記念出版「21世紀の物質科学 〜最先端がわかる〜」
  物性研究所編

表紙

物性研究所の企画になる啓蒙書として「物性科学のすすめ」というシリーズ(全3巻)が完結してからすでに20年以上が経過しましたが,この間に物性科学は目覚しい発展を遂げています.そこで昨年,物性研が創立50周年を迎えたのを機に,この20年間の新しいトピックスを中心にした「物質科学」の啓蒙書を出版することを企画しました.

この啓蒙書は,ノーベル賞関係を含む新規なトピックスから重要かつ分かりやすいものを選んで解説することにより,物質科学の面白さ,驚き,夢を読者に伝えることを第一の目的としています.大学の1,2年生程度の予備知識で十分に読めるように平易に記述する一方で,最先端研究の一端まで理解できるように工夫し,若い読者が工学,理学を問わず,この分野に進むきっかけとなることを期待しています.

プロローグより

物理学の基礎は20世紀初頭に現れた相対論と量子論によって確立された.この極めて強力な理論体系の応用と展開によって,自然界に対する人類の理解は,約1世紀の間に未曾有の進展を見せた.と言っても,それは平坦な道ではなかった.原理が分かったからと言って,現実世界の現象がすぐに理解できるわけではない.単純な固体の基本的な現象については,20世紀の間にかなりの理解がすすんだが,多くの問題が今世紀に持ち越されている.生命現象に関わる部分は,22世紀が到来するまでにどこまで解決されるかわからない.さらに実験技術とテクノロジーが高度化するにつれて,つぎつぎに不思議な現象や新奇な物質が発見され,あるいは人工的に構成され,解決するべき問題は減るどころか増加の一途をたどっている.

この本は, 20世紀末から21世紀にまたがる20年間の発展に焦点をあて,物質に関して一体何が分かったのか,物質科学(物の性質に重点をおいて「物性科学」とも言う)は今どういう方向に進んで行こうとしているかを,21世紀の研究を担うであろう若い人たちに伝えようと言う意図で書かれている.・・・・・・・・・・・・


編者
東京大学物性研究所編
編集委員
末元  徹 (東京大学物性研究所教授 理博)(代表)
勝本 信吾 (東京大学物性研究所教授 理博)

培風館  A5版 (本文一色・カラー口絵)
2008年5月22日刊行予定
定価 本体2000円+税


目次

プロローグ: 末元徹
勝本信吾
1章
冷却光線の話
――レーザー冷却とボース―アインシュタイン凝縮
久我隆弘
凍らせないように冷却する / 実際の冷やし方 / 本当に冷えてるの? / どこまで冷えるの? / サッカーボール(C60)も波だった / やっぱり凝縮する? / 原子を操る / 究極の時計  
2章
100兆分の1秒の瞬間写真
――超高速レーザー分光
末元徹
この世界の時間スケール / 超高速現象観測はレーザーの独壇場 / 分子レベルで化学反応の映画をつくる / 超短パルスの最先端は?  
3章
物質表面の地形を測る
――トンネル顕微鏡で見える原子と電子
小森文夫
原子配列の観察 / 走査トンネル顕微鏡 / 探針で原子を動かす / 局所電子状態密度の測定 / 表面波動関数の観察 / さらなる発展  
4章
コンピュータの中に物質をつくる
――シミュレーションを使った理論物質科学
常行真司
バーチャルリアリティとシミュレーション / 原子を集めて物質をつくる / 電子状態から物質を理解する / 電子状態計算の正攻法 / 固体にも使える簡単で厳密な方法 / 原子と電子を同時に動かす / 何ができて何ができないか  
5章
ナノの世界で物質を組み立てる
――人工超格子と2次元電子系
家泰弘
人工超格子 / バンドギャップとその制御 / 2次元電子の物理  
6章
電子1個を操る
――量子ドットと人工原子
勝本信吾
単一電子効果 / 人工の「原子」:量子ドット / 量子ドットでスピンを操る  
7章
電子が運ぶミクロな磁石
――スピントロニクス
大谷義近
ナノスケールの磁気模様 / 磁性体のスピン依存伝導 / 次世代スピントロニクスの行方  
8章
カーボンナノチューブとニュートリノ
――物質中の相対論的粒子
安藤恒也
ナノチューブとは / 巻き方とらせん構造 / ニュートリノ / 金属ナノチューブと半導体ナノチューブ / アハラノフ―ボーム効果 / 接合とピーポッド  
9章
見果てぬ夢,室温超伝導
――酸化物高温超伝導の展望
広井善二
はじめに / 超伝導とは何だろう / 銅酸化物超伝導体の登場 / Tcを決めるものは何? / 室温超伝導はどこにある?  
10章
実験室でつくる地球深部
――100万気圧のもとで生み出される多彩な新物質
八木健彦
超高圧の世界 / 金属水素 / ダイヤモンドより硬い新物質 / 地球深部の高密度鉱物  
11章
有機物で築くエレクトロニクス
――有機電子デバイスと有機ELディスプレー
森健彦
なぜ有機物が電気を流すのか / 電気を流すための分子・有機伝導体の開発 / 有機発光素子(有機EL) / 有機トランジスター  
12章
分子の紐でつくるソフトマターの世界
――超高強度先端材料から生体材料まで
柴山充弘
  ソフトマター / 高分子 / 分子を並べる / 分子の網 / トピックス  
エピローグ:発展する物質科学 福山秀敏
  物質科学の原点は量子力学 / 金属と絶縁体 / 結晶中電子の波動性とさまざまな「素粒子」 / 電子間の相互作用と局所的な環境が物性を決める / キャリアードーピング / 物質科学研究の対象はどんどん広がる!  
付録 量子力学の基礎 末元徹
  ドブロイの物質波 / シュレーディンガーの波動方程式と波動関数 / 井戸型ポテンシャル問題 / 不確定性の関係 / ボース粒子とフェルミ粒子 / 遷移 / 光の粒子性 / 固体中の電子:自由電子モデル / 束縛電子モデル  
索引