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マグノン流体におけるWiedemann-Franz則の破れ

日程 : 2023年6月9日(金) 4:00 pm - 5:00 pm 場所 : 物性研究所本館6階 A615号室 及び ZOOM(Hybrid) 講師 : 佐野 涼太郎 氏 所属 : 京都大学理学研究科 世話人 : 加藤 岳生 (63255)
e-mail: kato@issp.u-tokyo.ac.jp
講演言語 : 日本語

量子輸送現象は、基礎・応用両面での重要性から、物性物理学において大きな関心を集めてきた。さらに近年における実験技術の躍進により、量子輸送の研究はますます加速しつつある。最近実現できるようになった超純良な系では、準粒子間の強い相互作用によって輸送特性が大きく変えられ、流体力学的な兆候が現れることが報告され始めている。その最も顕著な例として、金属における流体力学的な電荷輸送が挙げられ、「電子流体力学」と呼ばれる新たな潮流を生み出してきた[1]。実際、この概念の登場を皮切りに、負の非局所抵抗[2]やWiedemann-Franz (WF) 則の破れ[3]など様々な非従来型の輸送現象が明らかにされつつある。

一方で近年、超純良な強磁性絶縁体の実現により、マグノン流体への道もまた開拓され始めている[4]。マグノンは、ジュール熱を伴わないスピンの担い手として注目されており、特に流体力学的なマグノン輸送は電子流体と同様、従来的な自由粒子描像を超えたこれまでにない革新的な機能性を秘めている[5]。しかしながら現時点では、この領域特有の時間および長さスケールに直接アクセスできるプローブがないため、マグノン流体の観測は未だに実現されていない。

そこで本研究では、特に時間スケールに着目することにより、マグノン流体方程式を導出するとともに、スピン伝導度および熱伝導度を考察した[7]。さらに、流体力学領域に特有なスピン流と熱流の緩和機構の違いにより、従来的な輸送領域で成り立つマグノンWF則[6]が大きく破れることを明らかにした。従って本結果は、マグノンの流体的な振る舞いが実現していることを示唆する重要な証拠となるのみならず、マグノン流体観測に大きく貢献すると期待される。

[1] J. Crossno, et al., Science 351, 1058 (2016)
[2] D. Bandurin, et al., Science 351, 1055 (2016)
[3] J. Gooth, et al., Nat. Comm. 9, 4093 (2018)
[4] C. Du, et al., Science 357, 195 (2017)
[5] C. Ulloa, et al., PRL 123, 117203 (2019)
[6] K. Nakata, et al., PRB 92, 134425 (2015)
[7] R. Sano and M. Matsuo, PRL 130, 166201 (2023)

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(公開日: 2023年05月24日)