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脂質分子の枯渇効果によるバクテリオロドプシン2次元結晶形成の検討

日程 : 2023年3月6日(月) 2:00 pm - 3:00 pm 場所 : 物性研究所本館6階 第5セミナー室 (A615) 講師 : 須田 慶樹 所属 : 九州大学 世話人 : 野口 博司 (63265)
e-mail: noguchi@issp.u-tokyo.ac.jp
講演言語 : 日本語

膜貫通型タンパク質は脂質二重層の中に埋まっている。このタンパク質は他の膜貫通型タンパク質と相互作用して、多量体を形成することがある。多量体形成はタンパク質の機能発現に重要であるが、多量体形成の駆動力は明らかにされていない。仮説として、直接の相互作用に由来する水素結合やイオン結合の形成による説明も考えられる。しかしバクテリオロドプシン(bR)のように、それらの結合が見られないタンパク質も存在する。bRは3量体を形成する。さらに3量体が膜の中で集合して2次元結晶を形成する(図1)。しかしbR単量体間、3量体間に水素結合やイオン結合は見られない。本研究ではbRの結晶形成に着目して、膜貫通型タンパク質の多量体形成駆動力を研究した。特に駆動力として脂質分子の枯渇効果の可能性を検討した。
理論研究から検討するにあたり、3量体を形成しない変異型bR単量体は、野生型bR3量体よりも10. 2倍も高い濃度でないと結晶形成を開始しないという実験結果に注目した。本研究ではbR単量体と3量体の相図をそれぞれ計算し、結晶形成開始濃度(critical concentration: CC)とその比(critical concentration ratio: CCR)を求め、実験結果と比較した。bR3量体、単量体、脂質分子をそれぞれ剛体円盤へ、生体膜を2次元平面へモデル化した。円盤間には直接の引力は働いてなく、脂質分子の枯渇効果による実効引力のみが結晶形成の駆動力になる。ここで、生体膜系を2次元系へモデル化した理由は以下の通りである。bRの大部分は疎水的なアミノ酸によって構成されており、膜の疎水部に埋まった状態にある。それゆえ、bRの膜に対して垂直の運動は、bRの疎水部を水中に露出することになりエネルギー的に不利であると考えられる。従ってbRの運動は膜に対して側方的な2次元的な運動に限定されると考え、bR結晶形成を2次元円盤系での相転移として捉えた。
Free volume theoryとthermodynamic perturbation theoryそれぞれからbRの相図を求め、CCRを計算した。脂質分子を剛体円盤としてモデル化した場合、いずれの理論から計算したCCRも実験結果と半定量的に一致した。このことから、脂質分子の枯渇効果がbR結晶形成の主要な駆動力である可能性が示唆された。一方、脂質分子を理想気体としてモデル化した場合、理論と実験のCCRは定量的に一致しなかった。このことは脂質分子間の斥力が枯渇効果を高め、膜貫通型タンパク質間相互作用に重要である可能性を示している。


(公開日: 2023年02月28日)