皆さんは「物性科学」という学問分野があるのをご存じでしょうか。物性科学とは、高校の物理や化学ではほとんど触れることのなかった、物質の多様性と普遍性を学ぶ学問分野です。金属の電気抵抗は何で決まっているのか?ガラスの原子配置はなぜ不規則なのか?鉄はなぜ磁性をもっているのか?これらの質問に科学的に答えを見つけ出そうとする学問が物性科学です。
現在、物性科学の最前線ではさまざまな研究が行われ、日々新しい発見が生まれています。また地球に優しい素材の開発やレアメタル(希少金属)を用いない材料の開発など、物性科学は応用面で今度ますます重要になると期待されています。物性科学分野では多様な研究が行われていますが、おおよそ「創る」「観る」「知る」の3つのキーワードで整理できます。まず「創る」とは、これまで知られていなかった新しい物質を合成・開発することです。どのような物質をどのような手法で合成・開発するか、が重要になります。次に「観る」とは、生成した物質がどのような性質をもつのかを調べることです。電気的性質、磁気的性質、光学的性質などの実験に加え、加速器などの大型装置を用いた実験や、超高圧、超強磁場、超低温など極限状況での実験も含まれます。最後の「知る」は、実験の結果がこれまでの予想と異なっていたとき、理論や計算機を用いて、なぜそのような現象がおこったのかを理解しようとすることです。逆に理論的に先に現象が予言され、それが実験的に確かめられることもあります。
本ゼミナールは、“創る、観る、知る”を総合的に研究している物性研究所の教員が交代で、物性科学の基礎と最先端について講義を行います。また夏休み中に、物性研究所で実際に実験装置を動かして、研究の現場を体験していただきます。物性科学の基礎を勉強するとともに、物性科学の最前線の雰囲気を実感することが、本ゼミナールの目標です。
金曜日に講義を行い、夏休み中に実習を物性研究所(柏)で行う。なお、講義・実習の詳細および最新の情報・連絡は、このページ(http://www.issp.u-tokyo.ac.jp/maincontents/zengaku.html)の中で参照できる。
時 間 : 夏学期 金曜日5限
場 所 : 駒場キャンパス107教室
講師 | 内容 |
講義日 |
|
講義 | 加藤 岳生 | 【基礎的講義】 はじめの3回の講義では、物性科学の初歩を学ぶ。高校で学んできた物理・化学の知識だけを前提にして固体物理の基礎的な概念(バンド理論など)を説明する。さらに物性科学で行われる実験手法の原理について簡単に紹介する。初回の講義では、本全学ゼミのガイダンスも行う。 |
4月18日、25日、 5月 2日 |
松田 康弘 | 【極限磁場における物質の世界】 強力な磁場中では、物質において通常は隠されている励起状態の性質が現れ、様々な興味深い現象が観測される。講義では磁場発生技術の紹介と合わせ、強磁場中で物質が示す量子現象をできるだけ平易に解説する。 |
5月9日、23日 | |
小林 洋平 | 【最先端レーザーと光科学】 原子と光との関係から光科学一般の説明を行った後に、レーザーの原理・しくみから応用へと進む。レーザーが天文・物理・化学・医療などの最先端でどのように用いられているのかについて解説するとともに、未来像を紹介する。 |
5月30日、6月6日 | |
小森 文夫 | 【走査トンネル顕微鏡を操るナノサイエンス】 原子、分子、電子波をみて操作することができる走査トンネル顕微鏡の原理を説明し、電子状態の量子化と干渉、原子スイッチ、分子振動、スピン反転などナノスケールでの現象を紹介する。 |
6月13日、20日 | |
原田 慈久 | 【放射光X線を用いた精密分析】 放射光はレントゲンの100億-1兆倍という大強度のX線を発生することができ、先端科学のあらゆる分野で使われている。放射光の原理と特徴、放射光を用いた様々な分析の基礎と応用、最新のトピックスについて紹介する。 |
6月27日、7月4日 | |
秋山 英文 | 【半導体ナノ構造】 半導体をつかってナノメートルサイズの構造を作製すると、どのように新しい状態や物性を出現させることができるだろうか?どうしたらそれらを調べることができるだろうか?量子力学と半導体物理を紹介しつつ、半導体ナノ構造の物理と応用の研究例を解説する。最終回に、本全学ゼミの実習に関するガイダンスも行う。 |
7月9日、11日 | |
実習 | 小林 洋平 | 【レーザー】 簡単なレーザー共振器を実際に作ってみる。できたレーザーの色を特殊な結晶を使って変換してみる。また、最先端レーザー施設を見学する。 |
合宿 8月4日(月) ~5日(火) |
松田 康弘 池田 暁彦 |
【超強磁場】 物性研究所が所有する、世界に4台しかない超強磁場発生装置である 一巻きコイル法を用いて、100テスラ以上の極限超強磁場の発生と磁場計測実験を行う。その他、国際超強磁場科学研究施設の見学も行う。 |
||
小森 文夫 宮町 俊夫 |
【走査トンネル顕微鏡で原子を動かす】 超高真空装置に金属試料を導入し、そので表面を走査トンネル顕微鏡を使って、原子像観察し、原子操作を試みる。 |
||
松田 巌 原田 慈久 |
【偏光を用いた光物性実験】 光を使った実験の中で偏光を利用したものを体験してもらう。1)可視光を用いた偏光利用実験を実施してもらう。2)高次高調波レーザー施設で実施されている偏光実験装置の見学をしてもらう。3)放射光を利用した偏光実験を紹介する。強い希望があれば、後日高エネルギー加速器研究機構KEK(茨城県つくば市)での放射光施設見学を行う。 |
||
秋山 英文 加藤 岳生 三田村裕幸 |
全体企画・調整、ランプセッション |
実習場所 : 物性研究所(柏キャンパス) キャンパスまでの交通・ キャンパス地図
成績評価は出席およびレポートにより行う。単位取得を希望する学生は、興味をもった講義、参加した実習について、簡単なレポートをまとめて提出する。レポートの内容や分量は講義の中で発表する。
教科書は使用しない。
第1回授業日に行う。