Q&A

たくさんのご質問をいただき、ありがとうございました。イベント内では時間の都合で答えることができなかったものも含め、講師の先生方にお答えいただきました。

issp-dog-asking

ARPESで運動量空間だけではなく実空間でもマッピングするとのことでしたが、分解能はどれくらいでしょうか?

nagamura

実空間での分解能はだいたい100nmくらいですね。そのくらい小さい物に対して、波数空間でも更に詳しく見ることができます。

issp-dog-asking

歯ブラシで狙った電極に落とせるのでしょうか?

nagamura

それは、、厳しいですね。 どちらかと言うと、歯ブラシで適当なところに落として、「あ、ここに落ちたんだー」というのを確認して、あとから電極を作りこむ、という作り方をしています。

issp-dog-asking

ご紹介いただいた分析手法は、超薄膜でない試料についても用いられるものと思います。超薄膜について分析した結果、他の試料ではみられない美しさがあったりするのでしょうか。

imatsuda
 

美しいと思うのは、やっぱり量子力学の世界がそのまま見えるということで、電子の干渉している様子というのを見ることができたりします。例えば、STMという方法を使って原子シートを見てあげると、その原子シートの中で波が実際にぶつかって干渉していくという。まさに大学で量子力学を学んで、電子は粒子であり波であると、電子は波の性質もありますよというものを実際に見ることができて、「ああ、大学の先生が言っていたことは正しかったんだなぁ」ということを、自分が初めて電子の波を見た時には、そう感じました。

 
 
nagamura

STMで見た定在波ですね。

imatsuda
 

まぁ、でも。一生懸命、一生懸命、、高品質な試料を作ることにすごい時間を費やすんですけれども。それで自分たちが作った試料が非常に美しい回折パターンを見せた時には、やっぱり感動するくらい美しいですよね。
それで、このスポット(回折点の一つ)が出てきたのが良いんだよね、というそのスポットが、自分の求めていた構造の「こうゆう原子構造をしているから出てくるんだ」というのがわかった時の興奮は、堪らなくて。

 
 
科学者の面白いところは、そうゆうわかった瞬間のその知識は、世界で唯一、自分しか持っていないということですね。
 
nagamura

逆にいうと、ロクなパターンが出ないこともあります。

imatsuda
 
 
日々ね。
 
nagamura

何だこれー?なんか汚いなぁー。
もう一回作り直そうか、みたいなこと多いですからね。

imatsuda
 

まあでも、逆にそうゆうところからすごい大発見することもあって。そうゆうのを専門用語でセレンディピティっていう言い方をするんですけども。そうゆうところからノーベル賞級の発見もあるので、そうゆうのも大事にしながら、コツコツコツコツとやっていくところはありますね。

issp-dog-asking

目標の材料を作るには、難易度も関係すると思いますが、どのくらいの期間と、人数が必要でしょうか?

imatsuda
 

あ、それはですね。基本的には難しいはずなんですけれども、それを打破するアイディアがあります。
それはですね。やっぱり今Society5.0の話もありましたが、データ解析、ロボット、そしてAI、機械学習という新しい研究ツールが生まれてきています。最近ではコロナ禍で遠隔操作もできるようになってきましたので、専門家の知識を世界中の誰もが共有することができます。たとえ難しいものがあっても、今度は人間自身が努力と根性で何とかするのではなくて、AIとロボット、インフォマティクスを使って、効率的に一気に解決しようということを目指しています。こうゆう技術と知識を原子シートだけに限らずですね、その他の材料にも共有して、日本全体、世界全体で素晴らしい材料を作っていって、より良い社会を作っていきたいなぁ、と願っています。

issp-dog-asking

物性研では、年間どのくらいの材料をデザインしているのでしょうか?

imatsuda

・・・!
ま、いろいろとあります。一つは、設計を学理的・理論的にやるというやり方と、スーパーコンピュータが物性研にございますので、計算してみて最適な材料は何かという探り方をするやり方があります。そして、だいたいこうゆうものがあって、それをさらに最適化したい、という物質設計のやり方があって、物性研では実際の産業のニーズに応えるような計算、課題解決についてもやっています。
まぁ、、、答えるならば「数えきれないほどやっている」ということでお願いします。

issp-dog-asking

原子シートの凄さがよく理解できました。ありがとうございます。数種類の原子シートの組み合わせなどをしても、展開できる可能性はあるのでしょうか。

imatsuda

そうですね、その一つの例がトランジスタです。非常に薄いトランジスタですので、光を透過する透明なトランジスタを作ることができるわけです。透明エレクトロニクスというところで、肌につけるとか、透かして見えるiPadのスクリーンとか、そうゆう技術に展開していきます。実は、そうゆう機能が生まれるためには、材料を組み合わせることが必要です。組み合わせるからこそ、そうゆうことが出来る。じゃあ、どう組み合わせるのか、というところですけれども、それが僕ら合成屋さんのテクニックがいろいろとあって、そうゆう技の共有も最近ではみんなで情報交換しながらやってますし、私の研究プロジェクトでも、そうゆうプロフェッショナルに集まってもらって展開しています。実際、永村さんが所属するNIMSは大変強いご専門がありますので、共同研究をやらせてもらっています。

 
nagamura

出た話としては、グラフェンだけとか、ボロフェンだけの電界効果トランジスタという話だったんですけど、 実際の装置では、例えば、モリブデンMoS2とタングステンダイステナイドみたいな、遷移金属ダイカルコゲナイドという原子シートを何層か重ね合わせて、トンネル電界効果トランジスタという、トンネル電流を使うトランジスタがあって、何層も重ねてできるデバイスというのもあります。

issp-dog-asking

STMは試料表面と探針との間に電流が流れることを利用するということは、試料は金属や半導体でなければならないのでしょうか。試料が絶縁体の場合はどうするのでしょうか。

nagamura

鋭いですね〜。その通りです。
絶縁体の場合は、同じプローブを使うんですけども、原子間力顕微鏡(AFM)という装置を使って、表面構造を見ることが多いです。AFMなら、絶縁体も見えます。

imatsuda

絶縁体だろうが、金属だろうが、半導体だろうが、原子のレベルで見るのは、現代の実験技術では可能なんですよね。
その技術が進んでいって、ただ見るということだけではなくて、どう動いているかということも追えるようになってきましたので、永村先生のオペランド測定で、「その時、原子が動いた」というのが見えるわけですよね。

nagamura

見えたらー・・・良いですよね、そこまで分解能ないですけどね

imatsuda

あ、ないですか

nagamura

超高速AFMとかですかね

issp-dog-asking

内容が濃くて、一度で消化しきれません。
見逃し配信などはありますか?

 
考えて、見逃し配信作成しました!
issp-dog-asking

たんぱく質やDNAの立体構造を分析することは可能でしょうか?

imatsuda

そうゆう研究もあります。STMでは表面を見るので、狙ったところ、DNAの一部分のだけを見るのは良いんですけども、 DNAは3次元の構造ですので、中を透かしてみる、そしてDNAは溶液の中に入っている時に機能が発生するので、そうゆう状態を見るには、今のところはX線を使った方が構造を決めやすいです。
X線の波長が、原子の大きさくらいなので、原子の構造も、回折という方法を使って決定することができます。なので、(DNAとかタンパク質の構造解析は)そっちの方が主流ですね。

issp-dog-asking

高校生の子供が数学、物理、化学の関係性がよくわからいと言っています。簡単に言ったらどういう関係ですか?

imatsuda

物理と化学というのは、現代に進めば進む程、だんだん境界が無くなってきたんですよね。じゃあ、何をもって化学か、物理かというのも人によって言い方が違っていて。模範解答というのが、専門家の間であって、両方とも専門を持っていて、化学の学会にいった時には、「私、物理屋なんで、化学のこの質問には答えてもらえませんか?」と言って、物理学会行ったら「化学屋なんで、物理のこと教えてください」というと大体教えてもらえて、二つのものをまとめて自分のものにするというのが、正しい化学と物理の専門家の立ち居振る舞い方w

nagamura

たぶん、大学とか大学院とか進むとだんだん境界の無さを実感すると思います。

imatsuda

自分が感じる化学と物理については、自分は大学院のところで化学専攻の学生と物理学専攻の学生が同じ研究テーマで、同じ研究室で実は分野横断しています。やっぱり、実験の様子を見ていると考え方がちょっと違いますね。違うそれぞれの実践を持って同じテーマに取り組んで、そして二つを融合して新しい解決策を見つけるところを見てきました。

まあ、これは一般的に使えるかわかりませんけども、化学というのは、相手に対してどうするかという考え方なんですよね。物理というのは、基本法則に対してどうかという変化があります。問題解決する時にはどれがアプローチが良いかというのは無いですけど、ただ、複数のやり方を持っていると解決への近道に行けるので、物質に興味があるならば物理と化学を勉強した方が良くて、その両者を理解する上で数学ってものを組み合わせるとさらに完璧です。

nagamura

結局、サイエンスでも、もっと応用よりでも、イノベーションってある専門知識に別の専門の知識をドーンと持ってくることで、大きなイノベーションが生まれるっていう事例がすごくたくさんあるので、そういう観点でも広くいろいろ勉強するってのは、悪くないし、むしろ進めるべきなのかなと思うので。

私自身、もともと物理学科卒で研究室に配属されたんですけど、東北大で働いていた時は、化学・バイオ工学科の教員をやっていたりとかしていて。専門っていうのはいろいろ移っていくものなので、絶対勉強しておいて損はないのでいろんな分野を勉強してください。

imatsuda

それで何か新しいことをしようと思った時に一気に今までの知識が広がって、途端に先端切り分ける時、あるよね。

nagamura

あります、あります。

ここからイベント内未回答の質問

issp-dog-asking

STMで解析できるのは物質の表面だけで、内部は解析できないということでしょうか。

imatsuda

はい。
STMは表面分析法で表面原子層の構造や電子状態を精密に決定することができます。

nagamura

STMはとても表面敏感な分析手法ですね。逆に言うと、内部と表面の違いを知りたいときに、きちんと表面だけを解析できるという言い方もできます。

issp-dog-asking

ベンゼン環は、本当にあのカタチだということなのですか?だとしたら、あの書き方はどうやって開発されたのでしょう?

imatsuda

ベンゼンの発見からベンゼン環の決定までは歴史的に多くの時間と議論がありました。「モノ」を「可視化」すれば分かりやすいですが、たとえ見えなくても分子の質量や化学結合に関わる法則に照らし合わせることで構造モデルを立て、そして実験的に検証することができます。科学では、その中で生き残ったものが「真実」として扱われます。ベンゼンの原子構造について「ケクレの夢」の逸話がありますが、個人的には化学者みなさんの努力の結果だと思います。

nagamura

確かにベンゼン環構造の提唱者としてはケクレが有名ですが、近い構造は既にケクレの前にも何人か提案していましたし、ケクレ自身もその先行研究の重要性を説いていますね。また、現在の書き方(六角形の中に丸)を理解するには、量子力学も必須です。科学は歴史上少数の天才が階段状に進歩を推し進めてきたと言う人もいますが、実際は多くの科学者が少しずつ人類の知恵を押上げていった結果が現在の科学技術だと思います。

issp-dog-asking

ディラック点ではなく、ディラック線(ノーダル)だと何がいいのですか。

imatsuda

電気伝導では、電子の速度と電子の量が重要です。ディラック点では電子の速度は大きいのですが、電子の量をあまり増やすことができません。しかしながら、ディラック線(ノーダル)では100倍以上、その量を増やすことができます。これは通信素子材料として利用した時、より大きなパワーや情報を運べることになるので、大変有利です。

issp-dog-asking

物性犬のぬいぐるみが欲しいです

残念ながら非売品です。。。

issp-dog-asking

グラフェンを重ねる角度はどうやって制御しているのでしょうか

imatsuda

グラフェン同士を重ねる時には機械的に実施するのですが、その時回転して角度を制御して重ねます。現時点ではこの作業は職人的ですね。一方、我々は結晶成長の特性を利用しても用意します。この場合、大面積なものを作製できますが、角度は限定的です。

nagamura

機械的な方法は自在に角度を選べる一方、あまりにも職人技すぎて、できるラボが世界的にも限られている感じがしますよね…気軽に追試実験はできない…。

issp-dog-asking

異種の単層シートを重ねて貼りつくのでしょうか?どのように接着するのですか?
また、ツイストでも回転角によっては反発したりするのでしょうか?

imatsuda

重ね方には様々アプローチがあり、それぞれが開発段階です。例えば、上から蒸着する方法や、基板が析出される方法、機械的に重ねる方法など、原子シートの格子サイズや化学的特性など合わせてアプローチを使い分けています。ツイスト回転角による反発はまだ経験はありませんが、今後そういうものも出会うかもしれませんね。

nagamura

機械的に重ねる方法は、ゲル状の材料に単層シートをくっつけて、基板上の単層シートの上にべちょっと押し付けて、ゲルだけはがす、という手順で「スタンプ法」と呼ばれています。スマホの保護シートを貼る感覚で、うまくやらないと気泡が入ったりします(笑)成功率を挙げるために、全自動シート重ねロボットを立ち上げている研究者もいます。

issp-dog-asking

開発された材料を実際に工業生産に乗せるには民間企業単独でできるのでしょうか。物性研や物材研の先生と民間企業が共同で生産ラインを作るのでしょうか。

imatsuda

とても重要なポイントですね。近年原子シートなどのナノテクノロジーが社会に広がり、さらに現代では1つの技術が大きな産業へと短期間で展開します。産学連携は大変重要なので、研究だけでなく、その体制作りも是非検討したいと思います。

nagamura

例えばNIMSで開発された材料であり、LEDデバイスに必要な材料である「サイアロン蛍光体」の例を挙げると、NIMSが特許権を管理して、民間企業はNIMSとライセンス契約して特許料を支払うことで生産ラインを立ち上げることができます。また、NIMS内ベンチャー企業を立ち上げ、少量であればその企業(株式会社サイアロン)を通して購入してもらう形をとっています。

issp-dog-asking

単層シートの機能は、クリーンでない環境下でも(ゴミがついたりしても)同様に得ることができるのでしょうか。

imatsuda

これは度合いによりますね。ただ、原子シートそのものはデバイスの中では複合材料の1部として使用されるので、社会実装の段階では問題にはならないでしょう。

nagamura

実際に私が分析している単層グラフェンFETや遷移金属ダイカルコゲナイドTFETなど半導体素子では単層シートむき出しのまま特に表面処理しないで分析測定して、単層シートとしての機能特性を検出できていますね。

issp-dog-asking

ボロンなどをシートに使われるというと、硬さや靭性などが、気になりますが、バーコビッチ硬さ靭性なども測定されたりするのでしょうか?

imatsuda

これはいい質問ですね。ホウ素は物質の硬さなどにも使用される元素です。現在、我々は光や電気特性に注目して研究をしていますが、機械的性能については現在、関係者と検討を行っているところです。是非、頑張って考えたい、と思います。

たくさんのご質問ありがとうございました!