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分子性反強磁性体におけるスピン流生成

日程 : 2019年1月15日(火) 4:00 pm - 5:00 pm 場所 : 物性研究所本館6階 第5セミナー室 (A615) 講師 : 中 惇 氏 所属 : 早稲田大学高等研究所 世話人 : 吉見一慶・三澤貴宏 (ext. 63288)
e-mail: k-yoshimi@issp.u-tokyo.ac.jp/tmisawa@issp.u-tokyo.ac.jp
講演言語 : 日本語

物質中のスピン流生成はスピントロニクスの中心的な課題の一つであり、その代表例であるスピンホール効果をはじめとして、強いスピン軌道結合を必要とするのが一般的である[1,2]。このため、スピントロニクスの研究は重元素を含む無機物質が中心に行われており、分子性導体における研究例は限られている。本講演では、分子性導体を用いたスピン軌道結合に依存しないスピン流生成のメカニズムを提案する。これはκ型の分子性導体に特徴的な分子配向と反強磁性秩序の結合による特異なエネルギーバンドのスピン分裂に起因する。

本研究ではκ型分子性導体のモデルとして、分子間の電子遷移積分と分子内クーロン斥力を考慮したハバードモデルを用い、これを平均場近似により解析した。その結果、キャリアドープされた反強磁性金属状態において、伝導面内の特定方向に電場を印加すると、その直交方向にスピン流が生じることを見出した。これはスピン分裂をもたらす電子遷移積分の実空間異方性により、スピンが相異なる電子が互いに逆方向にドリフトすることで生じる。スピン流の伝導度テンソルは対称であり、反対称テンソルで記述されるスピンホール効果とは大きく異なる。さらに、反強磁性絶縁体状態においてもマグノンを介した同様のスピン流生成現象が生じることを見出した。本研究は速水賢氏(北大)、楠瀬博明氏(明大)、柳有起氏(東北大金研)、求幸年氏(東大)、妹尾仁嗣氏(理研)との共同研究である。

[1] S. Murakami, N. Nagaosa, and S. C. Zhang, Science 301, 1348 (2003).
[2] J. Sinova et al., Phys. Rev. Lett. 92, 126603 (2004).
[3] H. Kino and H. Fukuyama, J. Phys. Soc. Jpn. 65, 2158 (1996).
[4] M. Naka, S. Hayami, H. Kusunose, Y. Yanagi, Y. Motome, and H. Seo. in preparation.


(公開日: 2018年12月20日)