第12回真空紫外物理学国際会議(VUV-XII)に参加して

   東大理  藤森 淳

    標記会議(The 12th International Conference on Vacuum Ultraviolet Radiation Physics、組織委員長: N. V. Smith)が1998年8月3日から7日にかけてサンフランシスコで開かれた。この会議は、極紫外・軟X線領域の放射光を用いて研究を行っている物理・化学・材料科学等の研究者が3年ごとに一堂に会し、最新の研究結果を発表し今後の研究の方向を探ることを目的とした伝統ある会議である。ちなみに前回1995年の会議は、物性研SORの前施設長・石井武比古先生が組織委員長となって東京で開催されている。

    会議は5日間にわたり、午前中は基調講演、午後はパラレルで招待講演が行われ、それらの間にポスターセッションが行われた。基調講演では、強相関系、原子・分子、軟X線顕微鏡、X線天文学、自由電子レーザーなどの最近の発展が紹介された。また、招待講演、ポスターセッションでは、ソフトマテリアル、強相関・磁性物質、原子・分子、発光分光、磁気円二色性、表面、環境科学など、さらに幅広い分野での発表が行われた。今回のVUV-XIIの新しい流れの一つは、光電子顕微分光、軟X線顕微分光など顕微分光の発展であった。光源の高輝度化のメリットを生かした顕微分光の技術的発展は目覚ましいものがある。強相関物質・磁性体関係のセッションでは、高温超伝導体、重い電子系などの研究、磁気円二色性やスピン分解光電子分光を用いた磁性体の研究が進展を見せていた。新しい研究手法としては円偏光スピン分解共鳴光電子分光、軟X線磁気散乱、多原子共鳴光電子放出など、新しい研究対象としては酸化物磁性薄膜など注目すべきものが多く見られた。

    この会議には、日・米・欧ばかりでなく韓国・台湾・ブラジルなどの発展途上国も含めた、世界中の放射光施設から研究者500人余りが参加した。ブラジルの放射光施設(LNLS)が運転を開始し、実験結果がポスター発表されていたことも、注目を引いていた。会期中には各国の研究者と議論することができ、ビームラインの建設状況、研究の進展などについて最新の情報を交換することができた。議論が十分できた理由のひとつとして、講演とポスターセッションがうまく配置されたプログラムの構成が挙げられる。登録費は高めであったが、ホテルの一部を借り切って会場とし、会議は非常にスムーズに進行していたと思う。セッション終了後は、会場近くのチャイナタウンに繰り出し親交を深める研究者が多く見られた。

    会議終了後、Stanford Synchrotron Radiation Laboratory (SSRL)とAdvanced Light Source (ALS)を訪れ、Z-.X. Shenのグループがそれぞれに建設中の高分解能光電子分光ビームラインを見学する機会を得た。SSRLの光電子分光ビームラインは直入射分光器を用い世界最高クラスの分解能をねらったもので、すでに調整段階にはいっていた。ALSのビームラインは、エネルギー分析器やマニュピレータの回転・駆動機構に新しい工夫がされており、こちらも建設の最終段階に近づいていた。日本でも国際競争力のある高分解能ビームラインを作る必要性を改めて強く感じさせられた。日本の研究のレベルが国際的にも高いこと(今回のVUV-XIIの招待講演者数は、欧:25, 米:16、日:6)、発展途上国でも新しい紫外・軟X線光源が次々と建設されていることを考えると、日本だけが今後遅れをとらないよう頑張らなければならない時だと思う。
 
 
 


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Wednesday,9,Dec,1998

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