東京大学物性研究所 小森文夫
「表面電子分光」グループでは、表面電子系のフェルミエネルギー近傍での状態を調べるためのVUV光電子分光ビームラインを計画している。現在この分野で興味が持たれているテーマの一つとして、表面電子系の各種の相転移に伴う電子状態の変化がある。本検討会では、このような研究のための分光器がどのようなものがよいかを議論するきっかけとして、ヨーロッパで行われた以下の2研究を紹介した。
ゲルマニウム(111)面上で鉛あるいは錫が形成する√3×√3構造は、冷却すると室温直下で3×3構造に変化することが知られている。この構造相転移に伴う電子状態の変化が角度分解光電子分光によって調べたところ、相転移に関して明確なバンド構造の変化を伴わないことが明らかにされた。この場合は、秩序無秩序転移であると考えられている。一方、αーガリウム(010)面でも210K付近に構造相転移がある。この転移を境にしてフェルミエネルギー近傍のバンド構造の変化が観測され、電荷密度波の発生が示唆されている。いずれの研究も光のエネルギーを最適化して行われている。
これらの例に限らず、近い将来のVUV高輝度光源を用いた表面での光電子分光研究でさらに詳しい電子状態の解明を行なうためには、超高分解能を目指すのではなく、高フラックスの利点を生かして、各種パラメターを変化させた場合の測定をきめ細かく迅速に行うことが重要と思われる。本検討会では、表面電子分光利用計画に必要な10eV程度の低エネルギーからできるだけ高いエネルギーまでをカバーする高フラックス斜入射分光器の可能性を議論した。
Wednesday,9,Dec,1998