定手法を開発しました。

この手法をFeSiに用いることによって、270テスラの磁場において半導体から金属状態に転移することが明らかになりました。さらに、金属転移磁場よりも低い磁場領域で特異な磁気抵抗が観測され、半導体のバンドギャップ中に局在的な電子状態が存在することを示唆しました。これらの結果は温度と磁場を軸とした相図上で明確に区分されました。このような系統的な実験の成功は、物性研究所における、物性応用のための再現性・信頼性の高い超強磁場発生技術の開発が結実した成果であると言えます。

本研究の成果は、令和3年10月6日付で米国科学雑誌「Physical Review Letters」のオンライン版に掲載されました。さらに、「Physical Review Letters」誌に掲載される論文の中でも、特に重要かつ興味深い論文であるとして、Editors’ suggestionに選出されました。

発表論文

  • 雑誌名:Physical Review Letters
  • 論文タイトル:Magneto-conduction in correlated semiconductor, FeSi, in ultra-strong magnetic fields up to a semiconductor-to-metal transition
  • 著者:D. Nakamura, Y. H. Matsuda, A. Ikeda, A. Miyake, M. Tokunaga, S. Takeyama, and T. Kanomata
  • DOI:10.1103/PhysRevLett.127.156601
(公開日: 2021年10月08日)