Home >  研究会等 > タンパク質分子モーターによる細胞内輸送現象への極値理論の応用

タンパク質分子モーターによる細胞内輸送現象への極値理論の応用

日程 : 2023年6月2日(金) 3:00 pm - 4:00 pm 場所 : 物性研究所本館 大講義室(A632)・ZOOM同時開催(事前登録を下記リンク先にてお願い致します) 講師 : 林 久美子 氏 所属 : 東京大学物性研究所 世話人 : 中島多朗・川島直輝
e-mail: danwakai@issp.u-tokyo.ac.jp
講演言語 : 日本語

細胞を対象とした物性計測は、細胞内現象のメカニズムを理解するために重要である。生きている、つまり外部からエネルギー注入があり内部でエネルギー消費がある細胞は複雑な非平衡環境にあり、統計力学法則が破綻するため、最も物性計測が難しい対象の一つと言える。本談話会では極値統計学を細胞内物性の理解に役立てる新しい試みを話したい。これまで、極値統計学は防災分野で津波の高さや台風の最大風速の見積もりに利用されたり、陸上競技のデータ解析などに利用されたりしてきた。その他にも経済活動やヒトの寿命推定にも利用されている。(統計数理研究所の「極値理論の工学への応用」研究会で毎年活発な応用が議論されている。本講演は2022年度研究会で発表に基づく。)
 本研究では、これまで主に社会現象に利用されてきた極値統計学を、ナノスケールのタンパク質の動態解析に応用する。輸送現象は無生物だけでなく生体内にも存在し、キネシンは細胞中心から末端に向かう順行性輸送、ダイニンは末端から細胞中心に向かう逆行性輸送を担う分子モーター(運び手)として知られている。物質は小胞(粒子)として輸送されるため、粒子に蛍光ラベルを施すことで、輸送動態を蛍光イメージング法で観察できる。動態観察から輸送速度データを取得した。極値統計を用いた輸送速度解析の結果、キネシンによる順行性輸送速度データが典型的なワイブル分布を示す一方で、ダイニンによる逆行性輸送速度データは異常な振る舞いを示した。両者の異なる振る舞いから、分子モーターの細胞内での物理性質の相違を議論したい。

【講師紹介】
林先生は令和5年4月に物性研機能物性グループに着任され、理論と実験の双方から非平衡統計力学と生物物理学を研究されています。本日の講演では特に、細胞内蛍光イメージングの実験と数学を用いたデータ解析の両方をご紹介いただけるものと思います。ぜひ皆さまご聴講ください。

ご登録はこちらからお進みください。


(公開日: 2023年05月09日)