液体ヘリウム容器について
液体ヘリウム容器の種類
液体ヘリウム容器には様々なものがあります。それらの容器で実用的なものは、断熱方法によって大まかに以下のものに二分することができます。現在はスーパーインシュレーション方式が主流となっています。
材料は、初期の頃は、ガラスが多く使用されていましたが、最近では、アルミニウム、ステンレスといった金属が主流となっています。また最近では、断熱性に優れているので液槽のネック部分にFRPを使用しているものもあります。
スーパーインシュレーション方式
液槽の外側にアルミマイラーやアルミ箔と和紙のような断熱材を交互に何重にも巻き付け、更に断熱真空槽を真空引きを行うことにより断熱を行う方法です。一般に断熱真空槽と液槽の二重構造になっています。構造が窒素シールド方式より簡単になるので、重量が軽くなりハンドリングが容易になります。この方式でアルミ材の容器では、重量が50kgを切る非常に軽い容器もあります。蒸発率は、個体差がありますが一般的に容量(L)の1%/day程度となります。
スーパーインシュレーション方式のカットモデル
窒素シールド方式
液体窒素を利用して断熱を行う方法です。一般に外から断熱真空槽、窒素液槽、断熱真空槽、ヘリウム液槽といった四重構造になっています。窒素は液ももちろんその断熱に利用しますが、気化したガスも利用して容器を冷やし断熱を行うので、断熱効率が非常に良い事が利点です。しかし、窒素の補充の必要性や、容器の構造が複雑なことから、総重量が重くなるという欠点もあり、最近は運搬用の容器ではあまり利用されていません。
断熱槽の真空引き(再排気)について
液化室所属の容器を真空引き(再排気)する場合には必ず液化室に相談してから行って下さい。
真空引き(再排気)の目安
多くの容器は、使用しているうちに断熱真空槽の真空度が落ちてきますので、真空引き(再排気)が必要となります。真空引きの目安は容器の個性・状態によって左右されるので、一概に言うことはできませんが、液化室では、経験的に目安を以下のようにおいて真空引きを行っています。
- 蒸発量が多くなった場合・容器の外部に霜が着いた場合(この場合は明らかに断熱が悪いので早急に真空引きを行う必要があります)
- 長期間、液槽が常温であった場合は多くの場合、真空度が落ちているので再排気を必要とします。
- 液槽の温度を常温まであげた場合、短期間であってもAirLiquidの容器については、断熱が落ちている事が多く、再排気を行う方がよいです。また、Messer,CryoFab等の容器においては、以下にあげる液体窒素での判別を行ってから再排気を行うか、そのまま使用するかを決定します。
- 一般的な容器は、液体ヘリウム容器に、その容器容量の約3割程度まで(ヘリウムより窒素の方が重いので)の液体窒素を入れ重量を測定します。入れた後は、蒸発量を見るため、最低でも1回/日程度は重量測定を行います。
多くの場合、液体窒素を入れた翌日には重量変化が落ち着きますので、その後の蒸発量が、0.1~0.3kg/day以下であれば特に再排気する必要はないので、そのまま液体窒素で予冷を行ってから液体ヘリウムを入れます。
また、0.1~0.3kg/day以上であれば、一般的に断熱槽の真空度が落ちていることが考えられるので、再排気を行います。
まれに、0.1~0.3kg/day以上蒸発していた場合でもヘリウムを入れる事が可能な場合もあります(液槽にヘリウムを入れると、断熱真空槽にあるガスが冷え、同じく断熱真空槽にある活性炭の吸着能力が上がる事があると考えられる為)。また、その逆もあります。
※以上は、一般的な話ですので、容量、液体ヘリウムを入れた場合の蒸発率等も判断に加味する必要があります。基本的には、液体窒素の蒸発率が、液体ヘリウムを入れた場合の蒸発率を上回る場合には断熱真空が悪いことが考えられます。
真空引きの手順
真空引きの手順は以下のように行っております。
- 治具を使用し、容器と排気装置(ディフュージョンポンプorターボポンプを使用)を接続します。

接続全景

接続部拡大図

ねじ込み部拡大
(多くの場合バルブにねじが切ってあって、そこにシャフトをねじ込み、上に引き抜く形になっています)
- 配管の粗挽きを行ってから、容器のバルブを開け、真空引きを開始。その際、配管と容器の断熱槽の真空が同じでないとバルブが開きづらいです。また、グリース等で固着している場合もあるので、その際にはドライヤー等で軽く暖めると開け易くなります。
- 真空引きをしている間は真空度をモニターし、1.3×10-3Pa(1×10-5Torr)程度になってから更に一週間程度真空引きを行います。その間、断熱槽内にある活性炭を暖めるために、ヘリウム液槽の中央部に豆電球(ヒーター)を入れておきます。豆電球でなくてもかまいませんが、ヒーターは、容器内の温度が65℃以下(FRPを使用している場合、接着剤の融点がその附近にあるので)になるようにコントロールします。ものによっては、温度が違う場合があるので十分注意して下さい。
- 一週間程度、真空引きをした後、真空度が1.3×10-3Pa(1×10-5Torr)程度に達していれば問題がないので、容器の真空引き口のバルブを閉め、治具を外して終了となります。
- 容器の真空引き口のバルブを閉める際に、失敗することがあります。手早く栓をしないと真空が悪くなることもありますのでご注意下さい。
予冷について
液化室では、液体ヘリウム容器は液体窒素で予冷を行ってから、液体ヘリウムを入れています。その際、窒素はヘリウムより重いので、容器容量の3割程度までしか入れないようにご注意下さい。また、予冷は一週間程度行いますが、その間、やはり重量測定を行い、液体窒素の蒸発量を計測します。蒸発量が、0.1~0.3kg/day以下であれば液体ヘリウムを入れますが、それ以上であれば真空引きを再度行います。