データ解析・絶対強度補正

 小角散乱で得られる中性子散乱強度は、一般には相対散乱強度です。空気やセルなどの散乱の寄与を差し引くことで散乱強度のq依存性を得ることができます。慣性半径や散乱極大を正しく求めるためにはこの相対散乱強度が必要です。

 一方、高分子の分子量決定やミセルの会合数などを評価するためには絶対散乱強度が必要になります。相対散乱強度から絶対散乱強度への変換は、同一条件で標準試料を測定し、スケールファクターを乗じることで可能です。標準試料にはバナジウムや水が使われますが、SANS-Uでは取り扱いが容易で耐久性に優れたポリエチレンを使用しています。絶対強度を得るためにはいくつかの標準試料測定が必要になります。実験の流れのページにその手順があります。

 計算式は次のようになります。

 ここで、Iは散乱中性子のカウント数、tは測定時間であり、添え字は試料位置に置く物質を表します。添え字はそれぞれ、sample:解析したい試料(固体の場合はsolid sample、液体の場合はliquid sample)、B4C:入射ビームをブロックする吸収体、standard:非干渉性散乱のみを与える試料(ここではポリエチレン)、open:試料位置に何も置かない、を意味します。固体試料の場合は空気の散乱のみを、液体試料の場合は試料容器であるセルの散乱を差し引くことになります。dsampleは試料の厚み[cm]、cos3(2theta)は検出面での立体角および斜め入射の効果を補正する因子です。ここまでの計算結果が相対散乱強度です。

 さらに、標準試料の絶対強度補正因子mustandardを用いることにより絶対散乱強度が得られます。SANS-Uで使用しているポリエチレン(低密度ポリエチレン LDPE F200-0(2mm厚))の場合、mustandard0.0695という値です。従来ご案内していた0.0573や0.0745という値とは異なりますのでご注意ください。詳しくは以下の資料をご覧ください。

「波紋」入門講座 小角散乱入門
散乱強度から散乱断面積へ 長尾道弘・柴山充弘
日本中性子科学会誌「波紋」vol. 12 No. 1, 34-38 (2002). 掲載

低密度ポリエチレンF200-0の導入とその検証については「絶対強度標準試料F200-0の導入について」(2006.9.29)をご覧下さい。

 バナジウムを用いたSANS-Uの絶対強度補正の検証については「ポリエチレンを用いた絶対強度補正」(2006.8.17)をご覧ください。