加速器の設計概念
Super SOR Light Source の特徴は、
1、極低エミッタンスの実現
2、超長直線部の挿入
にあります。これらを実現するための設計概念は、設計粒子に対する「OPTICSの疑似24回対称性」と非線形要素(6極磁石)に対する「長直線部の透明性」です。これらを用いることで、大きなダイナミックアパーチャーが確保されます。
<極低エミッタンスの実現>
理論最小エミッタンスは、という式で表せる。ただし、
なる定数、
はローレンツ因子、damping
partition number
、
は偏向磁石の数である。即ち、理論最小エミッタンスはビームのエネルギーと偏向磁石の数に依存している。Super
SOR Ring においては、この理論最小値を実現できるノーマルセルを採用した。
ちなみに余談であるが、DBA(Double Bend Achromatic Normal Cell)
の場合、到達できる最小のエミッタンスはとすればよく、すなわち理論最小型の3倍である。TBA(Triple)
の場合、
であり、およそ2.3倍、QBA(Quadruple)の場合、
であり、2倍となる。偏向磁石2つごとに分散関数を消す、3つごと、4つごと、と、分散関数を消さないセルを延ばしていくと到達可能なエミッタンスはどんどん小さくなり、理論最小エミッタンス型ノーマルセルはすなわち分散関数を消さないノーマルセルとなる。
ノーマルセルのOPTICSは以下のようになる。
エミッタンスが小さいということは、強く絞っているということであって、必然的に色収差も大きくなってしまう。色収差の補正のためには6極磁石を用いるほかなく、6極磁石は諸悪の根元である。6極磁石の力は非線形であり、その最も邪悪な効果は、リングを共鳴に対して脆弱にすることである。これを避ける(弱める)為には、リングの対称性をあげればよい。高い対称性を持つリングに対しては、6極磁石によって共鳴線が励起されにくいのである。
ということである。
<長直線部の挿入>
画期的な実験を行うために今までにない強力な装置が必要である、ということで
29m の長直線部を挿入し、27m の長尺アンジュレーターを導入することとなった。しかし、長直線部はリングの対称性を破壊するため、ただ適当に入れただけではダイナミックアパーチャーがなくなってしまう。そこで、リングの対称性ということの意味を考えてみると、6極磁石(非線形力)に対する対称性が重要であるということが分かる。線形の
OPTICS はどうでもいいのである。各6極の間の位相の進みと Twiss Parameter
が等しければ、OPTICS がどうであれ、対称性が保たれ、ダイナミックアパーチャーが確保できる。
6極磁石の中の粒子の運動方程式は、である。すなわち、
という変換に対しては、運動方程式は不変である。従って、ある6極磁石と次の6極磁石の間にこの変換が入っても、6極磁石に対して何の効果も及ぼさない。つまり、入り口から出口までの転送行列が、水平方向は恒等変換
であり、垂直方向は
であれば、6極磁石はその部分の存在を知ることが出来ないのである。すなわち、長直線部の水平方向のチューンの進みを整数、垂直方向のチューンの進みを半整数とすれば、6極磁石に対して透明となる。
長直線部では分散関数を消さなければならない。感覚的にはノーマルセルの偏向磁石を2つに割って、その間に長直線部を入れるようにしているが、半分の偏向磁石(BH)の手前に四極磁石を加え、BHの出口で分散関数を消すようにしなくてはならない。透明性を保ち、対称性を確保し、分散関数を消す方法は、BH手前の最後の6極磁石の端までは、完全にノーマルセルと同じらラティスとし、BH直前の四極(QF)を2つに増やし、割ったノーマルセルと長直線部を合わせた部分の位相の進みを
直線部=異物=対称性を破壊
対称性…? = 非線形力に対する対称性である。
↓
直線部分のビームの運動が数学的に恒等変換になるように設計
↓
6極は直線部分が「見えない」
=非線形力に対する直線部分の透明性
↑↓
対称性の維持
ノーマルセルの対称性 → ビームは安定にまわる! 長直線部の透明性 |
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