新鉱物

 

「鉱物」とは自然界に存在する物質のうち「地質作用で生じる、一定の化学組成と結晶構造をもつ固体物質」のことを指す。宇宙が誕生し、星々が作られ、地球が生まれ、大地や海ができて今の姿になる。その過程(地質作用)で生まれた物質が鉱物である。地球に飛来した隕石、月の石、はやぶさが持ち帰った小惑星のかけらも鉱物からできており、鉱物には地球や太陽系だけでなく宇宙の歴史が刻まれていると言えるだろう。

鉱物は一部の例外を除くと一定の化学組成と規則的な原子の並び(結晶構造)を持つ。それは化学組成と結晶構造を基準に個々を区別できることを意味しており、個々は分類学上の「種(しゅ)」という基本単位となる。この分類法を用い現時点では5,000 種以上の鉱物が知られている。地球を未解読の古文書」にたとえると、鉱物は「単語」にあたり、鉱物の中身である化学組成と結晶構造は単語を構成する「文字」とみなすことができる。もし新しい鉱物を見つけたらそれは古文書解読のためのキーワードを新たに見つけたことにもなる。

これまでに知られていなかった新しい鉱物が「新種」であり、鉱物の場合はその「新種」のことを「新鉱物(new mineral)」と言う。ただし新鉱物は勝手に名乗ることはできない。1958年に国際鉱物学連合(Internal Mineralogical Association)が設立され、翌年からは専門の委員会で新鉱物の審査と承認が行われるようになっている。今では新鉱物・鉱物・命名委員会(Commission on New Minerals, Nomenclature and Classification)が鉱物に関する審査を一手に担っている。新鉱物を名乗るにはこの委員会で承認される必要がある。

ここでは自分の新鉱物と称して、自身が発見に関わった新鉱物について、その経緯や研究経過など論文では書かないことを紹介しようと思う。

日本から発見された新鉱物たちの一覧はこちらを参照ください。

  1. 初山別鉱 / Shosanbetsuite (2018-162)
  2. 留萌鉱 / Rumoiite (2018-161)
  3. ランタンピータース石 / Petersite-(La) (2017-089)
  4. 金水銀鉱 / Aurihydrargyrumite (2017-003)
  5. 神南石 / Kannanite (2015-100)
  6. 豊石 / Bunnoite (2014-054)
  7. 三崎石 / Misakiite (2013-131)
  8. 伊予石 / Iyoite (2013-130)
  9. ランタンフェリアンドロス石 / Ferriandorosite-(La) (2013-127)
  10. ランタンフェリ赤坂石 / Ferriakasakaite-(La) (2013-126)
  11. 今吉石 / Imayoshiite (2013-069)
  12. 岩手石 / Iwateite (2013-034)
  13. 足立電気石 / Adachiite (2012-101)
  14. ランタンバナジウム褐簾石 / Vanadoallanite-(La) (2012-095)
  15. 箕面石 / Minohlite (2012-035)
  16. 伊勢鉱 / Iseite (2012-020)
  17. イットリウム高縄石 /Takanawaite-(Y) (2011-099)
  18. 宮久石 / Miyahisaite (2011-043)
  19. 愛媛閃石 / Chromio-pargasite (2011-023)
  20. 桃井石榴石 / Momoiite (2009-026)
  21. ストロンチウム緑簾石 / Epidote-(Sr) (2006-055)

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No. IMA2018-161 留萌鉱 / Rumoiite
No. IMA2018-162 初山別鉱 / Shosanbetsuite
模式標本:国立科学博物館(NSM M-46178, 46179)

AuSn2, Orthorhombic (Rumoiite)
Ag3Sn, Orthorhombic (Shosanbetsuite)

Known synthetic analogue

北海道初山別村(初山別川)

Nishio-Hamane D. and Saito K. (2019) approved on April 2019.

新鉱物を含む砂金
留萌鉱および初山別鉱を含む砂金。この裏側は研磨してあり、新鉱物はそこから見つかった。

平成時代最後の日本産新鉱物 となった「留萌鉱(Rumoiite)」および「初山別鉱(Shosanbetsuite)」である。日本産新鉱物の研究史をたどると、平成時代は開幕も閉幕も北海道が舞台となっている。平成で最初の新鉱物は北海道札幌市豊羽鉱山から見出された豊羽鉱(Toyohaite)であり、平成時代の最後を飾る新鉱物が北海道初山別村から見出された留萌鉱と初山別鉱になる。これらは平成31年4月3日に国際鉱物学連合から承認を受けた。

さて、このたびの新鉱物は初山別村を流れる初山別川から採集された砂金の中から見出され、それぞれ金(Au)と銀(Ag)を主成分に持つ。それだけ聞くときらびやかな印象を受けるだろうが、実はその姿は肉眼では捉えられないほどものすごく小さい。さらにこの新鉱物たちは砂金に包まれており、外見からはその存在が全くわからなかった。実際のブツの写真はあとで掲載するとして、ひとまずは経緯から書いていこう。

研究のきっかけは数年前にさかのぼる。以前に愛媛県南予をフィールドとして調査を行っていた中で、想定外の場所から砂金・砂白金を見出すことができた。そしてその活動は新鉱物「金水銀鉱(Aurihydrargyrumite)」の発見という成果にもつながった。このときの研究は主に3人で取り組んだが、その後は各々の興味に基づいた活動を始めることになった。一人は地元でより深く調査を行うことを指向し、もう一人は自身のアイデアを元にして新産地(特に砂白金)を探し始めた。そして私はといえば、砂金や砂白金の持つ情報が例えば生成環境のトレーサーとして使えるかどうかを見極めたく、まずはその実物を調べる経験を積むことにした。
 

金水銀鉱  Aurihydrargyrumite
2017年に見出された新鉱物・金水銀鉱(銀白色部)。これを見出したところから砂金・砂白金について興味を持ち始めた。
 

そのために、なるべくいろんな産地から試料を手に入れて分析するということをしていた。その過程で改めて感じたが、砂金・砂白金の研究は試料の入手がやっかいだ。思ったようにはコトが運ばないと言ったほうが妥当かもしれない。それでもなんとか試料を確保して小さな理解が少しずつ進んできた。そこで、いくつかの産地の砂金・砂白金について色・形と化学組成をいつでも見られるようにしておくと(自分が)便利だなと思い、自然金のページを作って情報をいくつか並べていた。

この自然金のページは産地・写真・組成という内容を主としているが、自分用のメモのつもりだったので他にもさまざま並べた雑多な内容になっている。他の人にはあまり役立つものではないだろうが、これが新鉱物への縁となった。今回の研究に参加している齋藤勝幸さん(留萌市在住)は、不定期に更新されるこの自然金のページに注目していたようだ。

 
多摩川の砂金
多摩川で採集した砂金。自然金のページにはこのようにいくつかの産地について砂金・砂白金の写真とその分析値を並べていた。
 

齋藤さんは砂金堀りコーディネーターとして独自の理論と経験があり、自然金のページについてコメントがあるということで連絡が来た。そして砂金・砂白金について話をする中で考えを共有できる部分もあり、北海道・留萌管内の産地を案内してもらう交渉がまとまった。北海道の砂金・砂白金について、特に砂白金は特定の蛇紋岩体から産するものがすでにたいへん有名で、鉱物学的な研究もそういった産地のものに対して行われてきたが、その他の産地となると情報がとたんに乏しくなる。そして留萌管内の砂金・砂白金というのは弥永氏の著作[1]に産出が記されおり写真も掲載されているのだが、具体的な研究例が見当たらない。そのため、留萌管内の砂金・砂白金について私はその実体をまったく把握できていなかった。

[1] 弥永芳子 (2006) 砂白金~その歴史と科学~. 文葉社, pp233.

留萌管内の地質は年代の異なる地層が組み合わさっているが、ざっくり言うとどこも堆積岩ばかりである。そして変成や変質作用をあまり受けておらず、この地域は保存状態が良好な化石を豊富に産出する。たとえばアンモナイトなどさして珍しくもない。河川の上流にも火成岩や蛇紋岩の分布は全くないため、本州・四国を調査してきた自分の経験からすると、こういった地域では砂金や砂白金の産出はまず期待できない。しかしながら実際は簡単に採集できる。ここで?という場所で砂金や砂白金が採集でき、この地域では自分の見立てが役に立たないことを思い知った。驚いたことに、ある場所では磁鉄鉱やクロム鉄鉱を主体とした重砂がほとんどなく、パンニングで残る砂は白い石英ばかりという状況にも関わらず、唐突に立派な砂白金がゴロっと出てくる。一方で砂金は全く出ないなど、もうわけがわからない。

 
砂金(左)と化石(右)
初山別川から得られた砂金(左)と化石(右)。砂金を採集する過程で黄鉄鉱化した化石も混じることがある。ただしこの化石が何であるのかは専門でないのでわからない。
 

初夏の季節に齋藤さんの案内で留萌管内において調査を行った。初山別村ではいくつかの川で上流~中流域をざっと見て、所々でいわゆる「盤(ばん)」が出ていることを確認した。初山別川では採集を行いやすい場所を案内してもらい、そこでもやはり盤は露出している。見晴らしも良く、ここならもし熊に出くわしても逃げる余裕がありそうだなと気持ちが落ち着いた。そして改めて足下の盤を観察すると、層理が水流と平行であり、川底や溝にたまっている土砂はほとんどない。草が生えている部分にはもちろん多少の堆積があるが、良質な寄せ場とはちょっと思えなかった。それでも川岸の土砂をパンニングすると予想外に多くの砂金・砂白金が入ってくる。あいにく小雨が降る日であったが、時間が過ぎるのも忘れるほど集中して採集ができた。そして数日かけて留萌管内のいくつかの場所で採集を行い、以前に齋藤さんが採集した試料も少し分けていただいた。
 

初山別川
初山別川の下流域。盤は凸凹の少ない砂泥質岩で、層理は水の流れと平行している。堆積物は基本的に薄ぺらい。
 

こうして留萌管内の砂金・砂白金が手元にやってきた。そしてまずは砂白金の方に手を付けた。すでに有名となっている蛇紋岩地域から得られる砂白金はルテニウム(Ru)-オスミウム(Os)-イリジウム(Ir)を主体とした合金が圧倒的に多い。それに少量のプラチナ(Pt)-鉄(Fe)合金が伴われ、それ以外となると非常に稀となっている。この特徴は砂白金の供給源となっている蛇紋岩がいわゆる枯渇したマントル物質であることに由来する。つまり相対的に液相濃集元素であるパラジウム(Pd)-ロジウム(Rh) -プラチナ(Pt)成分はすでに抜けたあとの蛇紋岩が起源だから、相対的に固相濃集元素であるルテニウム(Ru)-オスミウム(Os)-イリジウム(Ir)ばかりが多くなる。この傾向が堆積岩が主体の留萌管内ではどうかと思って調べているところである。まだ途中の段階ではあるが、これまでに日本では報告されていない白金族の鉱物が砂白金の中にパラパラと見つかるという成果は得られている。この結果はまた近いうちに鉱物学会などで報告するとして、では砂金の方はどうだろうか。

 
初山別川の砂金と砂白金
初山別川で採集した砂金と砂白金。留萌管内の特定の場所からの砂白金にはザッカリニ鉱(Zaccariniite)という珍しい鉱物も含まれていた。
 

砂金(砂白金もそうだが)に対して何を調べるかというと、表面や内部の組織および化学組成を見ていくことがまずは基本となる。表面だけなら砂金は壊さずにそのまま調べることが可能だが、内部はそうはいかない。内部を調べるためには、砂金をスライドガラス上に樹脂で固定して、おおむね元の半分程度の厚みになるまで手で研磨する。そうやってできた試料を観察するため、単純に半分は消し飛んでいる。このような過程で現れたのが今回の新鉱物、留萌鉱と初山別鉱であった。砂金の厚みが100ミクロン以下であっても手の感覚だけを頼りにざっくり研磨していたので、加減が少し違っていれば今回の新鉱物は気づかれることなく消滅していただろう。

 
新鉱物を含む砂金の断面
留萌鉱および初山別鉱を含む部分の反射顕微鏡写真。
 

できあがった研磨薄片には金とは異なる鉱物が含まれていた。電子顕微鏡でその部分を観察すると、数ミクロンの粒状の鉱物とその隙間を埋めるいくつかの鉱物からなっている。粒状の鉱物からは金(Au)と錫(Sn)が同じ割合で検出され、これは元江鉱(Yuanjiangite)という鉱物であった。元江鉱は中国で1994年に見出され、今でもまだ世界に数例しか報告のない非常に珍しい鉱物となる。そして元江鉱の隙間を埋めている不定形の鉱物は何かというと、大部分は自然鉛(Lead)であったが、さらによく見ていくと自然鉛とはコントラストの異なる部分が二箇所ある。それらが留萌鉱と初山別鉱になる(下の写真)。数ミクロンからそれ以下というとんでもなく小さいサイズだが、これまでの経験を駆使して何とか新鉱物の申請に必要なデータが集まった。

 
SEM image for new minerals
留萌鉱および初山別鉱を含む部分の電子顕微鏡写真。留萌鉱と初山別鉱は本当に小さな小さな新鉱物となる。
 

留萌鉱と初山別鉱は砂金の内部に存在した。こういった産状はなにも留萌鉱や初山別鉱に限ったことではなく、砂白金の方でも珍しい鉱物はその内部に存在することが多い。そのため研磨薄片を作ることは砂金・砂白金研究の基本となる。ただし薄片を作れば粒の半分ほどは消し飛び、うまく研磨できたとしても特に何にも見いだせないこともまた多い。その場合はさらに研磨と観察を繰り返し、何も無ければ最終的にすべて失せる。入手に苦労した貴重な砂金や砂白金が、なんら新しい知見も無しに消滅することを何度か体験した。特に初期の段階では手加減の練習もかねていたので、けっこう消えた。うーん、つらい。それでもごく稀に今回のようなことあるので、新しい発見のためには必要なコストだと割り切るしかない。

留萌鉱や初山別鉱の学名について。今回の新鉱物は特に何かのグループに属している訳ではなく、学名については著者が自由に決めることができる。そして今回は地名を採用した。金を主成分に持つ留萌鉱に関しては、産地が留萌管内にあるという理由から学名を「Rumoiite」と決めた。銀を主成分とする初山別鉱のほうは、産地の初山別村に因んで学名を「Shosanbetsuite」とした。そして留萌および初山別はアイヌ言葉に由来する。北海道庁の解釈では、留萌はアイヌ語の「ルルモッペ」から来ており、「潮汐がいつも静かな川」という意味らしい。初山別についてはアイヌ語の「ソエサンペ」に由来し、「滝がそこで流れ出ている川」という意味をもつとされる。ただし地名の漢字表記は単にアイヌ語の発音に漢字を当てただけのようで、個々の漢字の持つ意味から本来の意味はたどれない。

天然に産出する留萌鉱や初山別鉱の実体はせいぜい数ミクロンしかない。私がこれまでに見つけてきた新鉱物の中でも最小のサイズとなる。光学顕微鏡でも見えないほどで、なんとも寂しいとしか言いようがない。その一方で留萌鉱や初山別鉱と同じ化学組成・結晶構造を持つ物質はすでに合成されている。逆に言うと、合成物の研究がすでにあったからこそ今回の研究が可能でもあった。それはともかくとして留萌鉱や初山別鉱は合成できるということなのだから、身近な研究室の学生さんに作ってもらった。

 
留萌鉱(合成)/ Snthetic rumoiite
留萌鉱の合成結晶(by Y. Matsubayashi)。やや鈍い銀色。

 

初山別鉱(合成)/ Synthetic Shosanbetsuite
初山別鉱の合成結晶 (by Y. Matsubayashi)。明るい銀色。
 

留萌鉱は金(Au)と錫(Sn)からなり、AuSn2の化学組成をもつ物質に相当する。金を主成分とするため黄色っぽくなるかと思いきや、できあがった結晶は予想外に銀色の物体であった。そして金は叩けばいくらでも薄くなるが、留萌鉱は叩くと木っ端みじんになる。初山別鉱のほうは銀(Ag)と錫からなっており、Ag3Snの化学組成をもつ物質が該当する。結晶が成長しやすいようで、合成物は平板が何枚も重なった姿で得られた。なかなか格好がよいが、衝撃に対してこちらもやはり脆い。留萌鉱や初山別鉱について風化環境での耐性はまだよくわからないが、天然で見つかったのは砂金が梱包材の役割を担っていたからだと思う。また留萌鉱に相当する鉱物や類似の金-銀-錫鉱物はスイスやロシアのカムチャツカ半島から実はすでに報告されており、いずれもやはり砂金に伴われて産出する[2-4]。特にカムチャツカ半島のほうは今回の研究とよく似た産状となっている。

[2] Meisser N. and Brugger J. (2000) Alluvial native gold, tetraauricupride and AuSn2 from Western Switzerland. Schweiz. Mineral. Petrogr. Mitt., 80, 291-298.
[3] Sandimirova E.I., Sidorov E.G., Chubarov V.M., Ibragimova E.K., Antonov A.V. (2013) Native metals and intermetallic compounds in heavy concentrate halos of the Ol’khovaya 1st River (Kamchatsky Cape, East Kamchatka). Zapiski Rossiiskogo Mineralogicheskogo Obshchestva, CXLII, N6, 79-89.
[4] Sandimirova E.I., Sidorov E.G., Chubarov V.M., Ibragimova E.K., Antonov A.V. (2014) Native metals and intermetallic compounds in heavy concentrate halos of the Ol’khovaya 1st River, Kamchatsky Mys Peninsula, Eastern Kamchatka. Geology of Ore Deposits, 56, 657-664.

当初のもくろみであった「トレーサーとしての砂金や砂白金」について。留萌管内というのはそのポテンシャルを評価するのに良いフィールドであると思う。留萌管内の砂金・砂白金はいま露出している蛇紋岩が直接その起源になっておらず、供給源となったはずの岩石はすでに消滅している。過去にあったはずの岩石については想像するしかなく、そういった時に砂金や砂白金の持つ情報は役立つはずである。例えば今回の新鉱物が現世のカムチャツカで見つかったものと同じ成因なら、それは大規模に熱水変質を受けた超苦鉄質岩がかつての北海道に存在したことを意味するのかもしれない。すでに消えた岩石であってもそこから供給された物質が現世に残っていれば、それを調べることによってオリジナルの姿を再現することはできるはずで、そのために今はまだ砂金や砂白金のデータを集めている。そういった思惑の中で新鉱物という予想外の結果が出たことは本当に喜ばしい。平成時代最後の日本産新鉱物というおまけもついた。

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IMA No./year: 2017-089
IMA Status: A (approved)
模式標本:国立科学博物館(NSM M-45621)

ランタンピータース石 / Petersite-(La)

Cu6La(PO4)3(OH)6・3H2O

Mixite group

三重県 熊野市 紀和町

出典:Nishio-Hamane, D., Ohnishi, M., Shimobayashi, M., Momma, K., Miyawaki, R. and Inaba, S. (2018) Petersite-(La), IMA2017-089. CNMNC Newsletter No. 41, February 2018, page 230; Mineralogical Magazine, 82, 229–233.

ランタンピータース石 / Petersite-(La)
写真1. 新鉱物、ランタンピータース石のタイプ標本。ウニのような放射状集合が特徴的。

三重県熊野市からの新鉱物「ランタンピータース石 / Petersite-(La)」。ミクサ石グループ(Mixite group)の一員で、レアアースのランタン(La)を主成分とする銅リン酸塩鉱物である。三重県というのは多くの鉱物産地がある割には新鉱物がなかなか見つからない、そんなことを言われていた時期がかつてあった。ところがこの10年ほどの期間で最も多くの新鉱物が発見された都道府県は三重県になる。2007-2017年の間で、今回のランタンピータース石を併せて9種の新鉱物が三重県から発見されている。潜在性はそもそも大きかったということだろう。

ランタンピータース石は二次鉱物というカテゴリーに分類される。二次鉱物というのはもとあった鉱物が環境の変化によってまた別の異なる鉱物になったものを指す。いろんな環境で様々な姿で出現するために人目を引くことも多く、全体的に色彩豊かであることから二次鉱物は鉱物愛好家には人気がある。ランタンピータース石は気に入ってもらえるだろうか。

今回は新鉱物が誕生するまでの過程を時系列で振り返ってみようと思う。私にとっての始まりはたしか2015年の秋頃だったと記憶している。愛媛大の皆川氏を経由して3点の試料を受け取った。それは今回の著者の一人である稲葉氏が皆川氏へ鑑定を依頼したが、皆川氏のところでは出来ないということで私に回ったきた(丸投げされた)話である。送られてきたブツは砂岩の空隙に淡緑色のほっそい針が不完全な放射状でパラパラ散らばっている標本であった(写真2)。

セリウムピータース石 / Petersite-(Ce)
写真2.皆川氏経由で送られてきた最初の標本。不完全な放射状集合で、結晶も非常に細かった。これはほとんどがセリウムピータース石であった。

結晶はとても細い上に脆く、さらには量が少ないので分析が難しい。それでも何とか分析してみると、「セリウムピータース石」と同定された。この産状でレアアースを主成分とするピータース石が出ることにまず驚いたが、その当時、セリウムピータース石はアメリカでほんの1年前に発見されたばかりの鉱物だった。これにも驚いた。皆川氏のもとへ最初に試料が渡ったのはさらに数年遡るということだったので、私のところへ来るのがもう少し早ければもしかしてと思ったが、まあしょうがない。2015年末頃には本邦初産、世界でも二番目のセリウムピータース石ということを稲葉氏に伝えた。

年が明けて2016年。その年の鉱物学会で「本邦初産のセリウムピータース石」を発表しようと考え、3月に現地調査をした。このあたりには砂岩と泥岩ばかりが分布しており、泥岩はたまに石炭を胚胎する。そういった堆積岩に熊野酸性岩類と呼ばれる火成岩がドカンと貫入し、硫化物を伴う熱水が発生したようだ。熱水が堆積岩を様々に貫き、大規模に発達した黄銅鉱・黄鉄鉱鉱床を採掘していたのが紀州鉱山になる。ところが紀州鉱山からみて北側に位置する河川は同様の地質ながらも一見して鉱石は見あたらず、不毛な砂岩と泥岩がただ転がっているばかりであった。それでもよーく見て歩くとたまにやたら錆びた石がみつかる。その本体はやっぱり砂岩・泥岩であるが、中に少量の黄銅鉱を含み、割ってみると青や緑色の二次鉱物が見えた(写真3)。自分で採集した石や以前に稲葉氏が採集した石なども持ち帰り、もう少し調べることにした。

河原の転石
写真3.新鉱物が見つかった河原の石。砂岩と泥岩ばかりだが、まれに黄銅鉱を含み、二次鉱物を伴う石が見つかる。そういった石の表面は例外なく褐色に錆びている。

当初は参考程度のつもりだったのでいくつか適当に結晶をピックアップして分析を始めた。そうした中でセリウムよりもランタンが多い試料があることに気付いた。実のところ最初の試料でもいくつかランタンが多い結晶はあったのだが、全体的にはセリウムのほうが多数派だったので、あまり重要視はしていなかった。ところが今回は明らかにランタンが多数派を占める試料が存在している。ランタンピータース石なら新鉱物になる。改めて試料とそのミリ単位の空隙の一つずつにも番号を振って、記録を取りながらさらに調べ始めた。「もしかしてランタンピータース石という新鉱物になるかも」という旨を稲葉氏に伝えたのは2016年の初夏だったと思う。そして鉱物学会への発表も見送り、調査に専念することにした。

期待が生まれたあと、時間はかかったがどうにかデータがそろった。申請書を提出したのは2017年の秋になる。そして2017年12月に承認通知を受け、ランタンピータース石が誕生した(写真4)。最初の試料を受け取った時から数えて2年あまりが経過していた。

ランタンピータース石 / Petersite-(La)
写真4.タイプ標本の写真。不完全な放射状集合には絹糸光沢がよく見える。クリソコラの上にランタンピータース石は産出する。

さて各論に入ろう。まずはピータース石。種類としてはランタンとセリウムに富む二種類があるが、共存することもあり見た目ではわからない。そのため見つけたらラベルは両方を記すことでよいだろう。ここではピータース石としての特徴を記す。ピータース石は黄緑色の六角柱状結晶が本来の姿であるが、あまりに細いのでルーペ程度では針状に見える。もしルーペでも六角が確認できたらそれは最上級の標本であろう。いずれにせよ結晶が放射状に集合し、ウニのようになっている状態が欠損のない完璧な姿である。しかし多くは不完全な集合体であり、ほうきのように見える集合も多いほか、数本の針が散らばっている貧弱な状態も見かける。それでも不完全な集合体では特徴的な絹糸光沢がむしろよく見える。半球状の集合体では中心と外側では色味が異なっているように見えるが、それは結晶の密度の違いであってモノは同じである。産状としてピータース石は例外なくクリソコラの上に生じる。下地となるクリソコラの厚みは様々だが、それを剥ぐと下には水晶がいることが多い。銅成分を溶かし込んだ液体が晶洞にとどまり、クリソコラを沈殿させ、最後にピータース石が生じたと思われる。同様の産状でアガード石、孔雀石、擬孔雀石、ブロシャン銅鉱も生じている。これらも写真を見ていこう。

アガード石」について。この鉱物はピータース石のヒ素置換体に相当し、ピータース石とは連続的に組成が変化する。多くの場合はアガード石側の組成にうっかり足を踏み込んだという結晶であり、そういったモノはピータース石と全く判別がつかないので肉眼鑑定ではどうにもならない。その一方でアガード石ばかりの晶洞も見つかっている。そのアガード石はピータース石に比べて緑色の質がやや異なる印象をうける(写真5)。産状や姿形は共通だが微妙な色加減は異なるので、両方をならべて比べると目の肥えた愛好家なら判別できるかもしれない。アガード石はランタンアガード石が見つかっているが、ピータース石に比べてアガード石だけの産出は例が少ないので調査はあまり進んでいない。また、観察した範囲内ではアガード石はこの産地で唯一の砒酸塩鉱物である。

ランタンアガード石 / Agardite-(La)
写真5.ランタンアガード石(写真幅約3ミリ)。ピータース石とはわずかな色味の違いしかない。並べて比べてもその差は微妙。非常に薄いがアガード石の下もやはりクリソコラ。

クリソコラ上にはピータース石(アガード石)と同じ産状で、似たような放射状集合で産出する紛らわしい鉱物がいる。本来なら真っ先に想定するありふれた二次鉱物だが、ピータース石を先に見ると思い浮かばない(写真6)。これは「孔雀石」である。ピータース石(アガード石)に比べると明らかに青みが強いが、野外においてルーペで観察するという状況で思いこみもあると初見で判別できなかった。ピータース石(アガード石)と並んで生じることもあり、それだと違いはまあわかる(写真7)。当たり前だが孔雀石の産出は多い。産出場所はクリソコラ上に限定されず、褐色にさびた空隙にクリソコラの下地なしに入っていることもある(写真8)。惑わされないように。

孔雀石 / Malachite
写真6.孔雀石。ピータース石やアガード石は色の系統が異なるが、形状はかなり似ている。ルーペではなかなか判別しづらい。特にクリソコラが下地になっている場合だと肉眼鑑定は難しい。

Malachite and petersite
写真7.孔雀石。中央にいる鉱物が孔雀石で、周りに散らばっている針が束になったような集合体はピータース石(アガード石)。並んで産出するとこれらはやっぱり違うものと認識できる。

Malachite
写真8.孔雀石。形と色はピータース石(アガード石)と非常に紛らわしいが、クリソコラの下地が全く無い産状で放射状になる鉱物は孔雀石と判断して差し支えない。

クリソコラの上には一見して濃緑色の皮膜に見える部分が存在することがある。それを拡大して見ると実体は透明感のある球形の集合で、孔雀石を伴っていることが多い(写真9)。これは「擬孔雀石」であった。擬孔雀石は銅のリン酸塩鉱物なので組成的にピータース石に近いと言えるのだが、共存する例は少なく、一見して被膜に見える擬孔雀石にピータース石が伴われる試料はまだ見つけていない。擬孔雀石とピータース石が共存する場合は、ピータース石はかなり貧弱であり、そのとき擬孔雀石自体は被膜様のモノよりもちょっと大きな球になっており色味も異なっている(写真10)。

擬孔雀石 / Pseudomalachite
写真9.擬孔雀石。透明感のある濃緑色の小さな球。孔雀石(左上と右下の淡緑色部)を伴うことが多い。このタイプの擬孔雀石にはピータース石はこないようだ。下地は厚めのクリソコラ。

Pseudomalachite and petersite
写真10.擬孔雀石(濃緑色球状)とピータース石(黄緑色針状結晶)。このタイプの擬孔雀石にはピータース石が伴われることがある。

また、クリソコラ上には「ブロシャン銅鉱」も見つかった(写真11)。透明感のある濃緑色の結晶で、やはり放射状に成長している。板状結晶であることから、ピータース石(アガード石)との判別は比較的容易だろう。硫酸塩鉱物のブロシャン銅鉱が鎮座する晶洞ではピータース石(アガード石)は見つからない。

ブロシャン銅鉱 / Brochantite
写真11.ブロシャン銅鉱。透明感のある濃緑色の結晶で、ブロシャン銅鉱としてはわりと普通の姿。ピータース石(アガード石)との判別は難しくない。

クリソコラを伴わない産状の二次鉱物では「緑鉛鉱」が見つかっている。褐色に錆びた晶洞に六角柱状の結晶として産出する(写真12)。この緑鉛鉱は黄色の透明結晶であった。緑鉛鉱を産出する石は表面も内部もただひたすら褐色であり、銅の二次鉱物を伴わない。このタイプの石には白色の塊状の部分もあり、それは燐灰石や石英であった。

緑鉛鉱 / Pyromorphite
写真12.緑鉛鉱。褐色に錆びた空隙に黄色透明結晶として産出する。

目立った二次鉱物に関してはおおむねを述べたので、続いて野外に転がっている石の特徴をまとめておこう。産地の河原に転がっている石は灰色の砂岩・泥岩ばかり。これらを叩いても鉱物は基本的には何も出てこない。ノジュールが出てくることがあるが中心には何も残っていなかった。また小さい石炭を層やレンズで含む泥岩がそれなりに見つかるので、モノによっては標本になるかもしれない。二次鉱物を探すなら褐色に変化した転石が目印になる。つるとしたモノはダメでカラミのことがある。空隙がありザラついた印象の石がよい。そして青い二次鉱物が表面にまで生じている例は案外少ないので、とりあえず割ってみるとことが肝要になる。一目見て水晶を伴いクリソコラがみえるようならキープ。ここではクリソコラを見つけることが大事。こういった石は大小様々な晶洞をもつので、慎重にバラして確認するとよいだろう。そのどこかに新鉱物がいる可能性がある。また全体の産状を見るに、転石となってから二次鉱物が生成したわけではないだろう。すでに二次鉱物が生じている露頭があって、そこから転がってきたという印象を受ける。まだその露頭にはたどり付いていないが、あんがい近くにあるのかもしれない。

この産地からは以前に「ザレシ石」が見つかったという話を聞いた。ザレシ石はピータース石やアガード石と同じくミクス石グループの一員で、ミクス石グループの鉱物たちはどれも似たような見た目になる。そのため、分析を用いない鑑定では産状からその種類を推定するしかない。そして今回の産状ならレアアースという発想は生まれないので、レアアースを含まず、カルシウムと砒素を主成分とするザレシ石という鑑定は合理的である。それでも今回調べた範囲でザレシ石は見つかっていない。個人的にはそのザレシ石は実はピータース石の可能性が高いと思っている。何かの即売会でも置いてあったと聞いているので、すでに持っている方もいることだろう。それはラベルを書き換えても良いだろう。繰り返すが今回の産状でレアアースを主成分とするピータース石(アガード石)は予想外である。そしてこれはいつものことなのだ。新鉱物は予想外のところから見つかる

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IMA No./year: 2017-003
IMA Status: A (approved)
模式標本:国立科学博物館(NSM M-45047)

金水銀鉱 / Aurihydrargyrumite

Au6Hg5

Known synthetic compound

愛媛県 内子町 小田川

記載論文:Nishio-Hamane D., Tanaka T., Minakawa T. (2018) Aurihydrargyrumite, a Natural Au6Hg5 Phase from Japan. Minerals, 8, 415.

金水銀鉱  Aurihydrargyrumite
Fig.1.金水銀鉱の写真。右の粒は全体が本鉱(ただし表面のみで内部は金)。左の粒は左上の銀色が本鉱で、中央下にあるくすんだ銀色の部分はウェイシャン鉱(Weishanite)。

愛媛県から発見された新鉱物、Aurihydrargyrumiteである。記載分類学においては種名はラテン語を基本とするという古い習わしがあり、今回はその例に倣うことにした。この学名は「あうりひゅどらるぎゅるむあいと」と発音し、化学組成が由来となっている。金はラテン語で「Aurum」。これを「Auri」と変形し、水銀を意味する「hydrargyrum」とあわせ、最後に石を意味する「ite」をつけて、「Aurihydrargyrumite」となる。日本産の新種でラテン語由来の学名を持つ鉱物は初めてなのでやってみた。が、日本人には発音しにくい。それでも日本には和名という文化がある。私は和名の「金水銀鉱(きんすいぎんこう)」で呼ぶ。

川や砂浜には比重の高い鉱物や物質が集まる場所がどこかしらあるもので、そういった場所に溜まる砂のことを砂鉱(さこう)と言う。砂鉱にはきれいな結晶や宇宙塵もたくさん入っているのでなかなか楽しませてくれる。そういった砂鉱を採集していると、まったく想定外の場所でも(きわめて少量ではあるが)砂金や砂白金が見つかることがわかってきた。しばらくして、そのわずかにしか採れなかった砂金の内のさらに数粒だけだが、なんだか変だと気づく。砂金ではあるが一部がざらついた銀色になっており、全体が銀色の粒もあった(Fig.1)。初めはこれも砂白金のたぐいかと思ったが、やっぱりざらついた質感は砂白金と判断するには違和感がある(Fig.2)。

砂白金
Fig2.砂白金(さはっきん)の写真。この産地では砂白金もみつかる。写真の砂白金の組成はオスミウム、イリジウム、ルテニウムが含まれており、オスミウムが最も多いため鉱物種としては自然オスミウムになる。金水銀鉱と砂白金は質感が異なることが見て取れるだろう。

やっぱりこれは砂白金とは異なるという思いが強くなる。いわゆる銀(silver)が砂金のように産出しないことはよく言われているので、このざらついた銀色粒はもしかしてアマルガムではなかろうかと思いつく。アマルガムとは水銀と他の金属との化合物を指し、今回の場合では金と水銀の化合物になる。そこで粒の表面を電子顕微鏡で分析してみると予想どおり金と水銀が検出された。ほらやっぱりという満足感で心が満たされ、その日の分析を終えた。しかしこれはなんとも情けない話である。山勘が的中したというつまらないことに安堵し、その時点では新種の可能性に全く気づいていなかった。

分析までして気付かなかった原因は私の思いこみだった。アマルガムとは金と水銀が任意の割合で混じり合った柔らかい金属もしくは液体である、ろくに調べもせず私はそう思いこんでいた。しばらくして、そういえばアマルガムを扱ったことはないから調べてみようとようやく思い立つ。こんなときには相図(そうず)を見るようにしている(Fig.3)。これを見るとある条件でどういった相(物質)ができるかが一目でわかる。

相図
Fig 3. 0-100℃までの金-水銀系相図。データ元[1]はNIMSのMatNavi[2]などから無料で見ることができる。書物にはよく「水銀は金を溶かす」とさっくり書いてあるが、実は液体水銀そのものに金はほとんど溶け込まない。実態としては「水銀と金との微細な化合物が速やかに形成され、さらに液体水銀が多ければ化合物との混ざりモノになる」ということだろう。

[1] Okamoto H., and Massalski T.B., Au-Hg (Gold-Mercury), Binary Alloy Phase Diagrams, II Ed., Ed. T.B. Massalski, Vol. 1, 1990, p 376-379
[2] http://mits.nims.go.jp/

上の図(Fig.3)には今回の新鉱物の化学組成の場所も示した。その場所ではAu2Hgという相(固体)とほとんど金を含まない液体水銀の混合物になることを相図は意味している。だが今回の新鉱物は分離しておらず明らかに一つの個体物質である(Fig.4)。この化学組成を持つ物質は相図には載っていない。これはどういうことだろう。

金水銀鉱  Aurihydrargyrumite
Fig4。SEM写真。このスケールでも液体水銀は確認できず一つの固体物質に見える。

相図はたしかに一つの結論ではある。ところが相図には出現しない物質でもなんとか合成できることがある。そういったムリヤリ作ったモノは準安定相と呼ばれる。調べたところ金-水銀の系にはそんな物質が存在していた。それはAu6Hg5である。こいつは金と液体水銀を混ぜただけではできない。こいつを作るには金を溶かした王水と水銀酸化物を溶かした硝酸を混ぜた液体を用意して、それをアンモニア水溶液中でヒドラジンを使って還元するという処理を行う必要がある。1970年にはその合成を記した論文が出版されている[3]。だがこの論文はこれまでにほとんど引用されていない。Au6Hg5相は今ではほとんど忘れ去られた物質と言える

[3] Lindahl T. (1970) The crystal structure of Au6Hg5. Acta Chemica Scandinavica, 24, 946-952.

そんなAu6Hg5相に今ここで出会うことになるとは思っていなかった。この相の化学組成を100分率で表すと金54.5%と水銀44.5%の割合で、私が調べた銀色もまったく同じだった。そうなると我々が見つけた銀色のブツはAu6Hg5相に相当する天然モノに違いあるまい。そいつをちょんぎって中身を見てみると、銀色の部分は表面の2ミクロン以下の厚さしかないこともわかった。全体としてはほとんどが「金」という鉱物なのだ。それでもその薄皮一枚は新鉱物のはず。どうにかその薄皮からX線回折パターンを取ることに成功し、予想どおり合成されたAu6Hg5相と同じパターンが出てきた。データを整理して国際鉱物学連合の新鉱物・鉱物・命名委員会へ申請書を提出し、承認を得た。新鉱物「金水銀鉱」の誕生である(Fig 1.)。

金水銀鉱  Aurihydrargyrumite
Fig1. 新鉱物・金水銀鉱 (上のFig1の再掲載)

誰しもが思いつくひとつの疑念がある。昔にアマルガム回収法で金を回収した際の残り物という可能性。ただ模式地には上流に金鉱山は無く砂金の産出もこれまで知られていなかった。一部の場所で凸凹岩の隙間にたまった少量の砂鉱からほんのわずかに砂金が見つかるのみである。少量の砂鉱しかなく、微々たる量しか砂金が産出しない川でアマルガム回収法は普通はやらない。これは砂金を含む砂鉱がある程度まとまって存在する場所でやる方法である。その場所ではもっと大きな地域としてみても記録はない。その一方で、場所はやや離れているが同じ地質帯の露頭から金と水銀を含む石英脈を発見している。こういった状況でこのたびの新鉱物は天然物であると判断した。

それでも人工ではムリヤリ作るしかない金水銀鉱がなぜ天然では産出するのだろうか。仮に別々にやってきた液体水銀と砂金が反応したとする。だがそれでは金水銀鉱はできないことは相図が教えてくれる。いまのところ成因は自己電解精錬(self-electrorefining)のたぐいと考えている。これは天然の砂金の表面が高濃度の金で覆われている現象の元になる反応のことで[4]、砂金を構成する金属のイオン化と自己触媒による還元が関わっている。イオンからの還元でのみ合成できる金水銀鉱を説明するには、この自己電解精錬が自然なシナリオに思える。

[4] Groen J.C., Craig J.R., Rimstidt J.D. (1990) Gold-rich rim formation on electrum grains in placers. Canadian Mineralogist, 28, 207-228.

ざっくり言うと、いくぶんか水銀を含む砂金があったとして、そういった砂金は水中での自己電解精錬によってやがて表面に金水銀鉱を生じることになる。そこに至る中間段階に相当する砂金は見つかっているし、自己電解精錬がさらに進んだと思われる物質も報告がある[5]。それらはまだ新種として確立されていないので、Au-Hg系の鉱物種は今後に増える可能性は高い。ただし「水銀を含む砂金」が人工物か天然物かという問題はつきまとうので、産地の地質や歴史は重要な判断基準となるだろう[6]。

[5] Atanasov V.A. and Jordanov J.A. (1983) Amalgams of gold from the Palakharya river alluvial sands, district of Sofia. Doklady Bolgarskoi Akademii Nauk, 36, 465-468.
[6] Barkov A.Y., Nixon G.T., Levson V.M., Martin R.F. (2009) A cryptically zoned amalgam (Au1.5-1.9Ag1.1-1.4)Σ2.8-3.0Hg1.0-1.2 from a placer deposit in the Tulameen-Similkameen river system, British Columbia, Canada: Natural or Man-made?. The Canadian Mineralogist, 47, 433-440.

ネットで「砂金 アマルガム」と検索してみると銀色の粒が表示される。砂金掘り師たちの間では銀色の砂金はすでに知られていたようだ。ただすべてがアマルガムの一言でくくられている。人工物か天然物かの問題はひとまず置いて、こういった銀色砂金は中身の検証も大切だと思う。まずは一粒だけで良いからその銀色の砂金にカッターナイフを押し当ててちょん切ってみよう。普通は容易に切断できるはずだが、もし切断できなければそれは砂白金や他のモノだ。さて、切断出来たとして中身が金色に輝いていたら、その銀色は表面だけの事象であり金水銀鉱の可能性がある。また砂金の一部が銀色という産状も多いようだ。それも金水銀鉱だろう。

見てる限りの印象だが、銀色の砂金が見つかったとしてがっかりする砂金掘り師は多いと感じる。捨てたとか焼いて金に戻した猛者もいるようだ。まあその気持ちはわからんでもない。一方で金水銀鉱それ自体は紛れもなく天然が生み出した芸術だと思っている(たとえ人工アマルガムが元になっていたとしても)。なので捨てるくらいならどうか譲ってもらえないだろうか。ほかの産地を調べてみたいという事情もあるが、私は自然の芸術作品である金水銀鉱が好きなのだ。

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IMA No./year: 2015-100
IMA Status: A (approved)
模式標本:国立科学博物館(NSM M-44527)

神南石 / Kannanite

Ca4[(Al,Mn3+,Fe3+)5Mg](VO4)(SiO4)2(Si3O10)(OH)6

Ca analogue of ardennite-(V)

愛媛県 神南山

記載論文:Nishio-Hamane D., Nagashima M., Ogawa N., Minakawa T. (2018) Kannanite, a new mineral from Kannan Mountain, Japan. Journal of Mineralogical and Petrological Sciences, 113, 245-250.
神南石 Kannanite
Fig. 1. 神南石のタイプ標本。赤鉄鉱+ブラウン鉱母岩中に脈状に走る黄褐色~オレンジ色が本鉱。脈中の赤は紅簾石。

愛媛県神南山から見いだされた新鉱物「神南石 / Kannanite」である。そして今、これを書き始めたところで採集した日のことを思い起こしている。本来ならその日は愛媛にはいるはずはなかったが、とある事情で愛媛にとどまり新鉱物が誕生することとなった。以前の新鉱物・伊予石&三崎石も実はこの事情に絡んでいる。

神南山に上る当日、本来なら私は広島にいるはずだった。ところがその計画が前日にポシャってしまい次の日も愛媛に留まるハメになった。それで夜の居酒屋で急遽設定したのが神南山の調査であった。そして明くる日。午前中で神南山の調査を終え、腹が減った我々は思いつきで佐田岬半島の「しらす食堂」へ向かった。その際に近辺にマンガン鉱石が転がっているというので、腹ごなしついでにふと立ち寄った。私にとってそこは初めての産地だったが、マンガン鉱石は容易に採集でき、幸運にもその鉱石から新鉱物・伊予石&三崎石が生まれることになった。そしてその日の午前に採集した神南山からの鉱物が今ここで新種・神南石となった。できすぎた話である。

そういえば当初の計画が直前でポシャった事情は何だったかな。たしか著者の一人が「ネコたちが腹を空かせて泣くからやっぱり遠征できない」と、よりにもよって遠征に向かった先の中間地点でいきなり言い出したせいだ。確か弓削島あたりだったように覚えている。あと少し進んだら広島県に入りそこで一泊のはずだったが、「帰ろう」と彼はのたまう。抵抗したが彼のネコ愛には勝てなかった。割を食った私はその晩の宿が取れず散々だったが、それが一連の成果につながるのだから不思議なものである。あのとき私を愛媛へ留めてくれた腹ぺこネコ様たちには高級缶詰でも献上せねばなるまい。

さて、気を取り直して。神南山(かんなんざん)は大津市と内子町五十崎にまたがり肱川とその支流に囲まれている独立峰である。険しい山ではないが森は深い。東西に頂がありそれぞれを女神南(おなごかんなん:710m)と男神南(おとこかんなん:654m)と呼び、神が宿る山としてその地域の霊山という扱いであろうか。そしてその神南山の東側中腹には大久喜鉱山という愛媛県で屈指の銅鉱山がかつて在った。

大久喜鉱山は愛媛県では別子鉱山に次ぐ規模のキースラーガ型銅鉱床で、愛媛県西部では最大の銅鉱山になる。その沿革や経緯は詳しくないが約200年前に開発されたようだ。金の含有量がかなり高く平均で4~6g/トンもあるらしい。それはともかくもここの鉱石は他のキースラーガ型銅鉱山のモノとはやや異なって見える。あいかわらず小さな標本しか持っていないが、全体的に細粒なために破面が柔らかい印象で(Fig.2)、それが別子鉱山のキースラーガ鉱石とは一味ちがう。大久喜鉱山には広大なズリ山がまだ残されているので鉱石の採集は容易だし、今はどうか知らないが以前は緑礬(Fig.3)が生じている場所もあった。

copper ore
Fig. 2. 大久喜鉱山産のキースラーガ鉱石。黄鉄鉱が主体で黄銅鉱が脈状に入っている。全体的に粒度が小さいことやたまに閃亜鉛鉱も来ることが特徴で、他産地のキースラーガ鉱石とは印象が異なる。それ故にモノをみたらこれは大久喜とすぐわかる。ただ写真ではそれがうまく写せなかった。

melanterite
Fig. 3. 緑礬の結晶。この緑礬のなかにはボトリオーゲン石 / Botryogen [MgFe3+(SO4)2(OH)•7H2O]が含まれることがある。写真中の黄色~オレンジ色の部分が該当するかもしれないがそれは調べていない。

このように大久喜鉱山のことをすこし書いたが、今回の新鉱物には大久喜鉱山は関係がない。というより大久喜鉱山との関連があまりよくわからない。大久喜鉱山の本体は神南山の東側中腹に在るが、その周りにも支山がたくさんあるとされる。以前に何度も現地を訪れたことがあるが、たしかに大小様々な堀跡が方々に認められた。ただあまりに数が多く、現地の人に尋ねてもそれぞれの鉱山名や大久喜鉱山との関連は定かでない。それから銅鉱床だけではなくいわゆる鉄マン鉱床も点在している。鉄マン鉱石にはマンガンは含まれてはいるものの品位は全体的に低く、マンガン資源としてはほとんど役立たずに思える。おそらくは鉄を目的に掘ったのだろう。これらも名前や大久喜鉱山との関連は定かでない。

神南山の地質に目を向けるとこれはなかなか複雑で、地質図とその解説があるのでそれを参考にしてほしい(坂野ほか、2010、大洲地域の地質)。神南山の地質は御荷鉾緑色岩類に相当し、ざっくり言っていいかわからないが、全体的に弱変成を受けた苦鉄質岩とチャートが混じっている地層になっている。そして銅鉱床は苦鉄質岩に、鉄マン鉱床はチャートに胚胎されている。ただほとんどの堀跡は明確なズリや貯鉱が残っているわけではない。山中に(なぜか)点々と散らばっている鉱石をたどっていくと露頭に行き着くといった具合である。そこは(試)掘跡なのかもしれないが、それが定かでないほど苔むして自然に戻っていることがほとんどである。

今回の目的は鉄マン鉱床(鉱石)だった。我々は以前に三重県伊勢市の鉄マン鉱床から4種の新鉱物を見いだしており、鉄マン鉱床というのは新鉱物に関して言うと魅力的な場である。豊石も鉄マン鉱床から出ている。そして神南山は労せずとも何かしらの鉄マン鉱床にはぶち当たるという場である。はたして午前中の調査であっさりと多量の鉄マン鉱石が手に入った。なんとも冴えない重たいだけの石ころである(Fig. 4)。

iron-manganese ore
Fig. 4. 神南山の鉄マン鉱石でこれは破断面。全体は赤鉄鉱やブラウン鉱なのだが破断面ではどちらかさっぱりわからない。愛石家といえどもこれを目的に採集する人は(ほぼ)いない。逆にこういった鉄マン鉱石はほとんどまともに調べられていない。

こういった石は割ったところで破面から判断できることは少ない。石英くらいは割らなくてもわかるが、それは別にただの石英である。石英に伴われる紅簾石もまあわかるが、それもやっぱりたかが紅簾石である。たまに自然銅がいるのでそれ見つけるとちょっと安心するが、コレクションにするほどではない。このような一見残念にな石はぶった切るのが一番で、切断面を見るといろいろわかってくる。石をぶった切って初めてわかったが、石英脈に伴われるのはなにも紅簾石ばかりではない。黄褐色葉片状の鉱物が石英脈に散らばっている(Fig. 5)。何だろうと思って分析してみると、これはバナジウムアルデンヌ石であった。ちょっとうれしい。よく見ると細脈にもこれが来ている(Fig. 6)。それにしてもこの細脈中のモノはものすごく小さい結晶で、ルーペ程度では切断面でも存在を認識するのが難しい(Fig. 7)。分析してみるとバナジウムアルデンヌ石に近いがそれよりもかなりカルシウム(Ca)が多い。あれ?と思って組成式をよく考えるとこれはバナジウムアルデンヌ石のマンガン(Mn)をカルシウム(Ca)に置き換えた鉱物に相当する。うわ、これ新鉱物だ

Ardennite-(V)
Fig. 5. 鉄マン鉱石の切断面。黄褐色葉片状結晶はバナジウムアルデンヌ石(Ardennite-(V))。肉眼的に認識できるような石英脈中には黄褐色葉片状結晶があったとしてもすべてバナジウムアルデンヌ石。

神南石 Kannanite
Fig. 6. Fig1の再掲載。この黄褐色はすべて神南石。

神南石 Kannanite
Fig. 7. 神南石の拡大写真。

ということで、これが新鉱物であるというのは実は比較的早い段階からわかっていた。だが困ったことに細脈にしか神南石は出ない。量があまりないことと純粋な結晶を分離するのが難しいために、データを集めるのにかなり時間がかかってしまった。名前に関しては地名・人名からいくつか候補を考え悩んでいたのだが、産地の神南山からとって「神南石」とした。ネコの飼い主からの助言でそう決めた。ネコ様が導いた新鉱物なのだからそれが良い。

鑑定ポイントはまずは鉄マン鉱石であること。赤鉄鉱やブラウン鉱が来ている鉄マン鉱石を切る石英脈中に神南石はいる。その中の黄褐色~オレンジ色が特徴的なのでそれが目印になるだろう。ただし肉眼的な脈の中の結晶はバナジウムアルデンヌ石で安定しており、どういう訳か神南石は見えるような石英脈には来ない。神南石は太さ100ミクロン以下の細い石英脈にだけ来ており、その結晶はものすごく小さい。このサイズになると観察にはそれなりの実体顕微鏡が必要になる。それと現地では細脈の中身どころか、細脈が来ているかどうかも判別が困難なので、やはり切断&研磨するしか手はない。研磨は#400くらいで十分で、透明なマニキュアを塗ると観察しやすくなる。ただいくら愛石家といえども岩石カッターをもっている人はごく少数で、それなりの実体顕微鏡を持っている人も多くはないだろう。神南石はどうやっても愛石家泣かせの新鉱物である。

話は変わるが、この冬は東京都白丸鉱山が数年ぶりに顔を出した。そこでは国産新鉱物の多摩石東京石を初め珍しい鉱物が出る。私も白丸鉱山を訪問し、最近はそこの石を調べることに夢中になっていた。そうした中で神南石を申請していたことを実はすっかり忘れており、承認通知を受けて思い出した次第。そうして他にも思い出したことがある。実は神南山の鉄マン鉱床にも白丸鉱山と似たような鉱物が出る。まずは次の写真を見てほしい。

Gamagarite & Brackebuschite
鉄マン鉱石の切断面の写真。中央から右上に向かうルーズな緑色と、中央から左下と右下部に点在する赤色が見て取れる。自然銅だけは初見でもわかるだろう。

この緑と赤を見ただけで鉱物名がわかる人はまずいないだろう。もちろん私にもわかるはずがない。調べたところ緑はコニカルコ石(Conichalcite)赤はガマガラ石(Gamagarite)とブラッケブッシュ石(Brackebuschite)であることが判明した。まずはコニカルコ石がこんな産状でも出るなんて知らなかったので、これは良い経験になった。それからガマガラ石とブラッケブッシュ石は白丸鉱山からの新鉱物・東京石(Tokyoite)の近縁種である。それぞれが東京石の三価鉄(Fe3+)置換体と鉛(Pb)置換体に相当する。東京石はまだ見つけていないが、これらが出てくるならじっくり探せばそのうち見つかるような気がする。こういった例もあるように、鉄マン鉱石は外見が冴えなくともその中身は案外おもしろい。

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IMA No./year: 2014-054
IMA Status: A (approved)
模式標本:国立科学博物館(NSM M-44106)

豊石 / Bunnoite

Mn2+6AlSi6O18(OH)3

New structure type

模式地:高知県 いの町 加茂山

記載論文:Nishio-Hamane D., Momma K., Miyawaki R., Minakawa T. (2016) Bunnoite, a new hydrous manganese aluminosilicate from Kamo Mountain, Kochi prefecture, Japan. Mineralogy and Petrology, 110, 917-926.

Bunnoite1
Fig.1.豊石を含む鉄マン鉱石。右側のやや緑がかった部分と、左側の上下に走る石英脈に伴われる緑がかった部分が本鉱。標本の左右10センチ。

Bunnoite2
Fig.2.Fig.1の右側を拡大。暗緑色の葉片状結晶の集合。

Bunnoite3
Fig.3.Fig.1の左側を拡大。上下に走る石英脈に豊石(暗緑色)は伴われる。

Bunnoite4
Fig.4.写真全体がほぼ豊石からなっている。基本は深い暗緑色で、結晶がすこし浮いたところではやや黄色味を帯びて見える。

Bunnoite5
Fig.5.これも全体がほぼ豊石でやや粗粒結晶。結晶が粗粒になるとむしろ褐色を帯びる。松脂光沢が艶めかしい。

Bunnoite6
Fig.6.結晶が少し浮くと黄緑色。

 高知県からの新鉱物、「豊石/Bunnoiteになる。玉露の茶葉をぎゅっと固めたような標本。渋いと言ってほしい。豊石はシンプルな構成元素でありながらも新規の化学組成&結晶構造だった。鉱物は化学組成と結晶構造で定義されていて、そのどちらか、もしくは両方が新規なら新種(新鉱物)となる。これまでに自分が筆頭で記載してきた新鉱物は、化学組成が新規で結晶構造は既に分かっている(推定できる)というものばかりだった。私が関わった新鉱物は豊石を含めて合計16種、そのうち筆頭を務めたものでは10種目となるのだが、ここにきてようやく、私にとっては初めての新鉱物となったとも言える。

 名前のことから書いていこう。本鉱は和名が「豊石」、学名が「bunnoite」である。「豊」と書いて「ぶんの」と発音する。なので「豊石」は「ぶんのせき」と読む。九州の豊前市とか豊後高田市のように「豊」を「ぶ(ん)」と発音するのに似ている。ただ本鉱は高知県産。それに地名ではなく人名に由来しており、豊遙秋(ぶんのみちあき)(1942-)の名前に因む。「豊(ぶんの)」名字はすごく珍しいと思うのでそのルーツを本人に聞いてみたところ、江戸時代より前は「豊原(とよはら)」が正式名称で、それを「豊(ぶん)」と略して名乗っていたと聞いている。そして、「平将門(たいらのまさかど)」を読むときの「たいらの」の「の」と同じような感じで、「ぶんの」と発音していたせいもあって、明治維新でいざ名字をつくろうとなったときに「豊(ぶんの)」になったようだ。それでこの家は代々「笙(しょう)」を家業としてきたとのことで、ご自宅におじゃましたときにぶ厚い家系図を見せていただいたことがある。webにはその家系図をまとめているサイトがあったりもする(http://houteki.web.fc2.com/toyohara.html)。家系図がネット検索で出てくる人物はそうはいないだろう。本人もおっしゃていたが名前の「秋」も通字である。伝統がありすぎる・・

 豊先生は家業とはまったく異なる鉱物の道に入った。産総研(旧:地質調査所)地質標本館の館長を務め(2003年退官)、これまでに6種の新鉱物の発見に貢献してきている。とは言え、自分で論文をゴリゴリ書くタイプではなく、仕事に定評のあるタイプの研究者である。その定評のある仕事というのはキュラトリアルワークと言って、一部だけを抜き出して簡単に言うと標本の収集・整理である。ほら、愛石家の皆さんにおなじみの採集&ラベル作りですよ。研究機関においては標本入手の手腕というのは大事なことではあるが、もっと大切なのはラベルのほう。例えば標本を手に入れたとしてラベル(情報)を残さなかったらどうなるか?個人蔵なら耳が痛い話ですむし、まあそれは気が向いたときにやれば良いだろう。ところが研究機関でそんな怠慢をやってしまうと研究標本としての価値は消失しゴミと化す。そうしないためには情報を即座にラベルに記し、データベース化してわかりやすいように分類・登録することが大切である。さらには必要なときに取り出せるように管理することも大事で、研究機関はそのように標本を取り扱う義務がある。なにを当たり前のことをと思うかもしれないが、こういう体制を整えるにはセンスが必要で、体制が整ってないところは実は結構ある。豊先生はそうした体制を確立してその経験を元に様々なところで指導をしてきた。ただ、論文のように広く公表される内容ではない。それでも豊先生が長年キュレーターとして活躍してきたことは業界人には周知の事実で、その業績から新鉱物の名前となるにふさわしいと思ってお願いしたのです。

 そんなこんなで新鉱物のデータが形になって、豊さんの名前をいただきましょうという段になった。存命の方の名前を新鉱物に採用するには本人の承認が必要なのだ。さあ誰に伝えてもらうのが良いかなと考えて、豊さん自身が畏友と称している皆川先生からが良いだろうと皆川先生にその大役をお願いしたのだが、今思えばそれが失敗でした。あろうことか2014年4月1日のエイプリルフールに伝えやがった。研究者ならまず間違いなく注目するあの日。そう、理研が例の記者会見を開くその日でございます。よりにもよってそんな日に「新鉱物は、ありま~す」ってメッセージを受け取ったほうの動揺はいかばかりであっただろうか。しばらくして皆川さんは「OKだってよ」とのたまったが、豊さんから後日に「本気でエイプリルフールの冗談かと思った」と聞かされてゴメンナサイした次第であります・・・。もちろん悪意はありません。でもゴメンナサイしながらも、「やっぱり冗談でした」が承認されなかったときの言い訳に使えるなとひそかに思ってた。幸いなことにその言い訳を使う機会は訪れず、無事に承認通知が来ましたよ。通知確認!よかった

 高知県いの町、JR線より北側の山地の地質は変成度の低い緑色岩でそれが東西に数キロほど分布している。この緑色岩中に鉄マン鉱床が伴われ、地質調査所四国出張所の古い資料からはこのあたりに「加田」、「南田」、「伊野」という名前の鉱山(もしくは鉱床)があったことが伺える。ただそれ以上の情報はなく、実際に現地を歩いて調査を行った。現地にはぽっかり空いた坑道が方々に残っており、試掘しただけなのかもしれないが小規模な露天掘り跡もちらほら散見される。ただし全体的にズリは非常に薄くて一見それとはわからない。谷筋まで出ている鉱石も少ない。かつて加藤らはこの地域からハウィー石や種山石を報告しており(Kato et al., 1984, Proc. Japan Acad., 60, 65-68)、豊石が見つかった場所も領域的にはだいたい同じ。でも具体的な場所はハウィー石や種山石を産した鉱床とは異なるのだろう。それというのも調べた範囲で豊石が来ている鉱石にハウィー石や種山石が来ることはなかった。逆はどうだろう。ハウィー石・種山石がメインの鉱石はこのときの調査ではむしろ見つからなかったので確定的なことは言えないが、化学組成がそれなりに違うので共生は無いと予想している。たぶん生成のステージが違っており、一つの鉱石中で共存が見つかるとしても脈でぶった切っているケースだろう。

 さて、鉱石はいわゆる鉄マンと称されるもので、基本的に真っ黒。主には細粒の赤鉄鉱とスティルプノメレンからなり、肉眼では判別不能だがごく少量のバラ輝石が含まれている。鉱石の所々には石英の脈やレンズが見え、その中にはまれに紅簾石が含まれている。それでもこの鉱石中のマンガン成分は相当少ないように思える。通常マンガンが多い鉱石の表面は真っ黒に汚染されていることが多いが、ここのはむしろ鉄さびの褐色に汚れていることが多い。そんな鉱石を割ると中は真っ黒で、ときおり暗緑色の葉片状結晶がへばりついている。それが豊石である。ところが暗い場所で観察した場合や水で濡れていたりするとさっぱりわからないので、現地での判別には相当の注意力を要する。また、豊石は細かい結晶が密な集合を作る場合だと玉露の茶葉のような深緑になるが、粗粒結晶になると褐色を帯びてくる。いずれにしてもリッチな標本は背景の黒と混じり、ぱっと見てそれと判別するのがくそ難しい。逆に貧弱なものや結晶がすこし浮いたところは黄緑色を帯びるので、それがひとまずの目安になる。石英脈に伴われることがほとんどだが、たまに鉱石中に豊石だけのレンズになっているようだ。そのレンズがうまく割れると1-3センチの範囲が全て豊石ということもあり、これくらいになるとルーペはいらない。豊石はハウィー石や種山石と共存することはないと思っているが、いずれの鉱物も葉片状結晶が集合するため、全部並べてさあどれが豊石かと言われると判別は難しいかもしれない。ただこの地域のハウィー石なり種山石は鉄を多く含み(Kato et al., 1984)、それ故に見た目はかなり黒いと推測されるので、葉片状の鉱物を見つけて判断に迷ったときはきっと緑色が鑑定の助けになると思う。

 実は豊石はすでに報告がある。鉱物学会2000年年会で報告されたアカトレ石/akatoreiteが結果的には豊石だったそうとう前に発表されているのですでに標本を持っている人もいるかもしれない。そういう方は遠慮無くラベルを書き換えてください。このアカトレ石に疑いを持ち、まじめに調べ直すきっかけは写真だったように思う。実は数年前から標本の写真撮影(主にはマクロ撮影)を始めており、とりあえずは自分の標本から撮影をしているのだが、今に至る過程で大苦戦するものがいくつかある。その中には昔に皆川さんからもらったアカトレ石も含まれていた。今回掲載した写真は最近に撮影したものなのでだいぶ改善してはいるが、本物よりはやっぱりまだちょっとコントラストが低いように思う。それでも豊石(当時はアカトレ石と思っていた)の写真を撮り始めた当初よりはだいぶマシにはなっている。写真写りが非常にむずかしいのでほかの産地のはどうなってんのかな?と比較しようとWebで調べたところ、なんだか見た目や色が全く異なる。別ものを渡されたか?と手持ちの試料を組成分析してみると講演要旨と同じ値になるのでやっぱりアカトレ石か。でも良く検討するとこの元素比はアカトレ石とはすこしズレてるぞ。それではと粉末X線回折実験もやってみたら、対称性が低いせいでやたらめったらピークが出てくる。それらはアカトレ石に当てはまらなくもないが、インデックスしていくとなんだかムリがでて誤差も大きくなる。むむむ?ってことで門馬君に協力してもらってよく検討したら新鉱物でした。それも新規の化学組成&結晶構造というおまけ付きだったのです。それで、結局、実は、アカトレ石は皆無でした。まあこういう新鉱物(再)発見物語もあるってことです。

承認通知をもらった日、豊先生は奥様同伴で皆川先生と鉱物談義に花を咲かせていたらしい。その日は図らずも中秋の名月で愛媛は晴れだったようだ。きっと一献傾けていたことでしょう。おめでとう、豊先生。

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IMA No./year: 2013-130(Iyoite), 2013-131(Misakiite)
IMA Status: A (approved)
模式標本:国立科学博物館(NSM M-43864)

伊予石 / Iyoite
MnCuCl(OH)3
Mn-Cu ordered analogue of botallackite

三崎石 / Misakiite
Cu3Mn(OH)6Cl2
Mn-rich analogue of kapellasite

模式地:愛媛県 伊方町 大久

記載論文:Nishio-Hamane D., Momma K., Ohnishi M., Shimobayashi N., Miyawaki R., Tomita N., Okuma R., Kampf A.R., Minakawa T. (2017) Iyoite, MnCuCl(OH)3, and misakiite, Cu3Mn(OH)6Cl2: new members of the atacamite family from Sadamisaki Peninsula, Ehime Prefecture, Japan. Mineralogical Magazine, 81, 485-498.

伊予石 Iyoite
Fig. 1. 伊予石,淡緑色板状結晶の放射状集合体。

三崎石 Misakiite
Fig. 2. 三崎石,緑色六角結晶。

伊予石&三崎石 Iyoite &Misakiite
Fig. 3. 伊予石と三崎石の共存その1。伊予石はしばしば樹状集合(デンドライト)となる。先端部には三崎石を伴うことが多い。

伊予石&三崎石 Iyoite &Misakiite
Fig. 4. 伊予石と三崎石の共存その2。上の写真の先端部はこんな感じで,針状結晶の伊予石の先端に六角形の三崎石が生じている。

伊予石&三崎石 Iyoite &Misakiite
Fig. 5. 伊予石と三崎石の共存その3。同じく伊予石のデンドライトで,こちらは荒々しい。先端部には三崎石が伴われることがある

伊予石&三崎石 Iyoite &Misakiite
Fig. 6. 伊予石と三崎石の共存その4。伊予石は淡緑の針~板状結晶がデンドライトになっていて,デンドライトの終わりに三崎石の集合体ができている(中央)。三崎石は六角粒状が基本だが,伸びて板状になることがある(中央やや左)。

自然銅 Native Copper
Fig. 7. 鉱石の破断面。内部には自然銅が多く含まれる。

アタカマ石 Atacamite
Fig. 8. アタカマ石。緑が深い。今のところ明瞭な結晶は見いだせてない。共生している黄色がかった白い球状はクトナホラ石。

パラアタカマ石 Pratacamite
Fig. 9. パラアタカマ石。やっぱり緑が深い。こちらはたいてい結晶しており伊予石・三崎石とは形が異なるので簡単に区別はできる。米粒みたいなのはクトナホラ石

単斜アラカマ石 Clinoatacamite
Fig. 10. 単斜アタカマ石,たぶん本邦初産。こいつもやっぱり緑が深い。スピネルみたいな結晶面が見える。赤いギラギラは赤銅鉱,白っぽいのはやはりクトナホラ石。

三崎石 Misakiite
Fig. 11.これは三崎石。結晶が不定型だとアオサノリに見える。

愛媛県佐田岬半島からの新鉱物「伊予石(Iyoite)「三崎石( Misakiite)」である。黒色を背景にして翠緑色の新鉱物たちがぱぁっと展開する様はなんとも美しい。二つの新鉱物の名前は佐田岬半島が面している二つの海域、伊予灘三崎灘にちなんで命名した。この新鉱物たちの生成には海が深く関わっているので、海の名前をいただいた理由の一つである。そして偶然にも「いよ」と「みさき」って女性の人名にも通じる響きで、そうなるとほら、愛媛といったらマドンナですよ。さらには二つの新鉱物はほとんど姉妹みたいなものだから、もういっそのこと鉱物界のマドンナ姉妹ってことでどうかな。

愛媛県佐田岬半島は四国の最西端に位置する日本一細長い半島で、リアス式の海岸には緑色片岩と呼ばれるささくれ立った緑の岩肌が林立しており、高台からの景色は実に風光明媚。2013年春、我々は調査の足をその佐田岬半島に伸ばしたところだった。目的は海岸線にある銅鉱床の調査で、転がっている鉱石をかち割ると内部には自然銅がたくさん含まれている。一般的に銅鉱石が海水の影響で風化する際に生じる二次鉱物として、いわゆる「アタカマ石」というのが知られている。アタカマ石は透明感のある濃緑色の結晶で、銅鉱石と海水の成分をたせばできあがるし、たいして珍しくはない。もちろん今回の調査地でもアタカマ石が産出することはずっと以前から知られていた。それでもこの場所を訪れたのは「しらす食堂」が近くにあったから・・、いやいや、その鉱床が普通とは異なり多量のマンガンを含んでいたからだ(普通の銅鉱床にはマンガンは少なく鉄が多い)。どっちが本音かは読者の想像にゆだねよう。まあしかしこういった鉱石が海水の影響で風化されると普通の銅鉱床とはなにか違いがあるだろうか。

野外に放置された鉄の多い銅鉱石は表面が赤茶けた色に変色するのに対し、マンガンを多く含む鉱石は真っ黒に変色するのが特徴である。現地にも真っ黒な石が多数あった。目的はこの石の表面ではなく、ちょっと内側にある。風化作用にはざっくりと機械的風化化学的風化があり、前者は破砕的な作用で後者には溶解や分解といった化学反応が伴われる。例えば海岸や河川の石がまるくなっているのが機械的風化の一つで、しばしば化学的風化の影響をはぎ取ってしまう。一方で石のちょっと内側は機械的な作用が及びにくく、化学的風化の影響が強く残ることが多い。そんなわけでとりあえず手近な真っ黒な石をハンマーで割ってみたら、さっそく苔みたいな緑の物体がへばりついていた。「ああ、アタカマ石だな」と。さて他にはどんなのがいるかなといくつか割ってみるも、緑のモノ以外はせいぜい赤銅鉱が見える程度で、これも銅鉱石の風化で生じる鉱物としては一般的。なんだ普通の銅鉱床と変わらないなあという感想を持って野外調査は終了。でもその感想は結果的にはハズレだった。

試料を実体顕微鏡で観察したところ、思わず息をのんだ。苔のような物体はまったくの予想外に美しかったのだ。それでも最初にこの結晶を見てすぐには新鉱物を連想できなかった。ところが写真を撮り始めるとなんだか違和感が・・。結晶の形もまあそうだが、がすこし変に思える。自分の知っているアタカマ石にしては色が淡い。鉱物の形はケーズバイケースだけども、色は元素の種類が反映されるので色に違和感を覚えたらそれは要注意のシグナルである。ここでアタカマ石の化学組成を見てみよう。その化学組成はCu2Cl(OH)3で、特徴的な濃緑色は主成分の銅(Cu)に由来している。この銅が他の元素に置き換えられているなら色は変化しても良いはずである。そして今回の結晶は二酸化マンガンの上に鎮座している。となるとそうですよ、よくよく見れば状況証拠はそろっているじゃないですかい。そう思って分析してみたらやっぱりマンガンが検出されたのである、それもことごとくCu:Mn=1:1か3:1とかいう割合。さらに詳細を調べて二つとも新鉱物であることが確定した。

伊予石・三崎石はどちらもアタカマ石類縁鉱物ではある。しかしそれにしてもアタカマ石類縁鉱物は構造の種類が多い。まず、Cu2Cl(OH)3組成にはアタカマ石型ボタラック石型単斜アタカマ石型アナタカマ石型がある。Cuが完全にMnに置き換えられた鉱物としてはKempiteという鉱物がすでにあって、これはおそらくアタカマ石型構造。ただこいつは今回は見つからなかったな。まあそれはおいといて、伊予石はMnがややCuを上回るものの、だいたいCu:Mn=1:1の組成をしていた。この割合には意味があって、構造中でCuとMnが異なる席に着いている(対称化)。結果的に伊予石はMnCuCl(OH)3組成のボタラック石型構造の新鉱物だった。さて、Cu3M(OH)6Cl2Mに2価陽イオン)という化学組成だとパラアタカマ石型ハーバードスミス石型カペラス石型がある。三崎石はM = Mn組成のカペラス石型の新鉱物で、こちらもCuとMnは異なる席にいる。二つの新鉱物の構造は密接に関連していて、同時に産出するというのは納得いくのだが、説明は専門的になりすぎるのでその役目は論文に託そう。

さあ肉眼鑑定のポイントに移ろう。伊予石三崎石以外に確認できたアタカマ石類縁鉱物は、アタカマ石パラアタカマ石単斜アタカマ石(Fig9-11)。これらは伊予石・三崎石とはあまり共生しない。それは含まれるマンガン量がまったく違うからだと思う。実際にパラ・単斜・アタカマ石に含まれるマンガン量は微々たるものであった。また産状的に伊予石・三崎石は二酸化マンガンの上に直接いることが圧倒的に多いが、他の3種はクトナホラ石を背景に置く場合が多い。鑑定ポイントはそういう産状と、色(透明感も)と形。伊予石・三崎石はパラ・単斜・アタカマ石よりも淡く透きとおった緑が特徴です。二酸化マンガンを背景にフェンネルのような造形が見えたらそれが伊予石だ。伊予石は放射状になったりもする。三崎石は六角形の板が見えたら確実だが、結晶形が不定の場合はアオサノリのようになる(Fig.11)。でもそれはパラ・単斜・アタカマ石とは異なるので区別できると思う。他にはそうそう、どうやら単斜アタカマ石は本邦初産になるのかな。濃緑色のスピネルみたいな形なのでこっちはすぐに判別できると思う。でもここに書いたのはあくまで典型例。微妙なやつも多いから総合的には肉眼鑑定は難しい。

ついでに鉱石本体のほうも書いておこう。鉱石の表面は真っ黒であるが、内部は新鮮で、かなりの部分を紫がかった褐色のハウスマン鉱が占め、若干赤みを帯びてくるようなところにはヤコブス鉱も含まれる。そういったハウスマン鉱(+ヤコブス鉱)集合体を切るようにテフロ石(灰緑色)+バラ輝石(淡紅色)の脈が入っており、所々でレンズ状に拡張している。最終的には全体を方解石や菱マンガン鉱の細脈が切っている。自然銅はその細脈にきているようで、うまく割れると一面に独特な銅色がぶわっと展開する。その他に特徴的なのはパイロファン石だろうか、やはり細脈にともなわれることが多い。サイズがかなり小さいので肉眼だとチカチカするだけだが(ルーペでも厳しい)、実体顕微鏡下では赤褐色の鱗片状結晶がみえる。

銅+海水->(パラ)アタカマ石というのはほとんど常識になっていて、鉱物に慣れた人ほどあっさりそう断定してしまう。もちろん私もそう、偉そうに言える立場ではない。それでも多くの人がこの産地の鉱物を(パラ)アタカマ石だと常識的に判断していたことは、なんというかラッキーだった(申し訳ない気もするが)。というのも、私はこの産地を初めて訪れたのだが、ここは昔に採集会が開かれたこともあるらしく、すでに標本を持っている人も多い。実際に昨年のミネラルマーケットでも模式地標本がアタカマ石のラベルで並んでいたのを見かけた。そしてその標本を手に取っておもわず苦笑い。だって、すでに標本が流通している状況で誰かがふとアタカマ石類縁鉱物の多様性に気づけば、産状からMnを含んだアタカマ石類縁鉱物を連想するかもしれない。その可能性を疑って標本を観察するとそれはもうアタカマ石には見えない。我々より前に他の誰かが新鉱物を見いだしてしまうことは十分にあり得た話である。それにその標本を見たときはまだ新鉱物の申請をしてなかったのだ。それでも私はそのワンコイン標本を売り場に戻して、ちょっと動揺しながらも売り子さんには「これは良いものですよ」と言った。「じゃあ買えよ」って顔されたけど。

いざ採集っと席を立つ前にまずは手持ちの標本をよっく見てみようよ、それすでに新鉱物じゃない?

追記>
伊予石・三崎石とは無関係だが、鉱石の破断面にチカチカする鉱物について追記。どうやら2種類あることが判明し、一つは前述のパイロファン。もう一つはクレドネル鉱(crednerite, CuMnO2)でした。以下、写真。
パイロファン石 Pyrophanite
これはパイロファン。赤い。

クレドネル鉱 Crednerite
これはクレドネル鉱。黒い。

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IMA No./year: 2013-126(Ferriakasakaite-(La)), 2013-127(Ferriandorosite-(La))
IMA Status: A (approved)
模式標本:国立科学博物館(NSM M-43919)

ランタンフェリ赤坂石 / Ferriakasakaite-(La)
CaLaFe3+AlMn2+(Si2O7)(SiO4)O(OH)

ランタンフェリアンドロス石 / Ferriandorosite-(La)
Mn2+LaFe3+AlMn2+(Si2O7)(SiO4)O(OH)

Epidote supergroup

模式地:三重県 伊勢市 矢持町菖蒲

記載論文:Nagashima M., Nishio-Hamane D., Tomita N., Minakawa T., Inaba S. (2015) Ferriakasakaite-(La) and ferriandrosite-(La): new epidote-supergroup minerals from Ise, Mie Prefecture, Japan. Mineralogical Magazine, 79, 735-753.

Ferriakasakaite-(La), Ferriandorosite-(La)
Ferriakasakaite-(La), Ferriandorosite-(La)
模式地標本 この産地の褐簾石亜族の新鉱物は見た目では区別できない。実際のところ、集合体になるとたいてい3種が混じっている。

akasaka_and_androsite
ここの褐簾石亜族の化学組成は中間的でほんのちょっとの違いで簡単に種をまたぎ、それ故にこんな狭い範囲で共存することが良く起こる。

またもや三重県伊勢市からの新鉱物、「ランタンフェリ赤坂石( Ferriakasakaite-(La))」と「ランタンフェリアンドロス石(Ferriandrosite-(La))」である。今回も山口大学からプレスリリースを出してもらったのでそちらもご覧ください。このページはいつものとおり写真と雑記。今回の新鉱物が承認されたのは2月3日。その日は私自身が研究代表を務めた新鉱物・伊予石&三崎石の承認通知も来ており、一日で4通も承認通知を受け取った。鬼は外、福は内。

それにしてもこの産地(矢持町菖蒲)からはよく新鉱物が見つかる。今回のものは「伊勢鉱」、「ランタンバナジウム褐簾石」に続いて第3・第4の新鉱物となった。ランタンバナジウム褐簾石の発見後、もう少し研究用試料を確保したくて同様な外観を持つ鉱物を調べていたら、さらに二つも新鉱物が見つかった。そして伊勢市の別の産地からは「今吉石」という新鉱物も見いだしているので、ほんの3年くらいで合計5種もの新鉱物が伊勢市から発見(承認)されたことになる。これだけあるともはや新鉱物は伊勢の名物と言っても良いだろう。そしてこれらすべてが一人の愛石家・稲葉幸郎による発見から始まっている。縁あって私は「伊勢鉱」と「今吉石」の研究代表を務めさせてもらい、「ランタンバナジウム褐簾石」「ランタンフェリ赤坂石」「ランタンフェリアンドロス石」は緑簾石族全般に詳しい&研究実績のある山口大・永嶌真理子さんに仕切ってもらった。その経緯は「ランタンバナジウム褐簾石」の項目も参照してください。

今回の新鉱物たちと前に見つけているランタンバナジウム褐簾石は、緑簾石族の褐簾石亜族というものに分類される。鉱物とは化学組成と結晶構造で定義される天然の固体物質のことで、化学組成もしくは結晶構造が新規のものなら新鉱物となる。そして今回みつけた新鉱物は結晶構造が同一で、化学組成がそれぞれ違っている。こういった集まりを「族 / group」という。その中で特定の化学組成を持つものがさらに「亜族 / subgroup」として分類される。その「族」や「亜族」の中身や説明はそれだけで一つの論文になっているくらい膨大なのだが、せっかくなので褐簾石亜族のさらにその一部に限定して取り上げてみよう。ただこれだけでもちょっと長くなる。

ではひとまず下の表1を見てほしい。横並びのA1~M3席というのは結晶構造中の元素の存在する席で、その下にそれぞれの新鉱物がもつ元素を記した。
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表1.褐簾石亜族鉱物の結晶学的席と元素

 学名  和名 A1席 A2席 M1席 M2席 M3席
Ferriakasakaite-(REE) REEフェリ赤坂石 Ca REE Fe3+ Al Mn2+
Ferriandorosite-(REE) REEフェリアンドロス石 Mn2+ REE Fe3+ Al Mn2+
Vanadoallanite-(REE) REEバナジウム褐簾石 Ca REE V3+ Al Fe2+

 

まず緑簾石族というのはA1A2M1M2M3(Si2O7)(SiO4)O(OH)という化学組成をもつ鉱物たちのことを言う。A1、A2、M1、M2、M3という席にいろんな元素が入る。そして、A1に二価陽イオン、A2席にレアアース(REE)、M1とM2席に三価陽イオン、M3に二価陽イオンが入るものを褐簾石亜族という。さらにA1・M2・M3席の元素の組み合わせによって基準となる名前(ルートネーム)が定義される。そして褐簾石亜族の学名は「化学組成ルートネーム-(REE)」となっていることを念頭に、まずはルートネームの命名を説明しよう。A1・M2・M3がカルシウム(Ca)・アルミニウム(Al)・マンガン(Mn2+)だとルートネームは「赤坂石/akasakaite」となる。Mn・Al・Mnならルートネームは「アンドロス石/andorosite」で、Ca・Al・二価鉄(Fe2+)なら「褐簾石/allanite」というルートネーム。もしMn2+・Al・Fe2+というものを見つけたらそれは新しいルートネームをつけることができる。で、続き。そのあと「化学組成」の部分はM1席の元素種類で決まる。M1席には3価の陽イオンが入り、三価鉄(Fe3+)なら「フェリ/ferri」、バナジウム(V)なら「バナジウム/vanado」が「化学組成」の部分につく。もしM1席がアルミニウム(Al)なら何もつかない。そして最後に、A2席のレアアースの種類は「―(REE)」をルートネームの後ろにつける。ランタン(La)なら「-(La)」、セリウム(Ce)なら「-(Ce)」がルートネームの後ろにくっつく(サフィックスという)。このように褐簾石亜族の学名は「化学組成ルートネーム-(REE)という順序になっている。

ただし、和名にするときは「REE化学組成ルートネームという順番にする。その理由は学名の直訳だと収まりが悪いから。たとえば学名の「Ferriakasakaite-(La)」を直訳すると「フェリ赤坂石ランタン」となるが、なんだか鉱物っぽくない。やっぱり鉱物名なんだから最後は「石」で締めたい。ということで、「Ferriakasakaite-(La)」というのは「ランタンフェリ赤坂石」という和名になる、というか、そうします。

さて、ここで「ランタンフェリ赤坂石」の元になった「赤坂」についてちょっと述べておこう。この名前は島根大学教授の赤坂正秀に因んでいる。赤坂先生の業績はたくさんあるが、今回の新鉱物と関係する業績を紹介すると、緑簾石族を再定義しようという国際作業部会が立ち上がった際に、その研究実績を買われて赤坂先生は唯一の日本人研究者として参画している。となると日本で緑簾石族の新鉱物が見つかった場合は赤坂先生の名前はルートネームの有力な候補となるだろう。また赤坂先生は今回の筆頭研究者・永嶌さんが学位を取得したときの指導教員で、永嶌さんが緑簾石族マニアになったのは赤坂先生のせい(おかげ)でもある。こうなると永嶌さんが研究代表を務める国産の緑簾石族の新鉱物、その名前には「赤坂石」しか考えられない新鉱物には自ら発見に関わったものに自分の名前をつけることはできないというルールがあるが、師匠の名前をつけることには何ら制約はない。今回の新鉱物の命名は弟子から師匠への恩返しなのだ。

せっかくなのでもう一つの新鉱物「ランタンフェリアンドロス石」の元になった「アンドロス」についてもふれておこう。ルートネーム「アンドロス石」は、エーゲ海キクラデス諸島(ギリシャ)で2番目に大きな島、「アンドロス島」に由来している。そのアンドロス島の最も高い山(Mt. Petalon)にマンガン鉱石を目的とした試掘後があって、そこから産出した新鉱物にルートネーム「アンドロス石」が命名された。この鉱物は緑簾石族命名規約の改定を経て、「ランタンマンガニアンドロス石 / Manganiandrosite-(La)」という正式名称となる。そのフェリ(Fe3+)置換体に相当するのが、今回、我々の見つけた新鉱物「ランタンフェリアンドロス石」である。

さあいつものように鑑定のポイントを紹介しよう。といってもほとんどはランタンバナジウム褐簾石のときに書いてしまった。今回はその補足&訂正になる。まず、この産地に出る褐簾石亜族の鉱物には上に紹介した三種の新鉱物の他にランタンフェリ褐簾石がある(化学組成は上の説明から考えてみよう)。そしてこれら計四種は残念ながら見た目で区別することはできない。そしてマニアにはさらに残念なことに産状からの鑑定もあまり当てにならなくなった。ランタンバナジウム褐簾石はテフロ石に伴われるものだけしか見つかっていないというのは確かなのだが、あとの三種は困ったことに、ベメント石、テフロ石、菱マンガン鉱脈中であればどこにでも顔を出す。さらには数ミリ四方の小さな領域にランタンフェリ褐簾石・ランタンフェリ赤坂石・ランタンフェリアンドロス石の三種がいることは全然珍しくはない。見た目はおろか産状でさえ区別できないことになった。もはや全部の鉱物種を書いたラベルをつくれば良いだろう、きっとそれは正解だ。全体としてはランタンフェリ褐簾石≧ランタンフェリ赤坂石>ランタンフェリアンドロス石 >>> ランタンバナジウム褐簾石である。

この産地に限らず西南日本秩父帯に胚胎される鉄マンガン鉱床の起源は過去の海洋底の堆積物である。そして、その堆積物は太平洋の深海底にある中央海嶺の火成活動に伴って噴出する熱水が関係している。おおざっぱなストーリーは次。①中央海嶺の火成活動により噴出した熱水が海水中に拡散→②熱水に含まれる鉄・マンガンが酸化され懸濁物質になる→③懸濁物質が海水中に溶け込んでいるレアアース&レアメタルを吸着→④深海底に堆積→⑤プレート運動で日本側に移動→⑥ちょっと変成を受けた後に地上に上がり(付加体)、これが秩父帯中の鉄マンガン鉱床となる。こんな流れで、中央海嶺から熱水が噴き出して現在に至るまでのタイムスケールは数億年。要は伊勢の鉄マンガン鉱床中のレアアースやレアメタルは、もともとは太古の海洋に溶け込んでいたものだ(と考えている)。そういえば以前に「ランタンバナジウム褐簾石」のバナジウムの起源について、「海底に住んでいるホヤが体内にバナジウムを蓄積するからそれである」というコメントをもらったことがある。無邪気な発想ではあるがたぶんそれは無い。

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IMA No./year: 2013-069
IMA Status: A (approved)
模式標本:国立科学博物館(NSM M-43749:holotype, M-43750:cotype)

今吉石 / Imayoshiite

Ca3Al(CO3)[B(OH)4](OH)6・12H2O

Ettringite group

模式地:三重県 伊勢市 水晶谷

記載論文:Nishio-Hamane D., Ohnishi M., Momma K., Shimobayashi N., Miyawaki R., Minakawa T., Inaba S. (2015) Imayoshiite, Ca3Al(CO3)[B(OH)4](OH)6•12H2O, a new mineral of ettringite group from Ise City, Mie Prefecture, Japan., Mineralogical Magazine, 79, 413-423.

Imayoshiite
絹糸光沢を示す繊維状結晶が今吉石。重量の50%以上が水でできている鉱物。

三重県伊勢市からの新鉱物,今吉石(Imayoshiite)である。鉱物コレクター・今吉隆治(1905-1984)にちなんで命名されたこの鉱物は弟子(稲葉)から師匠への贈り物。それにしても昨年以降、伊勢市からは新鉱物の発見(承認)が相次いで、式年遷宮の日に承認された今吉石は伊勢鉱・ランタンバナジウム褐簾石に続いて3種目となる。いずれも超稀産の3種なので三種の神器にあやかって宣伝したいところだが、今後も続くかな?

さて新種を発見したら命名権は発見者にあるというのはなんとなく理解できるだろう。生物の新種の学名では誰が発見したかがわかるように、学名の一番最後に発見者の名前が入っていることが多い。こういうのを二名法と言う。ところが鉱物の場合は「自分が発見した新鉱物には自分の名前をつけることができない」 というルールがある。そのため新鉱物はたいていは地名とか鉱物学に関連する人物の名前にちなんで命名される。地名の場合はシンプルにその鉱物が発見された鉱山・集落・市町村・県の名前というのが候補になるが、人名の場合は基本的には何らかの形での鉱物学へ貢献したこと、もしくは鉱物学と深く関わっていることが命名の理由となる。前者のケースだといわゆる研究者が行った仕事が該当し、後者だと様々だが一つの関わり方として鉱物収集がある。そして今吉隆治(Takaharu Imayoshi)は間違いなく熱狂的な鉱物収集家の一人であった。それは亡くなるまでに集めた標本が一万点を越えていたというすさまじさからもわかるだろう。しかも佳品が多かったと聞いている。現在ではその多くは地質標本館へ収蔵されて研究のために有効に活用され、一部は展示で来館者の目を楽しませてくれる。まだ訪れたことはないが静岡県の奇石博物館には今吉隆治が最後まで手放さなかった秘蔵標本が展示されているらしい。そのうちこっそり行ってみよう。

前置きがちょっとズレたが、鉱物収集というのはたしかに個人の趣味として捉えられるものである。がしかし、鉱物収集は鉱物学との一つの重要な関わり方でもあって、それに突出した人物はやっぱり新鉱物名の候補となる。今回の新鉱物の名前を考える段になって、発見者の稲葉から提案された自らの師匠「今吉隆治」の名前は共著者みんなが納得のいくものであった。足立電気石のところでも紹介したが、日本では研究者ではない人物が鉱物名として採用されたのは、長島乙吉、櫻井欽一、益富寿之助、足立富男につづいて、今吉隆治が5人目となる。今後も鉱物収集家やローカルガイドは新鉱物名の候補となるだろう。

この鉱物の発見はざっくり30年前にさかのぼる。稲葉が伊勢市山中の蛇紋岩地帯を探索中に見つけたもので、産状は蛇紋岩中のゼノリス(捕獲岩)。発見当初からエットリング石グループの一種だとは考えられてはいたのだが、試料が少ない上に当時では分析が難しくて,う~んという状態がそこからなんと30年。まあずっと検討してたわけではなくてそれはほとんどあきらめていた期間に等しいが、昨年(2012)の夏くらいからいろんな人に協力してもらい、ようやく新鉱物としてのデータがそろって今回の承認となった。

全体の産状は皆川ほか(1986)に詳しいのでそれを参考にしてもらいたいが、今吉石の母岩は蛇紋岩中の斑糲岩ペグマタイト質のゼノリスで斜方輝石や斜長石が粗粒化している。そして今吉石は斜長石が熱水変質を受けた部分に産出する。要は真っ白でちょっとボロくなっている岩石の一部なのだが、今吉石は絹糸光沢を示す透明な繊維集合が脈状で産出する。稀にはその繊維状集合が六角形に配列する。また繊維状集合の一部では透明な塊状に粗粒化することもある。この岩石中で透明感のある結晶を形成するのは今吉石だけで、他の共生鉱物(加水石榴石、ゾノトラ石、トベルモリ石、バルトフォンテン石)はのぺっとした不透明白色塊の中にある。ごく一部に大江石がみられるが、これはちょっとパサっとした繊維状集合なのに対して今吉石は瑞々しい集合体なのでその違いはぱっと見で区別できる。それに今吉石は共生鉱物に比べて圧倒的に華奢でもろいので、これも鑑定ポイントである。いずれにしても今吉石は入っていればルーペが無くとも肉眼でも簡単に判別可能なのだが、一度は現物を見ておかないと初見での判別は難しいかもしれない。ところが今吉石を見る機会はそうそうやってこないと思う。と言うのも産地には今吉石を含むゼノリスが極端に乏しい。少しくらいあるだろうと現地に行ってみたがこれが無いんだな、ほんと~に無い、見事に無い、どうしようもない。あるのは霰石ばっかり。こうなるともはや肉眼鑑定以前の問題で今吉石のレアさは伊勢鉱の比でなどではない。いずれにしても新産地が見つかるまでは今吉石は最も見かけることの少ない新鉱物になるかもしれない。

今吉石はエットリング石グループに所属している。2008年に岡山県布賀鉱山からエットリング石グループであるチャールズ石のCO2置換体という鉱物の報告があり、我々も今吉石の再検討を始めた当初はこいつとイコールかと思っていた。しかしそれらは似て非なるもので、今吉石と布賀産の鉱物とは全然違うものとわかった。ついでに書いておくと布賀の鉱物はとりあえずまだ何者でもない。今後これが新鉱物となるかUnnamed Mineralのままでいるか、今後の推移を注意深く見ていこう。

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IMA No./year: 2013-034
IMA Status: A (approved)
模式標本:国立科学博物館(NSM M-43779)

岩手石 / Iwateite

Na2BaMn(PO4)2

Glaserite structured mineral

模式地:岩手県 田野畑村 田野畑鉱山

記載論文:Nishio-Hamane D., Minakawa T., Okada H. (2014) Iwateite, Na2BaMn(PO4)2, a new mineral from the Tanohata mine, Iwate Prefecture, Japan. Journal of Mineralogical and Petrological Sciences, 109, 34-37.

Iwateite
模式地標本 中央と右下部のクリーム色したつぶつぶが岩手石。目で見つけるのはすごく難しいというかほぼムリで破面からでは未だに見いだせない。これも切断・研磨 → 走査型電子顕微鏡のBSI像で確認 → もう一度切断面をじっくりみてようやく判別できた。

岩手石 / Iwateite
岩手石の後方散乱電子像。明るい粒がほとんどすべて岩手石。

岩手石 / Iwateite
顕微鏡写真。オープンニコルで白濁してみえる結晶が岩手石。クロスではほぼ消光。

「あまちゃん」人気で盛り上がっている岩手県からの新鉱物岩手石(Iwateite)である。岩手県田野畑鉱山を模式地とする新鉱物は多く、これまでに神津閃石、鈴木石、ソーダ南部石、わたつみ石、カリリーク閃石、田野畑石が発見されている。岩手石は7番目となる。岩手県からの新鉱物としては14種目か・・、ようやく岩手の名前がついた。私にとっては10種目、二桁に到達したメモリアル。

最初にちょっと脱線(長くなるけど)。田野畑鉱山のからの新鉱物で岩手石の共生鉱物である神津閃石だが、実はその名前が消滅してしまった。命名規約の変更で「神津閃石(Mn2+4Fe3+)」は「マンガノフェリエッケルマン閃石」となった。これがまた一見混乱する命名なのです。名前の後半の「エッケルマン閃石」というのは(Mg2+4Al3+)組成で,このFe3+置換体(Mg2+4Fe3+)には「マグネシオアルベソン閃石」という名前がすでにある。そうなると「(旧)神津閃石(Mn2+4Fe3+)」は「マグネシオアルベソン閃石(Mg2+4Fe3+)」のMg→Mn置換体、つまり「マンガノアルベソン閃石」に改名されるはずだとふつうは思ってしまう。ところがそうではない。なぜか?その理由はたった一つ、今回の命名規約改訂のキモはMgAlの優占種をルーツネームとして扱うことだから。つまり「(旧)神津閃石(Mn2+4Fe3+)」は「マグネシオアルベソン閃石(Mg2+4Fe3+)」のMn置換体という扱いではなくて、「エッケルマン閃石(Mg2+4Al3+)」というルーツネームのMn(マンガノ)とFe3+(フェリ)置換体にあたるので「マンガノフェリエッケルマン閃石」となったのだ。そうだとするとエッケルマン閃石というルーツネームのAl→Fe3+置換体に相当するはずの「マグネシオアルベソン閃石」はなぜ「フェリエッケルマン閃石」ではないのか?という疑問が生じる。ところがこの命名規約は「リーベック閃石、アルベソン閃石、アクチノ閃石、ヘスチング閃石などは消すと岩石学者が混乱するから例外的に名前を残してやる!んで、アクチノ閃石以外にはMg優占種にマグネシオってつけるから!ついでにふつう角閃石はMgAl優占種のルーツネームだけどこれにも例外的にマグネシオつけるから覚えとけよ!!」などとなっている。もうアホかと・・。どうせ分けるなら中途半端な例外なくして一つのルールできっちり仕分けてください。むしろ混乱を助長しとるわ。愛媛閃石も消されたしコノメイメイキヤクボクダイキライ。神津閃石→マンガノフェリエッケルマン閃石は病膏肓に入った鉱物マニアでも理解できてなくて、たとえばマニアの集まりMindatでもマンガノアルベソン閃石になってる(2013/07/01現在)。それまちがっとるよ。

さて本題。日本の場合では新鉱物の申請を行うにあたり必須ではないが推奨される手順がある。日本の鉱物学会には新鉱物・命名・分類委員会というのがあって、そこでは本申請に先立って申請書を事前にチェックしてコメントをくれるので、まずはそこに提出するのがお奨めのやりかた。新鉱物申請の経験者ばかりで構成されているので、この委員会のコメントを参考に修正した申請はたいてい本番でも問題なく通ることが多い。もちろん今回の岩手石も申請に先立ってこの委員会からのコメントを求めたのだが、鉱物データ以外の思いがけない指摘を受けてしまった。

実は委員会にコメントを求めた時点ではこの鉱物はみちのく石(Michinokuite)としていた。産地が岩手、つまり東北なんで「東北」=「みちのく」ってことで良いじゃない。石そのものは地味だとは思う「みちのく石」は「わたつみ石」に匹敵するくらいすてきな名前だとも思っていた。ところがその「みちのく」がよろしくないというコメントであった。要は「みちのく」って場所がいろいろ変わってきてるし、岩手県田野畑村がその代表とはちがうんじゃない?それにこの鉱物が東北で普遍的に産出するものでもないだろうから、まあやめときなよと言うものでした。未知の苦じぇじぇじぇっ!?

そうなると名前は再考、次の候補は人名・地名である。人名で真っ先に思い浮かぶのは石っ子賢ちゃんこと宮沢賢治地名だと岩手。でも待てよイーハトーブもとい岩手あっての宮沢賢治だろ?そして鉱物には岩手の名前ががまだない、ということで岩手を先に採用しました。もちろん岩手石ができたからには次は宮沢賢治の名前を採用したい。

さあ、岩手石の肉眼鑑定ポイントに移ろう。胸を張って言うが絶対無理!!。夢のない発言だが肉眼鑑定はもうあきらめてください。薄片にすればそれなりにわかるが、肉眼では無色透明で小さく結晶外形もこれといって特徴が無いのでどれがなにやらさっぱりわかりません。ただそれでもどうしても手に入れたいという熱心な愛石家はいると思う。そのような方々のために一つだけ朗報がある。なぜか岩手石はセラン石の結晶中にいることが多く、セラン石のかたまりから薄片を作ると50%くらいの確率で見つかる。まあたまたまかもしれんけど。

田野畑鉱山からの新鉱物はこれまでにたくさん発見されていて色や特徴的な産状が目につくが、実はそれが盲点になっている。結果として研究者もアマチュアも目につくモノだけしか調べて(採って)いない。まあ当然だろう。だが田野畑にはおもしろい元素が目白押しなので、組み合わせによっては白とか透明とか目立たない形の新鉱物があるだろうと思って研究が始まった。ではどうやって目に見えない鉱物を見つけるのか?そればかりは研究者の特権かもしれない。研究者の使う走査型電子顕微鏡(SEM)は重たい元素を持っている鉱物が明るく、軽い元素からできている鉱物は暗く写る。その明暗が強くなるように調整すると、岩手石のように重たい元素(BaやSr)を持っている鉱物だけがまるで夜空の星のように白く輝く。ここは私たちだけがたどり着いた銀河の河原。この礫(こいし)はみんな新鉱物だ。中で小さな火が燃えてゐる。

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IMA No./year: 2012-101
IMA Status: A (approved)
模式標本:国立科学博物館(NSM M-43748)

足立電気石 / Adachiite

CaFe2+3Al6(Si5AlO6)(BO3)3(OH)3(OH)

Tourmaline supergroup

模式地:大分県 佐伯市 木浦鉱山

記載論文:Nishio-Hamane D., Minakawa T., Yamaura J., Oyama T., Ohnishi M., Shimobayashi N. (2014) Adachiite, a Si-poor member of tourmaline supergroup from the Kiura mine, Oita Prefecture, Japan, Journal of Mineralogical and Petrological Sciences, 109, 74-78.

adachiite_1
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模式地標本 一般的には黒色柱状結晶の集合として産出する。不透明というわけではなく、強い光をむりやりあてると小さい結晶なら透明であることが確認できる。実際には鉄電気石と複雑な累帯を成し、その一部が足立電気石となる。この産地の電気石はほとんどの場合で足立電気石を含んでいる。

電気石グループの新種,足立電気石(Adachiit)eで、いわゆるチェルマック置換型の電気石となる。チェルマック置換型の電気石は足立電気石が世界初となる。世界でもっともシリコンの少ない(逆説的にアルミニウムの多い)電気石ということ。チェルマック置換型は輝石とか角閃石ではよくあるのに電気石ではなぜか知られていなかった、不思議だね。

世界初となる電気石の鉱物名には足立富男 氏(1923-) の名前をいただいた。氏は宮崎県延岡市在住で御年90歳。宮崎県下の高校で教鞭をとっておられた方で研究機関の研究者ではない。しかし氏は鉱物だけではなく地質や化石などいわゆる地学全体に対する造詣が深く、また宮崎県内だけでなく九州各地を踏破してその地質・鉱山を知り尽くしている。地学教育の普及活動にも熱心で、学生を連れて地学巡検を積極的に行っていたとも聞いている。こういった地域に根ざした活動を行う人を「Local guide」と言って、研究者はこのような方に現地を案内してもらって研究を行うことが多い。とうぜん氏のこれまでの活動による鉱物科学への貢献は大きく、九州産の新鉱物の名前にふさわしいと思って関係者に提案してみた。もちろん異論なし!皆川先生を通じて足立先生へお伝えし、ご本人の了承をいただいた上で申請した。無事承認されてよかった。

日本産新鉱物はこの時点で120種に達しようというところであるが、プロ研究者ではない人物の名前が鉱物名に採用された例は長島乙吉(1890-1969) [長島石(Nagashimalite:IMA1977-045),桜井欽一(1912-1993) [桜井鉱(Sakuraiite:IMA1965-017)、欽一石(Kinichilite:IMA1979-031)],益富寿之助(1901-1993) [益富雲母(Masutomilite:IMA1974-046)] だけで、非常に希である。欽一石以来、実に34年ぶりとなる。足立電気石が承認された日は2013年4月2日、その日は下に掲載したランタンバナジウム褐簾石のプレスリリース日でもあったため、取材の電話がガンガン鳴っている中でのもうひとつのうれしい通達だった。

足立先生の名前は既にクサリサンゴ化石の一種にも採用されており、石・鉱物の両方に名前が採用されることはたいへん稀である。おめでとう足立先生。

大学4年生~修士過程の私の研究テーマは「ラテライト質変成岩中の鉱物」で、大分県木浦鉱山のエメリーはまさにそのものだった。そんなわけで木浦鉱山のエメリーから新鉱物を発見できたことは原点回帰のようにも思う。もう10年以上まえになるが初めて訪れる木浦鉱山を案内してくれたのが足立先生だった。足立先生は覚えてないだろうが、クソ狭い道を軽バンでカっ飛ばして一日で広い木浦鉱山を5カ所くらい案内してくれた。坑道にも入って公民館の展示も見てとあわただしかったが、その健脚にはおどろくばかり。最後に川のほとりの雑貨屋でお茶を出してもらってようやく落ち着いた。

さて、足立電気石はエメリー鉱石を貫く熱水脈中に真珠雲母や緑泥石、たまにダイアスポアを伴って産出する。エメリー鉱石はコランダムとスピネルで主にできていて、その堅さがウリの商品である。純度の高いエメリー鉱石はうっすら青みを帯びた黒色緻密な塊であり、ハンマーでたたくとキンキンと音がしてまあまず割れない。逆に真珠雲母や緑泥石を伴うような鉱石は変質を受けていて比較的柔らかくて割れやすく、それ故に売り物にもならずで出荷できないゴミとして捨てられてしまう。事務所の人からもいくらでも持って行けと言われるここの真珠雲母は手に入りやすかった古典標本なので一度は手にした人も多いと思う。その真珠雲母や緑泥石に埋もれるかたちで黒色柱状結晶が入っており、これが足立電気石だ。外観は一般的な鉄電気石そのものなので愛石家なら間違えることはまず無いだろう。実際には鉄電気石と類帯しているのだが、ほとんどすべての試料に足立電気石が含まれるから遠慮無くラベルをつけてしまおう。映える標本はむしろ風化しきったモノが良い。一見泥をかぶった標本は亀の子たわしで遠慮無くガシガシこすると頭付きの結晶が出てくるので、小汚く見えるモノのほうが実は宝物だったりする。ステキな結晶もズタボロの真珠雲母をツンツンしてたらポロッとでてきた。

エメリー鉱の産出は日本ではこの木浦鉱山のみと地元では説明されているが実はそんなことはなく、愛媛県小大下島(こおおげしま)にも立派なエメリー鉱が産出する。ただ小大下島エメリーには電気石は無かった。まあそれはさておいてもエメリー鉱を「ラテライト質変成岩」ととらえると産地はもっと広く、愛媛県弓削島、明神島、睦月島にも産出が認められる。足立電気石の発見を受けてラテライト質変成岩っておもしろいなと改めて思うし、新鉱物がでる手がかりをつかんでいるのでなんとか形にしなければ・・。

このページを読んでいるくらいの深刻な鉱物マニアなら堀秀道先生の「楽しい鉱物鉱物図鑑」はすでにもっていると思う。この本は私が初めて買った鉱物の本で,36ページに出てくるA氏が足立先生であることを知ったのは本当にごく最近だった。

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IMA No./year: 2012-095
IMA Status: A (approved)
模式標本:国立科学博物館(NSM M-43737)

ランタンバナジウム褐簾石 / Vanadoallanite-(La)

CaLa3+V3+AlFe2+(Si2O7)(SiO4)O(OH)

Allanite subgroup in Epidote group

模式地:三重県 伊勢市 矢持町菖蒲

記載論文:Nagashima M., Nishio-Hamane D., Tomita N., Minakawa T., Inaba S. (2013) Vanadoallanite-(La): a new epidote-supergroup mineral from Ise, Mie Prefecture, Japan, Mineralogical Magazine, 77, 2739-2752.

Vanadoallanite-(La)_1
模式地標本 この産地の褐簾石亜族の新鉱物は見た目では区別できないので、とりあえずこの結晶を本鉱としておきましょう。

Vanadoallanite-(La)_2
模式地標本 タイプ標本からのピックアップした結晶のSEM写真

ランタン(La)とバナジウム(V)に富む褐簾石の新種・ランタンバナジウム褐簾石(Vanadoallanite-(La))である。緑簾石グループの中の褐簾石サブグループに分類される。この仲間は命名規約(ルール)があるので名前に選択肢は無く、ちょっと長いこの名前になった。発見地は伊勢鉱と同じところ。山口大からプレスリリースを発信してもらったのでそちらも参考にどうぞ。

さて筆を進めよう。稲葉が地元の祭りに参加した際に山道の脇に放置された鉱石を偶然に目にしたのがきっかけで、ここから一連の研究が始まった。ここの鉱石はまあ地味で、熟練の鉱物マニアでさえ蹴飛ばすような一見つまらない鉄・マンガン鉱石なのだが、稲葉は東海地域の鉱物の研究を長年続けている愛好家で、このつまらなさそうな鉱石でさえ注意深く観察した。そしてその観察眼はさすがと言うべきだろう,稲葉はテフロ石・ベメント石脈中に見慣れない黒褐色の板柱状鉱物に気づいた。これが今回のランタンバナジウム褐簾石の発見につながった。ただ研究そのものは後に見つかった伊勢鉱の方が先に進んでしまい、新鉱物としてはこの産地で二番目となった。

ここは秩父帯という地質でそもそもは太平洋海底の堆積物が起源。その堆積物がプレートテクトニクスによって数億年かけて日本列島の方へ移動し、はぎ取られ、再び地表に現れたのが今の姿。こうやってできた地質を付加体という。秩父帯の元になった堆積物が溜まった数億年前と現在堆積しつつある海洋底の条件が同じとは限らないが、近年話題の南鳥島近海のレアアースをふくむ泥は数億年後には今の秩父帯のような地質になるかもしれない。まあ付加体にはなるだろう。いずれにしてもかつて海洋底堆積物だったはずの付加体でもレアアースの資源調査は望まれる。ただしこういった類の調査がどの程度進んでいるかに関しては論文が少なくてよくわからない。それに鉱物屋としては海底の泥もそうだが、変成度の低い秩父帯ではどんな鉱物にレアアースが含まれるかを明らかにすることのほうが気になる。四国の秩父帯の鉄マン鉱床からはちょっとまえにもレアアースを含む新鉱物が発見されたばかりなので、今回新たに三重県から見つけた秩父帯の鉄マン鉱床についてもレアアース鉱物の調査を行う価値は十分にある。

そんな事情もあって伊勢の鉄マン鉱床からもレアアースのホストである褐簾石が産出したというのはやっぱり新しいかつ重要な発見となるだろう。そこで褐簾石を詳細に検討して鉱物種を確定させようと試みたところ、多くの褐簾石はランタンと3価鉄(Fe3+)に富む種類の褐簾石、すなわちランタンフェリ褐簾石(Ferriallanite-(La))と同定された。ランタンフェリ褐簾石はごく最近発見されたばかりでものすごく珍しい。さらに詳しく調べていくと一部の褐簾石は3価鉄よりもバナジウムに富むことがわかってきた。ランタンとバナジウムに富む褐簾石となると珍しいどころか新種である。一方でこれを新鉱物として申請するには困難が予想された。実際に手間取ったせいで後に見つかった伊勢鉱のほうが新鉱物として先に世に出ることになった。

褐簾石を含む緑簾石グループの鉱物を記載するには今ではしっかりとした命名規約(ルール)があるが、昔はこのルールが無かったせいもあり種の同定は研究者でも勘違いや間違えたりするくらいややこしかった。科博の松原先生が勘違いでストロンチウム紅簾石を日本産新鉱物にしそこねた話は有名(?)である。まあややこしいからルールができたと考えれば良いだろう。いずれにせよこのグループは新しい組成を発見しただけでは新鉱物としては承認されない。各元素、今回はランタンとバナジウムが結晶構造の中のどこにいるかを決めることが必要なのだが、これがまた難しくてこの新鉱物候補は私の手に余った。そこで褐簾石を含む緑簾石グループを広く研究して学位を取得し、その業績で鉱物学会の奨励賞も受賞している山口大学の永嶌真理子さんにコンタクトをとり協力をお願いした。さすがは名うての緑簾石族マニア、彼女の活躍で晴れて新鉱物の承認を得ることができた。

名前について触れておこう。「褐簾石」とは京都の大文字山に産する結晶の外観から命名された和名で、褐色をした簾のような石という意味である。1903年(明治36年)に名付けられ、,そこからこの和名が慣習となり現在に至っている。しかし褐簾石の学名である「allanite」というのは、スコットランド人の鉱物学者 Thomas Allan (1777-1833) にちなんでいることは心に留め置こう(発見は1812年にGreenlandから)。和名はしばしばオリジナルを踏襲しない。かといって今更「アラン石」なんて馴染まんので和名としては「褐簾石」をもつかうことにする。ゴメンよAllanさん。和名はいつも悩ましいが、統一的な見解や用法はまだ整備されていないという現実がある。

そうそう一般的な褐簾石はレアアースの他にトリウム(Th)やウラン(U)を含んでおり、それらから生じる放射線のダメージで結晶構造が壊れていることが多い。しかしこの産地の褐簾石はトリウム・ウランを持っていないので結晶構造はしっかりと保たれている。

さあ鑑定ポイントに移ろう。この産地の褐簾石はベメント石やテフロ石脈中に最大1ミリ程度で、おおむね0.1ミリくらいの黒褐色の板柱状結晶としてポツポツと埋没している。松脂質にぎらつく割れ口や表面のテリは褐簾石特有のものである。この鉱物は割れやすくて新鮮な母岩を叩いて完全な結晶を得るのは困難なのだが、ベメント石やテフロ石が風化してネオトス石+粘土みたいになっているところでは褐簾石は完全な結晶を見せることがある。このような標本はなかなか見栄えが良い。いずれにしても10倍のルーペでも観察は比較的容易だし、似たような鉱物は産出しないので間違えることはないだろう。ただ伊勢鉱とは産出がまったく無関係なのでそちらに気が向いているとまず見落とす。

もう一点ポイントを追加しておく。ここの褐簾石は同じ脈中のモノでも組成が異なる。鉱物種がランタンフェリ褐簾石~ランタンバナジウム褐簾石の間で変化して、これらを肉眼で区別することはできない。そのため確実なランタンバナジウム褐簾石は薄片なり単結晶構造解析に使った粒だったりして標本として適さないのだが、ある程度の経験則はある。ベメント石よりもテフロ石脈中の結晶のほうがバナジウムを多く含む傾向がある。そんなわけで私はテフロ石脈中のものや、それが風化してネオトス石に変質した産状のものにランタンバナジウム褐簾石のラベルをつけている。確実な標本とは言えないが、個人で愉しむ分には産状を目安にして分類するのがよいだろう。

この産地の新鉱物はこれでふたつ。それにしてもここの鉄マン鉱床は不思議。伊勢鉱で明らかとなったマンガン(Mn)とモリブデン(Mo)という組み合わせもそうだが、これまでになかった元素の組み合わせがどんどん見つかる。レアアースにしても通常のレアアース鉱床はセリウム(Ce)に富むことが多いが、この鉱床のレアアースはセリウムが少なくランタンに富むモノがほとんど。環境を考えるとそれともセリウムだけが選択的に消え去ったのだろう。そうなると現在のレアアースの堆積場である南鳥島近海の泥のレアアースの種類や量比とリンクしていなと感じる。いずれにしても天然の地質作用の必然なのだろう。

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IMA No./year: 2012-035
IMA Status: A (approved)
模式標本:国立科学博物館(NSM M-43670:holotype, M-43671:cotype), 京都大学博物館(#KUM-M00001:cotype)

箕面石 / Minohlite

(Cu,Zn)7(SO4)2(OH)10・8H2O
Chemically related to schulenbergite

模式地:大阪府 箕面市 平尾

記載論文:Ohnishi M., Shimobayashi N., Nishio-Hamane D., Shinoda K., Momma K., Ikeda T. (2013) Minohlite, a new copper-zinc sulphate mineral from Minoh, Osaka, Japan. Mineralogical Magazine, 77, 335-342.

Minohlite
これは箕面石。

シュレンベルグ石 / Schulenbergite
こちらはシュレンベルグ石。

大阪府箕面市から発見されたアップルグリーンのきれいな新鉱物・箕面石(Minohlite)。大阪府からの新鉱物としては2例目となる。大阪初の新鉱物は大阪石(Osakaite)で、これも大西氏が発見し研究も筆頭でとりまとめている。鉱物の学名は最後に「ite」もしくは「lite」をつけることになっている。これはラテン語で「石」という意味から来ており、どっちをつけるかは著者の好み。日本産では昔は「lite」が多かったが最近は「ite」が多い。世界の傾向もそうなっている。箕面石には「lite」がついた。

箕面石や大阪石のような鉱物はいわゆる二次鉱物に分類される。元々あった鉱物が水や空気やなんやかやと反応して別種に変わったものを指すが、何回変わっても二次と言う。幾度の反応を経由したことがわかっていても三次鉱物、四次鉱物とは言わない。「二番目」ということではなく「派生的な」という意味でとらえるとちょうど良いだろう。箕面石の場合は黄銅鉱や閃亜鉛鉱が分解してできたと推測される。

鉱物」の定義をざっくり言うと「質学的作用で生じる体物質」となる。一方で二次鉱物は鉱山跡:人間が掘った坑道や石捨て場(ズリ)で生じることがしばしばある。そのような人の手が加わったところで生じる二次鉱物は果たして「天然」という条件を満たすか?という疑問は素直な感覚だと思う。それでも二次鉱物は鉱物として扱われる。人間が掘ったからこそ生じたモノであっても人間が掘った後に進行した作用は天然の地質学的作用であるからOKという扱いである。

「天然」をどこまで適用するのかは難しいが、「からみ」から派生したモノはアウト。「からみ」とは鉱石から必要なモノを取り出した後の搾り滓のことで、鉱山跡にはよく放置されている。石垣に使われることもある。そしてその「からみ」が変質を受けて何らかの派生的な物質を生み出すことがしばしばある。たとえば海岸に放置された銅鉱石の「からみ」をたたき割るとその空隙には緑鮮やかな(パラ)アタカマ石が見事に結晶化している。しかしこれは鉱物としては認められない。世界初の物質であっても「からみ」中のモノは鉱物としての資格がない。その理由は、「からみ」は元素を濃集させる作用を「人工的」に行っているから。ただし「からみ」中には非常に珍しいモノが結晶化していることもあり、採集のターゲットとしては結構おもしろい。

今回の箕面石は鉱山の堀跡から採集された二次鉱物である。白色の母岩は主には菱亜鉛鉱と緑泥石(シャモス石)の混合体で、黄銅鉱がちらほらと見える。箕面石はアップルグリーンの皮膜状や粒状で母岩の上にちょこんと乗っている。粒のサイズは100ミクロンくらいあるのでルーペ無しでもなんとか視認はできる。20倍くらいのルーペでがんばれば鱗片状の組織が見えるかもしれない。またサーピエリ石やラムスベック石が箕面石の粒集合の中にポツンといたりする。全体的には白地の母岩にアップルグリーンの箕面石ばかりという産状なので鑑定はそれほど難しく無いように思えるが、同様の産状のシューレンベルグ石と並べられたら鑑定は難しい。組成的にも構造的に関連が疑われるので当然だが、箕面石の方がわずかに緑色が強く、かたちもほんのわずかにしっかりしている様に感じられる。

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IMA No./year: 2012-020
IMA Status: A (approved)
模式標本:国立科学博物館(NSM M-43652 )

伊勢鉱 / Iseite

Mn2Mo3O8

Kamiokite Group
Mn-dominant analogue of Kamiokite

模式地:三重県 伊勢市 矢持町 菖蒲

記載論文:Nishio-Hamane D., Tomita N., Minakawa T., Inaba S. (2013) Iseite, Mn2Mo3O8, a new mineral from Ise, Mie Prefecture, Japan. Journal of Mineralogical and Petrological Sciences, 108, 37-41.

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Iseite_2
模式地標本

三重県伊勢市から発見された新鉱物「伊勢鉱/Iseite」である。ちょうど一ヶ月前に科博の研究チームによる新鉱物・イットリウム苦土ローランド石(Magnesiorowlandite-(Y))が三重県からの新鉱物として承認され、我々の発見した伊勢鉱はそれに引き続いての承認となった。こんなの滅多にない。伊勢鉱も新聞報道され、平成24年7月3日中日新聞朝刊で紹介されている。

2013年時点で鉱物種は約4700種あるが、実はマンガン(Mn)とモリブデン(Mo)を主成分とする鉱物は伊勢鉱が世界初。一見あり得そうなこれら元素の組み合わせがこれまで天然ではなかったことは意外だった(合成物は存在する)。まあとにかく天然の地質作用は我々の想像より多様性に富んでいたということで、それを体現する伊勢鉱は学術的にもおもしろい鉱物だろう。

三重県からはこれまで3種の新鉱物が発見されている。カリ鉄パーガス閃石、イットリウム苦土ローランド石、そして今回の伊勢鉱となる。三重県からの新鉱物では3種目にして初めてルートネームがついた。旧国名「伊勢国」、現在の「伊勢市」から見つかった鉱物なので「伊勢鉱」と名付けた。「三重鉱」も候補だったがここはやはり「伊勢」の方がふさわしいだろう。「伊勢海老」や「伊勢神宮」のおかげもあって「伊勢」という名前には高級感と神秘的なイメージがすでにある。そういえば「伊勢」は神様の名前に由来しているらしい。そう思うとこの一見地味なこの新鉱物も神々しく輝いて見える気がしてきた

金属光沢を持つ鉱物の和名は最後に「鉱(こう)」がつき、それ以外には「石(せき)」をつけるのが一般的なのだが昔はちょっと違った。その鉱物が有用な金属を含むかどうかが「鉱」・「石」の判断基準だった。例えば共生鉱物の菱マンガン鉱。化学組成はMnCO3でピンク色した透明な鉱物であるので菱マンガン石となるべきところが、なぜか菱マンガン「鉱」である。命名されたのは明治時代。そのころマンガンは重要な金属だった。鉱物になぜ「石」・「鉱」がついてるかを歴史に照らし合わせるとおもしろいかもしれない。日本から鉱山がすごい勢いでなくなってきだしたころから「石」・「鉱」の付けかたが今のセンスとなっている。

伊勢鉱は単独で菱マン中に集合体を作り、伊勢鉱と輝水鉛鉱の共存はむしろレアケース。その理由として硫黄がちょっとでも存在するとモリブデンは真っ先に硫黄と反応して輝水鉛鉱を作るのでそのなかでモリブデン酸化物は存在しにくい。それでも輝水鉛鉱との共存も無いことはなく、共存する標本は集合体の中で伊勢鉱の結晶面にコントラストがつくのでむしろ見分けやすい。一方で輝水鉛鉱の標本にむやみに「伊勢鉱を含む」といったラベルを貼るのはお奨めしない。基本的にはそれくらい輝水鉛鉱中には無いとい。そもそもここでは輝水鉛鉱すら希産であった。「同じ脈に伊勢鉱が発見された」とか「伊勢鉱が見つかった石の一部」とか書いてある標本も当てにならないと思う。

鉱石は磁鉄鉱・赤鉄鉱・カリオピライトが基質のいわゆる鉄マン。ベメント石・テフロ石・菱マンガン鉱が様々に基質を貫いており、菱マン脈中に輝水鉛鉱がまれに含まれる。伊勢鉱も菱マン脈中にきわめて希に含まれるが伊勢鉱は輝水鉛鉱とものすごく紛らわしい。なんというか、輝水鉛鉱はわかるのだが伊勢鉱がわからない。一見それっぽいモノでも詳しく調べると輝水鉛鉱だけというのがほとんど。硬度(伊勢鉱は4-5,輝水鉛鉱は1)が鑑定のポイントになると思うだろうが、引っ掻こうにも菱マン(硬度4)がじゃましてよくわからないし手加減を間違えると標本がふっとぶ。菱マン混じりの輝水鉛鉱ほど伊勢鉱そっくりに見えるから始末が悪い。伊勢鉱のほうがやや黒っぽく結晶片が大きくキラつくいて見えるのが輝水鉛鉱との違い。でもまあその程度。伊勢鉱の肉眼鑑定難易度はレベルMAX。金をかけずに伊勢鉱を手っ取り早く鑑定するには研磨薄片を作れば良い。一部をひっかいて接着剤でガラスに固定して紙やすりで#6000くらいまでスリスリすると輝水鉛鉱は周囲の菱マンよりくぼむけど伊勢鉱はくぼまない。

先にも述べたように特異な地質作用の証拠である伊勢鉱はおもしろそうで,もっと詳しく研究をしたいのだがいかんせんあまりにも希少。一方で伊勢鉱を胚胎する鉱床は秩父帯の層状鉄マン鉱床で、同じような層状鉄マン鉱床は四国に広く分布している。そのため四国にも産出の可能性はあると思っているが,伊勢と名付けてしまったからには伊勢でしか産出しないというほうがおもしろいかもしれない。

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IMA No./year: 2011-099
IMA Status: A (approved)
模式標本:国立科学博物館(NSM M-43517)

イットリウム高縄石 / Takanawaite-(Y)

YTaO4

Polymorph of:Formanite-(Y), Iwashiroite-(Y), Yttrotantalite-(Y).
M-type polymorph.

模式地:愛媛県 松山市 高縄山

記載論文:Nishio-hamane D., Minakawa T., Ohgoshi Y. (2013) Takanawaite-(Y), a new mineral of the M-type polymorph with Y(Ta,Nb)O4 from Takanawa Mountain, Ehime Prefecture, Japan. Journal of Mineralogical and Petrological Sciences, 108, 335-344.

Takanawaite-(Y)
模式地標本 この産地のペグマタイトはほとんど雲母を伴わず、高縄石は石英と長石の境界に産する。メタミクト化しており非常に脆いため岩石を割る際の衝撃でほとんど割れてしまう。結晶面が見えることは稀。放射状に集合する傾向がある。

高縄石/takanawaite-(Y)。またしても愛媛県からの新鉱物となった。和名を正確に表現すると「イットリウム高縄石」だろうか。とりあえずツールネームの「高縄」を強調しよう。2011年は当たり年だったようで3つ目の新鉱物を申請することができた。

鉱物の名前の付け方にはいくつかルールがある。今回は希元素を含む鉱物名の付け方のお話。Takanawaite-(Y)は見てのとおり前「Takanawaite」と後「Y」に分かれている。前をルートネーム、後ろをサフィックスと呼ぶ。まずはルートネームのほうから説明しよう。簡単に言うとルートネームは希元素以外の化学組成と構造のことを指している。例えば希元素をREEで表したとする。そうすると「takanawaite」とはREE(Ta,Nb)O4で結晶構造が単斜晶系( I 2/aのという意味になる。岩代石(Iwashiroite)だとREETaO4単斜晶系( P 2/a、フォーマン石(Formanite)だとREETaO4正方晶系( P 格子)、イットロタンタル石(Yttrotantalite)だとREETaO4斜方晶系ということになる。次にサフィックスについて。要は含まれる希元素で最も多いものを指す。最後に(Y)がついていればイットリウムが、もし(Gd)だったらガドリニウムが一番多く含まれているという意味となる。仮にGd(Ta,Nb)O4の化学組成の鉱物が見つかったとする。このとき結晶構造が単斜晶系( I 2/aなら問答無用でそれはtakanawaite-(Gd)である。結晶構造が上記のいずれでも無い場合は新たルーツネームをつけられる。

合成実験ではY(Ta,Nb)O4には3つの安定相があることが知られており、それらはT, M, M’相と記述される。Y(Ta,Nb)O4鉱物はこれまでフォーマン石、イットロタンタル石、岩代石があり、岩代石はM’相にあたる。では,高縄石は何に相当するかというと,M相である。残りはT相なのだが、実はまだ発見(承認)されていない。

そうなるとフォーマン石とイットロタンタル石はいったい何者なのか?実はこの二つは合成実験では存在が確認されていない。記載年代も非常に古く、結晶構造と化学組成に関してデータが曖昧なままとなっている。しかしながらそれでも有効な鉱物種(valid species)となっているので非常に困る。さらには紛らわしい論文が存在し、そのせいで誤解する審査員もでてきて、高縄石の審査にはちょっと時間がかかった。まあともかく高縄石は新鉱物である。さあ論文を書こう。

高縄石は2002年の鉱物学会で一度はフォーマン石として報告している。加熱によるメタミクトからの構造回復の挙動がフォーマン石とやや異なることに当時から違和感を感じていたのだが、そのときは決定打がわからなかった。こういうのを「見落としていた」「勘違いをしていた」という言い方もあるが、簡単にはそのときの私には「見抜けなかった」のである。おかげで10年もほったらかすことになってしまった。

高縄石の産地・高縄山はもともとガドリン石の産地として有名だったが、私が愛媛大にいたときにはすでに産出が絶えて久しかった。そんな中2001年3月24日 芸予地震が発生した。各地で様々な被害を出しつつ高縄山でもいくつか崩落があった。そのうちガドリン石を産出するペグマタイトがピンポイントで大ダメージをうけ、道をふさぐほど大量に崩落したのである。その際に一時的にガドリン石の産出が復活し、そこに高縄石(当時はフォーマン石と思っていた)が多産した。それから約10年後、2011年3月11日の大震災を受けて今年度に予定していた研究がいくつかストップしてしまった。さてどうしようかと思いあぐねていたところに地震つながりでやや曖昧なままになっていたこの鉱物のことを思い出した。災い転じて福となす。昔に採集した試料を用い、当時よりは成長したであろう知識・技術で再検討したところ、新鉱物としての再発見につながった。

この産地で高縄石とやや間違えやすい鉱物はジルコンである。ともに放射状に集合する。しかし高縄石が板状結晶集合体であるのに対し、ジルコンは棒状の集合体である。ルーペがあれば間違えることはないだろう。黒緑色の最大2cmはある粒状結晶はガドリン石だ。結晶面が見えるものも多い。ものすごくレアだが灰色の棒状結晶がまれに見つかることがある。トルトベイト石を期待したのだがこれは褐簾石であり、すべてセリウムタイプだった。結晶の周囲に白色粉状のものが認められるのでセリウムラブドフェンが期待できるのだが手持ちの試料に乏しくまだ詳しく検討できていない。

さて愛媛閃石に引き続き高縄石も産経新聞に掲載された。翌日にはあいテレビ(NEWSキャッチあい)で報道され、さらに翌々日には愛媛新聞にも掲載された。「レアアースの新鉱物」という見出しで予想外に注目された。さあ次にいこう。 目指すのは日本発世界初。まずは発見しなければ何事も始まらない。

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IMA No./year: 2011-043
IMA Status: A (approved)
模式標本:国立科学博物館(NSM M-41299)

宮久石 / Miyahisaite

(Sr,Ca)2Ba3(PO4)3F

Apatite supergroup

模式地:大分県 佐伯市 下払鉱山

記載論文:Nishio-Hamane D., Ogoshi Y., Minakawa T. (2012) Miyahisaite, (Sr,Ca)2Ba3(PO4)3F, a new mineral of the hedyphane group in the apatite supergroup from the Shimoharai mine, Oita Prefecture, Japan. Journal of Mineralogical and Petrological Sciences 107, 121-126.

Miyahisaite_1
miyahisaite_2
模式地標本 だいたい同じ視野を写真とBEI像で並べてみた。下のBEI像で白い部分が宮久石で,その中心にあるやや明るい灰色はフッ素燐灰石。

愛媛閃石の新鉱物承認からちょうど1ヶ月後に承認された新鉱物宮久石/miyahisaiteである。タイミング的に2011年の鉱物学会の予稿提出〆切に承認が間に合わなかったので2012年の鉱物学会で発表しようと思っているが、論文の方が先になってしまった。

名前の由来は愛媛大学教授であった宮久三千年(みちとし)にちなむ。共著者・皆川には二人の師匠がおり,一人は桃井石榴石の名前の由来となった桃井斉、もう一人が宮久三千年になる。私は皆川先生を通じて宮久先生と桃井先生の孫弟子にあたる。宮久先生は九州大分の出身で、九州の地質・鉱山の研究を通じて日本の鉱物学の発展に大きく貢献された。九州もしくは分県からの新鉱物に名前をつけたいと思っていたところであった。

この鉱物を発見した当初は別の鉱物名を考えていた。というより命名規約から一意に決まってしまうと思っていた。この鉱物の組成をもっとも単純に考えると(Ba,Sr,Ca)5(PO4)3Fと書くことができる。これは既存鉱物・アルフォース石/alforsite,Ba5(PO4)3Clのフッ素置換体に相当する。そうなるとこの鉱物は「フッ素アルフォース石」と名付けるしか無い。もちろんこの場合でも新鉱物であるがちょっと冴えないと思っていた。しかしこの鉱物の構造は特殊で組成と構造を詳しく検討すると(Sr,Ca)2Ba3(PO4)3Fと表現すべき鉱物であるというのがわかった。そこで本鉱の産地・九州大分県ゆかりの人物で、皆川の師匠である「宮久」をルーツネームとして提案した。我々の期待通りに宮久石/miyahisaiteは無事に承認された。

母岩は一見はチャートである。ほとんどは石英だが、やや紫に見えるのはナマンシル輝石が含まれているからである。そういった母岩に入ってくる褐色の脈は主にエジリンからできており、この脈中に様々なBaに富む鉱物が存在する。宮久石はエジリン脈に沿うように紫色部に見つかることが多い。宮久石は無色透明であるが、細かい集合体であるため粒界効果によって全体はぼんやりとした白色に見える。それでも切断・研磨した上で、かなり拡大してようやく認識できる程度である。確実に宮久石を得るには分析装置付きの走査電子顕微鏡を使うしかないが、それでも簡単には見つからない。

この宮久石の記載によって2014年に日本鉱物科学会から櫻井賞(第41号メダル)を受賞した。受賞にあたり、宮久石についての研究紹介を岩石鉱物科学誌に書いているので、興味がある方はリンク先を参照してください。宮久石はこれまでの自分の経験が無駄じゃなかったなあと思い出させてくれる新鉱物である。もらったメダルについてもちょっとした後日譚を書いている。

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IMA No./year: 2011-023 (2012s.p.)
IMA Status: Rd(Re-defined)
模式標本:国立科学博物館(NSM-M41160)

愛媛閃石 / Ehimeite(~2012)/ Chromio-pargasite(2012~)

NaCa2(Mg4Cr)(Si6Al2)O22(OH)2

Amphibole supergroup

模式地:愛媛県 新居浜市 東赤石山 赤石鉱山 (南側)

記載論文:Nishio-Hamane D., Ohnishi M., Minakawa T., Yamaura J., Saito S., Kadota R. (2012) Ehimeite, NaCa2Mg4CrSi6Al2O22(OH)2: The first Cr-dominant amphibole from the Akaishi Mine, Higashi-Akaishi Mountain, Ehime Prefecture, Japan. Journal of Mineralogical and Petrological Sciences, 107, 1-7.

Ehimeite_1
Ehimeite_2
濃緑色が愛媛閃石

愛媛県から発見された新種の角閃石(かくせんせき)、愛媛閃石/ehimeiteである。角閃石は現在120種以上が知られ、数え間違いでなければ愛媛閃石は124番目の角閃石となる。角閃石の新種は毎年のように発見されるし角閃石そのものは珍しくない(人気もあまりない)鉱物だが、クロムを主成分にもつ角閃石は愛媛閃石が初となる。そもそもクロム鉄鉱鉱床から角閃石が産出したのはこれが初めての例ではないだろうか。

角閃石の命名には多くのルール(規約)があり学名は化学組成に制約されるが、愛媛閃石の化学組成は命名規約の範疇になかった。命名規約に従うと名前がつかないのである。そういう事情からひとまず新しいルーツネームを提案してみたところ、問題なく承認された。産地から見える景色は壮大で緑豊か。さらに大きくきれいな鉱物なので名前も大きなものがよかろうと「愛媛」を提案した。なかなか良い名前だと思っている。この新鉱物は角閃石なので、和名はルートネーム(愛媛)+閃石で愛媛閃石となる。

さて、愛媛閃石は産経新聞で取り上げられることになり、「宝石のような新鉱物」というタイトルで写真が掲載された。宝石になるかどうかはともかく、見て映える新鉱物はひさびさという印象をもつ。「愛媛閃石がみかん色だったらもっとよかったね」とのちに言われたが、夏のみかん畑は緑一色であるからだってみかんの色でいいじゃないか。

写真を見たからというわけではないだろうが、新鉱物が承認された後すぐに「ほしい」という連絡があった。論文が公表されてからと伝えていったん引き下がったが、論文がオンライン公表されて数日後には「公表されたよね」と同じ彼からコンタクトがあった。なかなかの観察力・行動力である。その行動力を賞してせっかくなので差し上げることにした。彼は外国人。日本人から「よこせ」という知らせはまだ無い。(いまさら言われてもうない。)

愛媛閃石の鑑定ポイントは色・形と産状にある。色・形は見ての通りで、多産する淡緑色の透輝石とは一線を画している。だが実物を見たことがないと透輝石となかなか判断がつかないかもしれない。もし透輝石と判断がつかないようなら結晶の周囲を見てみよう。愛媛閃石には必ず金雲母が伴われている。実は愛媛閃石は透輝石との共存はかなりまれであるので慣れてくるとすぐ鑑定できる。

さて追記。2012年に角閃石命名規約の変更があり、学名がEhimeiteからChromio-pargasiteに変更になった。Ehimeiteの学名は承認されてたった一年で消滅と相成った。それでも日本には和名という文化があり、これは学名と一致する必要はない。学名としてEhimeiteは消滅したが、命名者としては和名の愛媛閃石をずっと使い続けるつもりである。

修士課程まで愛媛大学で鉱物学を学び、博士課程は北海道大学へ進んで専門も地球深部科学へ転向した。学位を取った後の学振ポスドク時代も地球深部科学を専門としていたが、物性研究所の電子顕微鏡室へ就職した後はどちらかというと鉱物学がまたやりやすい環境となっていた。そういった中で初めて筆頭著者として記載した新鉱物がこの愛媛閃石であった。

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IMA No./year: 2009-026
IMA Status: A (approved)
模式標本:北海道大学総合博物館(Mineral-07401)

桃井石榴石 / Momoiite

Mn2+3V3+2(SiO4)3

Garnet supergroup

模式地:愛媛県 丹原町 鞍瀬鉱山(現:西条市)

記載論文:Tanaka H., Endo S., Minakawa T., Enami M., Nishio-Hamane D., Miura H., Hagiwara A. (2010) Momoiite, (Mn2+,Ca)3(V3+,Al)2Si3O12, a new manganese vanadium garnet from Japan, Journal of Mineralogical and Petrological Sciences 105, 92-96.

Momoiite_1
緑色部に桃井石榴石が含まれる。

愛媛大と名古屋大の学生が中心となって発見された石榴石の新種、桃井石榴石である。愛媛と名古屋大学の研究チームが独自に別産地から発見しており、学会でほとんど同時期に発表した。新鉱物申請は共同研究という形でとりまとめられ、模式地は愛媛県鞍瀬鉱山となった。名古屋大学チームが見出した京都府法花寺野鉱山と福井県藤井鉱山からの桃井石榴石については、記載論文の際にデータを掲載した。桃井石榴石は岩手県田野畑鉱山からも産出が報告されており[1]、今のところ世界を見渡しても日本国内でしか産出が確認されていない。

[1] Matsubara S. Miyawaki R., Yokoyama K., Shigeoka M., Miyajima H., Suzuki Y., Murakami O., Ishibashi T. (2010) Momoiite and nagashimalite from the Tanohata mine,Iwate Prefecture, Japan. Bull. Natl. Mus. Nat. Sci, Ser. C, 36, 1-6

桃井石榴石はマンガン(Mn)とバナジウム(V)を主成分としており、マンガンがカルシウム(Ca)に置き換わった鉱物はゴールドマン石榴石(goldmanite)という名前がついている。桃井石榴石という名前についてその経緯を説明するには、このゴールドマン石榴石について触れることになる。

ゴールドマン石榴石はニューメキシコのSandy鉱山から1963年に見いだされ、アメリカ地質調査所のMarcus Isaac Goldman(1881-1965)に因んで命名された。ゴールドマン石榴石は日本でもほぼ同時期に鹿児島県奄美大島大和鉱山から見つかっており、これを記載したのが九州大学にいた桃井斉であった[2]。大和鉱山のゴールドマン石榴石はマンガンに富んでおり、あとちょっと多ければ今の桃井石榴石となるところだったが、残念ながらゴールドマン石榴石の範囲に留まった。しかしゴールドマン石榴石のマンガン置換体の存在が十分に予見可能ということで、桃井らは今の桃井石榴石に相当する仮想的な端成分にたいして大和石榴石(Yamatoite)の名前を当てて新鉱物として提案した。しかしながら現実として未見のモノにお墨付きは与えられないということで、大和石榴石の提案は否決されている。

[2] Momoi H. (1964) A new vanadium garnet, (Mn,Ca)3V2Si3O12, from the Yamato mine,Amami Islands, Japan. Memoirs of the Faculty of Science, Kyushu University, Series D, 15, 73–78.

こういったいきさつと桃井先生の思いがあったので、今回の申請にも最初は大和石榴石を考えていたが、再命名は混乱を招きそうでもあった。いくらか協議して最終的には桃井先生のこれまでの業績をたたえてMomoiiteと命名することにした。

さて非金属の鉱物の和名は「~石」となるのが慣例となっている。そしてこの「石」は「セキ」と読むということは実は意外に知られていない。多くのひとは「イシ」と読む。職場の人に説明するときに「それはセキと読むんだよ。鉱物学の基本ですな。」などと言っていたが石榴石は例外的であることを忘れてた。石榴石グループに属する鉱物の和名は「~石榴石」となり、こいつはザクロ「イシ」と読む。つまり桃井石榴石は「モモイザクロイシ」と読む。

桃井石榴石は緑色が美しい石榴石であるが、緑色部がかならず桃井石榴石という訳ではない。むしろ桃井石榴石は少数派でほとんどはゴールドマン石榴石もしくはマンバン石榴石である。鑑定のポイントは色の濃さと産状。経験的だが緑色が濃いものやテフロ石中にくるものは桃井石榴石を高確率で含む。ごくまれに黒色微小粒でヴォーレライネン石(vuorelainenite)がともなわれるが、それは分析しないとわからない。また黒い粒の99%以上は石墨である。それ故に黒いつぶつぶが伴われているから桃井石榴石ということにはならないし、その逆もまたしかりなので注意が必要。

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IMA No./year: 2006-055
IMA Status: A (approved)
模式標本:北海道大学総合博物館(Mineral-07400)

ストロンチウム緑簾石 / Epidote-(Sr)

CaSr(Al2Fe3+)[Si2O7][SiO4]O(OH)

Epidote supergroup

模式地:高知県 香美市 穴内鉱山(鳳ノ森坑・長川原坑)

記載論文:Minakawa T., Fukushima H., Nishio-Hamane D., Miura H. (2008) Epidote-(Sr), CaSrAl2Fe3+(Si2O7)(SiO4)(OH), a new mineral from the Ananai mine, Kochi Prefecture, Japan. Journal of Mineralogical and Petrological Sciences, 103, 400-406

Epidote-(Sr)
長川原坑から産した紅色のストロンチウム緑簾石

ストロンチウム緑簾石は私が初めて発見に関わった新鉱物で、紅いのに緑の名前をもつ変な鉱物である。肉眼鑑定に慣れた人ならこの鉱物を見て「紅簾石」と即答するだろう。我々もそのつもりで調べ始めたが結果は新鉱物/ストロンチウム簾石(リョクレンセキ)となる新種であることが明らかとなった。いのにを名前に持つ変な鉱物であるが、名前の付け方が命名規約で決まってしまっているのでいかんともしがたい。

見た目と名前のミスマッチはしばしば思いこみを誘い、せっかくのお宝を見過ごすことがある。ストロンチウム緑簾石を例に挙げてみる。

愛媛大学に保管してあった古い標本から「穴内鉱山長川原坑、紅簾石、チンゼン斧石」とラベリングされた試料がみつかった。見たところ確かに「紅簾石」である。しかし何となく気になって調べてみたところ、なんとこの「紅簾石」は新鉱物:ストロンチウム「緑簾石」そのものであった。そしてこの標本にはもう一つのラベルがあり、「標本玉手箱」と書かれていた。「標本玉手箱」は益富地学会館が鉱物趣味の普及の一環として会員に配布している標本である。つまり新鉱物はそれとは気づかれずに昔にすでに配布されていたことになる。その標本を手に入れた人は見た目から疑いもなく紅簾石だと思っただろう。しかし一度そのように思ってしまうと、改めて調べてみるきっかけはなかなか訪れない。

この経緯があって、いくつかの産地のいわゆる紅簾石についてその真贋を調べたことがある。結果はほとんどの場合は緑簾石という鉱物の範疇に入っていた。

さて、ストロンチウム緑簾石を見ただけでそれと鑑定するのは難しいが、穴内鉱山産に限っては産状によってある程度の鑑定ができる。鳳ノ森坑産はほとんど塊状の標本であり、その塊が角れき状に分断されている。その中に入っている数十~百ミクロンの結晶はストロンチウム緑簾石-ストロンチウム紅簾石の範囲で複雑な累帯構造となっている。一方でで長川原坑の標本については、特に黄色の斧石脈の中にある紅色の放射状の集合体は均質な組成となっており、そのほとんどはストロンチウム緑簾石であった。鳳ノ森坑のものは生成後に変質を受けているのに対し、長川原のものは初生的なのだろう。確実にストロンチウム緑簾石といえる標本を手に入れるためには産状も含めた鑑定が重要と思う。

この一連の研究は皆川の指導の下で、福島の修士論文の一環として行われた。彼の卒業後は北海道大学にいた私と三浦でデータを補強し、新鉱物申請という運びとなった。このストロンチウム緑簾石で皆川先生は日本鉱物学会から櫻井賞(第39号メダル)を受賞した。私にとっての新鉱物研究はこのストロンチウム緑簾石のお手伝いから始まっている。

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 Posted by at 10:31 PM

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