神南石

 

No. IMA2015-100 神南石 / Kannanite

Ca4Al4(MgAl)(VO4)(SiO4)2(Si3O10)(OH)6, Orthorhombic

Ca analogue of ardennite-(V)

愛媛県神南山

Nishio-Hamane D. & Minakawa T. (2016) approved on Feb. 11.

Kannanite
Fig. 1. 神南石のタイプ標本。赤鉄鉱+ブラウン鉱母岩中に脈状に走る黄褐色~オレンジ色が本鉱。脈中の赤は紅簾石。

愛媛県神南山から見いだされた新鉱物「神南石 / Kannanite」である。そして今,これを書き始めたところで採集した日のことを思い起こしている。本来ならその日は愛媛にはいるはずはなかったが,とある事情で愛媛にとどまり新鉱物が誕生することとなった。以前の新鉱物・伊予石&三崎石も実はこの事情に絡んでいる。

神南山に上る当日,本来なら私は広島にいるはずだった。ところがその計画が前日にポシャってしまい次の日も愛媛に留まるハメになった。それで夜の居酒屋で急遽設定したのが神南山の調査であった。そして明くる日。午前中で神南山の調査を終え,腹が減った我々は思いつきで佐田岬半島の「しらす食堂」へ向かった。その際に近辺にマンガン鉱石が転がっているというので,腹ごなしついでにふと立ち寄った。私にとってそこは初めての産地だったが,マンガン鉱石は容易に採集でき,幸運にもその鉱石から新鉱物・伊予石&三崎石が生まれることになった。そしてその日の午前に採集した神南山からの鉱物が今ここで新種・神南石となった。できすぎた話である。

そういえば当初の計画が直前でポシャった事情は何だったかな。たしか著者の一人が「ネコたちが腹を空かせて泣くからやっぱり遠征できない」と,よりにもよって遠征に向かった先の中間地点でいきなり言い出したせいだ。確か弓削島あたりだったように覚えている。あと少し進んだら広島県に入りそこで一泊のはずだったが,「帰ろう」と彼はのたまう。抵抗したが彼のネコ愛には勝てなかった。割を食った私はその晩の宿が取れず散々だったが,それが一連の成果につながるのだから不思議なものである。あのとき私を愛媛へ留めてくれた腹ぺこネコ様たちには高級缶詰でも献上せねばなるまい。

さて,気を取り直して。神南山(かんなんざん)は大津市と内子町五十崎にまたがり肱川とその支流に囲まれている独立峰である。険しい山ではないが森は深い。東西に頂がありそれぞれを女神南(おなごかんなん:710m)と男神南(おとこかんなん:654m)と呼び,神が宿る山としてその地域の霊山という扱いであろうか。そしてその神南山の東側中腹には大久喜鉱山という愛媛県で屈指の銅鉱山がかつて在った。

大久喜鉱山は愛媛県では別子鉱山に次ぐ規模のキースラーガ型銅鉱床で,愛媛県西部では最大の銅鉱山になる。その沿革や経緯は詳しくないが約200年前に開発されたようだ。金の含有量がかなり高く平均で4~6g/トンもあるらしい。それはともかくもここの鉱石は他のキースラーガ型銅鉱山のモノとはやや異なって見える。あいかわらず小さな標本しか持っていないが,全体的に細粒なために破面が柔らかい印象で(Fig.2),それが別子鉱山のキースラーガ鉱石とは一味ちがう。大久喜鉱山には広大なズリ山がまだ残されているので鉱石の採集は容易だし,今はどうか知らないが以前は緑礬(Fig.3)が生じている場所もあった。

copper ore
Fig. 2. 大久喜鉱山産のキースラーガ鉱石。黄鉄鉱が主体で黄銅鉱が脈状に入っている。全体的に粒度が小さいことやたまに閃亜鉛鉱も来ることが特徴で,他産地のキースラーガ鉱石とは印象が異なる。それ故にモノをみたらこれは大久喜とすぐわかる。ただ写真ではそれがうまく写せなかった。

melanterite
Fig. 3. 緑礬の結晶。この緑礬のなかにはボトリオーゲン石 / Botryogen [MgFe3+(SO4)2(OH)•7H2O]が含まれることがある。写真中の黄色~オレンジ色の部分が該当するかもしれないがそれは調べていない。

このように大久喜鉱山のことをすこし書いたが,今回の新鉱物には大久喜鉱山は関係がない。というより大久喜鉱山との関連があまりよくわからない。大久喜鉱山の本体は神南山の東側中腹に在るが,その周りにも支山がたくさんあるとされる。以前に何度も現地を訪れたことがあるが,たしかに大小様々な堀跡が方々に認められた。ただあまりに数が多く,現地の人に尋ねてもそれぞれの鉱山名や大久喜鉱山との関連は定かでない。それから銅鉱床だけではなくいわゆる鉄マン鉱床も点在している。鉄マン鉱石にはマンガンは含まれてはいるものの品位は全体的に低く,マンガン資源としてはほとんど役立たずに思える。おそらくは鉄を目的に掘ったのだろう。これらも名前や大久喜鉱山との関連は定かでない。

神南山の地質に目を向けるとこれはなかなか複雑で,地質図とその解説があるのでそれを参考にしてほしい(坂野ほか,2010,大洲地域の地質)。神南山の地質は御荷鉾緑色岩類に相当し,ざっくり言っていいかわからないが,全体的に弱変成を受けた苦鉄質岩とチャートが混じっている地層になっている。そして銅鉱床は苦鉄質岩に,鉄マン鉱床はチャートに胚胎されている。ただほとんどの堀跡は明確なズリや貯鉱が残っているわけではない。山中に(なぜか)点々と散らばっている鉱石をたどっていくと露頭に行き着くといった具合である。そこは(試)掘跡なのかもしれないが,それが定かでないほど苔むして自然に戻っていることがほとんどである。

今回の目的は鉄マン鉱床(鉱石)だった。我々は以前に三重県伊勢市の鉄マン鉱床から4種の新鉱物を見いだしており(伊勢鉱ランタンバナジウム褐簾石ランタンフェリ赤坂石,ランタンフェリアンドロス石),鉄マン鉱床というのは新鉱物に関して言うと魅力的な場である。豊石も鉄マン鉱床から出ている。そして神南山は労せずとも何かしらの鉄マン鉱床にはぶち当たるという場である。はたして午前中の調査であっさりと多量の鉄マン鉱石が手に入った。なんとも冴えない重たいだけの石ころである(Fig. 4)。

iron-manganese ore
Fig. 4. 神南山の鉄マン鉱石でこれは破断面。全体は赤鉄鉱やブラウン鉱なのだが破断面ではどちらかさっぱりわからない。愛石家といえどもこれを目的に採集する人は(ほぼ)いない。逆にこういった鉄マン鉱石はほとんどまともに調べられていない。

こういった石は割ったところで破面から判断できることは少ない。石英くらいは割らなくてもわかるが,それは別にただの石英である。石英に伴われる紅簾石もまあわかるが,それもやっぱりたかが紅簾石である。たまに自然銅がいるのでそれ見つけるとちょっと安心するが,コレクションにするほどではない。このような一見残念にな石はぶった切るのが一番で,切断面を見るといろいろわかってくる。石をぶった切って初めてわかったが,石英脈に伴われるのはなにも紅簾石ばかりではない。黄褐色葉片状の鉱物が石英脈に散らばっている(Fig. 5)。何だろうと思って分析してみると,これはバナジウムアルデンヌ石であった。ちょっとうれしい。よく見ると細脈にもこれが来ている(Fig. 6)。それにしてもこの細脈中のモノはものすごく小さい結晶で,ルーペ程度では切断面でも存在を認識するのが難しい(Fig. 7)。分析してみるとバナジウムアルデンヌ石に近いがそれよりもかなりカルシウム(Ca)が多い。あれ?と思って組成式をよく考えるとこれはバナジウムアルデンヌ石のマンガン(Mn)をカルシウム(Ca)に置き換えた鉱物に相当する。うわ,これ新鉱物だ

Vアルデンヌ石1
Fig. 5. 鉄マン鉱石の切断面。黄褐色葉片状結晶はバナジウムアルデンヌ石 / Ardennite-(V) [Mn2+4Al4(MgAl)(VO4)(SiO4)2(Si3O10)(OH)6]。肉眼的に認識できるような石英脈中には黄褐色葉片状結晶があったとしてもすべてバナジウムアルデンヌ石。

Kannanite
Fig. 6. Fig1の再掲載。この黄褐色はすべて神南石。

Kannanite
Fig. 7. 神南石の拡大写真。

ということで,これが新鉱物であるというのは実は比較的早い段階からわかっていた。だが困ったことに細脈にしか神南石は出ない。量があまりないことと純粋な結晶を分離するのが難しいために,データを集めるのにかなり時間がかかってしまった。名前に関しては地名・人名からいくつか候補を考え悩んでいたのだが,産地の神南山からとって「神南石」とした。ネコの飼い主からの助言でそう決めた。ネコ様が導いた新鉱物なのだからそれが良い。

鑑定ポイントはまずは鉄マン鉱石であること。赤鉄鉱やブラウン鉱が来ている鉄マン鉱石を切る石英脈中に神南石はいる。その中の黄褐色~オレンジ色が特徴的なのでそれが目印になるだろう。ただし肉眼的な脈の中の結晶はバナジウムアルデンヌ石で安定しており,どういう訳か神南石は見えるような石英脈には来ない。神南石は太さ100ミクロン以下の細い石英脈にだけ来ており,その結晶はものすごく小さい。このサイズになると観察にはそれなりの実体顕微鏡が必要になる。それと現地では細脈の中身どころか,細脈が来ているかどうかも判別が困難なので,やはり切断&研磨するしか手はない。研磨は#400くらいで十分で,透明なマニキュアを塗ると観察しやすくなる。ただいくら愛石家といえども岩石カッターをもっている人はごく少数で,それなりの実体顕微鏡を持っている人も多くはないだろう。神南石はどうやっても愛石家泣かせの新鉱物である。

話は変わるが,この冬は東京都白丸鉱山が数年ぶりに顔を出した。そこでは国産新鉱物の多摩石東京石を初め珍しい鉱物が出る。私も白丸鉱山を訪問し,最近はそこの石を調べることに夢中になっていた。そうした中で神南石を申請していたことを実はすっかり忘れており,承認通知を受けて思い出した次第。そうして他にも思い出したことがある。実は神南山の鉄マン鉱床にも白丸鉱山と似たような鉱物が出る。まずは次の写真を見てほしい。

Gamagarite & Brackebuschite
鉄マン鉱石の切断面の写真。中央から右上に向かうルーズな緑色と,中央から左下と右下部に点在する赤色が見て取れる。自然銅だけは初見でもわかるだろう。

この緑と赤を見ただけで鉱物名がわかる人はまずいないだろう。もちろん私にもわかるはずがない。調べたところ緑はコニカルコ石 / Conichalcite [CaCuAsO4(OH)]赤はガマガラ石 / Gamagarite [Ba2Fe3+(VO4)2(OH)]とブラッケブッシュ石 / Brackebuschite [Pb2Mn3+(VO4)2(OH)]であることが判明した。まずはコニカルコ石がこんな産状でも出るなんて知らなかったので,これは良い経験になった。それからガマガラ石とブラッケブッシュ石は白丸鉱山からの新鉱物・東京石 / Tokyoite [Ba2Mn3+(VO4)2(OH)]の近縁種である。それぞれが東京石の三価鉄(Fe3+)置換体と鉛(Pb)置換体に相当する。東京石はまだ見つけていないが,これらが出てくるならじっくり探せばそのうち見つかるような気がする。こういった例もあるように,鉄マン鉱石は外見が冴えなくともその中身は案外おもしろい。

 Posted by at 1:03 PM

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