伊予石&三崎石

 

No. IMA2013-130 伊予石 / Iyoite
No. IMA2013-131 三崎石 / Misakiite

MnCuCl(OH)3, Monoclinic (iyoite)
Cu3Mn(OH)6Cl2, Trigonal (misakiite)

Mn-Cu ordered analogue of botallackite (iyoite)
Mn-rich analogue of kapellasite (misakiite)

愛媛県佐田岬半島

Nishio-Hamane D., Momma K., Ohnishi M., Shimobayashi N., Miyawaki R., Tomita N., Okuma R., Kampf A.R., Minakawa T. (2017) Iyoite, MnCuCl(OH)3, and misakiite, Cu3Mn(OH)6Cl2: new members of the atacamite family from Sadamisaki Peninsula, Ehime Prefecture, Japan. Mineralogical Magazine, 81, 485-498.

伊予石 Iyoite
Fig. 1. 伊予石,淡緑色板状結晶の放射状集合体。

三崎石 Misakiite
Fig. 2. 三崎石,緑色六角結晶。

伊予石&三崎石 Iyoite &Misakiite
Fig. 3. 伊予石と三崎石の共存その1。伊予石はしばしば樹状集合(デンドライト)となる。先端部には三崎石を伴うことが多い。

伊予石&三崎石 Iyoite &Misakiite
Fig. 4. 伊予石と三崎石の共存その2。上の写真の先端部はこんな感じで,針状結晶の伊予石の先端に六角形の三崎石が生じている。

伊予石&三崎石 Iyoite &Misakiite
Fig. 5. 伊予石と三崎石の共存その3。同じく伊予石のデンドライトで,こちらは荒々しい。先端部には三崎石が伴われることがある

伊予石&三崎石 Iyoite &Misakiite
Fig. 6. 伊予石と三崎石の共存その4。伊予石は淡緑の針~板状結晶がデンドライトになっていて,デンドライトの終わりに三崎石の集合体ができている(中央)。三崎石は六角粒状が基本だが,伸びて板状になることがある(中央やや左)。

自然銅 Native Copper
Fig. 7. 鉱石の破断面。内部には自然銅が多く含まれる。

アタカマ石 Atacamite
Fig. 8. アタカマ石。緑が深い。今のところ明瞭な結晶は見いだせてない。共生している黄色がかった白い球状はクトナホラ石。

パラアタカマ石 Pratacamite
Fig. 9. パラアタカマ石。やっぱり緑が深い。こちらはたいてい結晶しており伊予石・三崎石とは形が異なるので簡単に区別はできる。米粒みたいなのはクトナホラ石

単斜アラカマ石 Clinoatacamite
Fig. 10. 単斜アタカマ石,たぶん本邦初産。こいつもやっぱり緑が深い。スピネルみたいな結晶面が見える。赤いギラギラは赤銅鉱,白っぽいのはやはりクトナホラ石。

三崎石 Misakiite
Fig. 11.これは三崎石。結晶が不定型だとアオサノリに見える。

愛媛県佐田岬半島からの新鉱物,「伊予石 / Iyoite」「三崎石 / Misakiite」である。黒色を背景にして翠緑色の新鉱物たちがぱぁっと展開する様はなんとも美しい。写真いっぱい撮っちゃったよ。二つの新鉱物の名前は佐田岬半島が面している二つの海域,伊予灘三崎灘にちなんで命名した。この新鉱物たちの生成には海が深く関わっているので,海の名前をいただいた理由の一つである。そして偶然にも「いよ」と「みさき」って女性の人名にも通じる響きで,そうなるとほら,愛媛といったらマドンナですよ。さらには二つの新鉱物はほとんど姉妹みたいなものだから,もういっそのこと鉱物界のマドンナ姉妹ってことでどうかな。

愛媛県佐田岬半島は四国の最西端に位置する日本一細長い半島で,リアス式の海岸には緑色片岩と呼ばれるささくれ立った緑の岩肌が林立しており,高台からの景色は実に風光明媚。2013年春,我々は調査の足をその佐田岬半島に伸ばしたところだった。目的は海岸線にある銅鉱床の調査で,転がっている鉱石をかち割ると内部には自然銅がたくさん含まれている。一般的に銅鉱石が海水の影響で風化する際に生じる二次鉱物として,いわゆる「アタカマ石」というのが知られている。アタカマ石は透明感のある濃緑色の結晶で,銅鉱石と海水の成分をたせばできあがるし,まあたいして珍しくはない。もちろん今回の調査地でもアタカマ石が産出することはずっと以前から知られていた。それでもこの場所を訪れたのは「しらす食堂」が近くにあったから・・,いやいや,その鉱床が普通とは異なり多量のマンガンを含んでいたからだ(普通の銅鉱床にはマンガンは少なく鉄が多い)。どっちが本音かは読者の想像にゆだねよう。まあでもこういった鉱石が海水の影響で風化されると普通の銅鉱床とはなにか違いがあるだろうか。

野外に放置された鉄の多い銅鉱石は表面が赤茶けた色に変色するのに対し,マンガンを多く含む鉱石は真っ黒に変色するのが特徴である。現地にも真っ黒な石が多数あった。目的はこの石の表面ではなく,ちょっと内側にある。風化作用にはざっくりと機械的風化化学的風化があり,前者は破砕的な作用で後者には溶解や分解といった化学反応が伴われる。例えば海岸や河川の石がまるくなっているのが機械的風化の一つで,しばしば化学的風化の影響をはぎ取ってしまう。一方で石のちょっと内側は機械的な作用が及びにくく,化学的風化の影響が強く残ることが多い。そんなわけでとりあえず手近な真っ黒な石をハンマーで割ってみたら,さっそく苔みたいな緑の物体がへばりついていた。「ああ,アタカマ石だな」と。さて他にはどんなのがいるかなといくつか割ってみるも,緑のモノ以外はせいぜい赤銅鉱が見える程度で,これも銅鉱石の風化で生じる鉱物としては一般的。なんだ普通の銅鉱床と変わらないなあという感想を持って野外調査は終了。でもその感想は結果的にはハズレだった。

試料を実体顕微鏡で観察したところ,思わず息をのんだ。苔のような物体はまったくの予想外に美しかったのだ。それでも最初にこの結晶を見てすぐには新鉱物を連想できなかった。ところが写真を撮り始めるとなんだか違和感が・・。結晶の形もまあそうなんだけど,やっぱりが変だよ。そうだアタカマ石にしては色が淡すぎる。鉱物の形はケーズバイケースだけども,色は元素の種類が反映されるので色に違和感を覚えたらそれは要注意のシグナルである。ここでアタカマ石の化学組成を見てみよう。その化学組成はCu2Cl(OH)3で,特徴的な濃緑色は主成分の銅(Cu)に由来している。この銅が他の元素に置き換えられているなら色は変化しても良いはずである。そして今回の結晶は二酸化マンガンの上に鎮座している。となるとそうですよ,よくよく見れば状況証拠はそろっているじゃないですかい。そう思って分析してみたらやっぱりマンガンが検出されたのである,それもことごとくCu:Mn=1:1か3:1とかいう割合。さらに詳細を調べて二つとも新鉱物であることが確定した。

伊予石・三崎石はどちらもアタカマ石類縁鉱物ではある。しかしそれにしてもアタカマ石類縁鉱物は構造の種類が多い。まず,Cu2Cl(OH)3組成にはアタカマ石型ボタラック石型単斜アタカマ石型アナタカマ石型がある。Cuが完全にMnに置き換えられた鉱物としてはKempiteという鉱物がすでにあって,これはおそらくアタカマ石型構造。ただこいつは今回は見つからなかったな。まあそれはおいといて,伊予石はMnがややCuを上回るものの,だいたいCu:Mn=1:1の組成をしていた。この割合には意味があって,構造中でCuとMnが異なる席に着いている(対称化)。結果的に伊予石はMnCuCl(OH)3組成のボタラック石型構造の新鉱物だった。さて,Cu3M(OH)6Cl2Mに2価陽イオン)という化学組成だとパラアタカマ石型ハーバードスミス石型カペラス石型がある。三崎石はM = Mn組成のカペラス石型の新鉱物で,こちらもCuとMnは異なる席にいる。二つの新鉱物の構造は密接に関連していて,同時に産出するというのは納得いくのだが,説明は専門的になりすぎるのでその役目は論文に託そう。

さあ肉眼鑑定のポイントに移ろう。伊予石三崎石以外に確認できたアタカマ石類縁鉱物は,アタカマ石パラアタカマ石単斜アタカマ石(Fig9-11)。これらは伊予石・三崎石とはあまり共生しない。それは含まれるマンガン量がまったく違うからだと思う。実際にパラ・単斜・アタカマ石に含まれるマンガン量は微々たるものであった。また産状的に伊予石・三崎石は二酸化マンガンの上に直接いることが圧倒的に多いが,他の3種はクトナホラ石を背景に置く場合が多い。鑑定ポイントはそういう産状と,色(透明感も)と形。伊予石・三崎石はパラ・単斜・アタカマ石よりも淡く透きとおった緑が特徴です。二酸化マンガンを背景にフェンネルのような造形が見えたらそれが伊予石だ。伊予石は放射状になったりもする。三崎石は六角形の板が見えたら確実だが,結晶形が不定の場合はアオサノリのようになる(Fig.11)。でもそれはパラ・単斜・アタカマ石とは異なるので区別できると思う。他にはそうそう,どうやら単斜アタカマ石は本邦初産になるのかな。濃緑色のスピネルみたいな形なのでこっちはすぐに判別できると思う。でもここに書いたのはあくまで典型例。微妙なやつも多いから総合的には肉眼鑑定は難しい。

ついでに鉱石本体のほうも書いておこう。鉱石の表面は真っ黒であるが,内部は新鮮で,かなりの部分を紫がかった褐色のハウスマン鉱が占め,若干赤みを帯びてくるようなところにはヤコブス鉱も含まれる。そういったハウスマン鉱(+ヤコブス鉱)集合体を切るようにテフロ石(灰緑色)+バラ輝石(淡紅色)の脈が入っており,所々でレンズ状に拡張している。最終的には全体を方解石や菱マンガン鉱の細脈が切っている。自然銅はその細脈にきているようで,うまく割れると一面に独特な銅色がぶわっと展開する。その他に特徴的なのはパイロファン石だろうか,やはり細脈にともなわれることが多い。サイズがかなり小さいので肉眼だとチカチカするだけだが(ルーペでも厳しい),実体顕微鏡下では赤褐色の鱗片状結晶がみえる。

銅+海水->(パラ)アタカマ石というのはほとんど常識になっていて,鉱物に慣れた人ほどあっさりそう断定してしまう。もちろん私もそう,偉そうに言える立場ではない。それでも多くの人がこの産地の鉱物を(パラ)アタカマ石だと常識的に判断していたことは,なんというかラッキーだった(申し訳ない気もするが・・)。というのも,私はこの産地を初めて訪れたのだが,ここは昔に採集会が開かれたこともあるらしく,すでに標本を持っている人も多い。実際に昨年のミネラルマーケットでも模式地標本がアタカマ石のラベルで並んでいたのを見かけた。そしてその標本を手に取っておもわず苦笑い。だって,すでに標本が流通している状況で誰かがふとアタカマ石類縁鉱物の多様性に気づけば,産状からMnを含んだアタカマ石類縁鉱物を連想するかもしれない。その可能性を疑って標本を観察するとそれはもうアタカマ石には見えないよ。我々より前に他の誰かが新鉱物を見いだしてしまうことは十分にあり得た話である。それにその標本を見たときはまだ新鉱物の申請をしてなかったのだ。それでも私はそのワンコイン標本を売り場に戻して,ちょっと動揺しながらも売り子さんには「これは良いものですよ」と言った。「じゃあ買えよ」って顔されたけど。

いざ採集っと席を立つ前にまずは手持ちの標本をよっく見てみようよ,それすでに新鉱物じゃない?

追記>
伊予石・三崎石とは無関係だが,鉱石の破断面にチカチカする鉱物について追記。どうやら2種類あることが判明し,一つは前述のパイロファン。もう一つはクレドネル鉱(crednerite, CuMnO2)でした。以下,写真。
パイロファン石 Pyrophanite
これはパイロファン。赤い。

クレドネル鉱 Crednerite
これはクレドネル鉱。黒い。

 Posted by at 4:24 PM

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