巻頭言
     「高輝度光源計画に思うこと」
                 (東大 物性研究所長 安岡 弘志)
 
    物性研究所は、我が国の物性科学における先導的全国共同利用研究機関として、昭和32年東京大学に附置されて以来輝かしい歴史と伝統を持った研究所である。物性研究所の研究内容や組織は時代の要請に応え数度の改革を行ってきているが、軌道放射光を用いた研究に関しては、昭和50年「軌道放射物性研究施設」を設置すると同時に世界に先んじて物性研究専用に設計された電子蓄積リング(SOR-Ring)の運転を開始し、物質の電子構造の解明等に数多くの成果をあげ、軟X線・真空紫外線領域における物性研究の発展に多大な貢献をしてきている。更に昭和55年には極限技術開発を中心とした重点主義的な研究体制への移行を機会に「軌道放射物性部門」を設置し、我が国におけるこの分野の技術革新と次世代の躍的躍進をねらった、いわゆる「高度光源計画」の策定に着手した。物性研究所自体は、平成8年度には我が国における物性研究の更なる発展と国際貢献を狙って、狭賄な本木キャンパスからの柏移転を基礎とし、再度研究体制を改革した。この改革は、学術会議、物理学研究連絡会や物性委員会等における全国物性研究者の要望に応えるべく、「物性基礎科学に関する最先端の総合研究を行う国際研究所」として我がの物性科学おけるCOEを目指すもので、当然「高輝度光源計画」も含まれていた。
    このような流れの中で、物性研究所が柏新キャンパスで国際研究所としてのCOEの実現を目指す“本体移転計画”と“高輝度光源計画”の両方を推進することは、一部局の計画としては、過大すぎるという認識が各方面から出された。この直接のきっかけは、平成7年6月28日に出された文部省学術審議会特定領域推進分科会、加速器部会、放射光科学に関するワーキンググループ報告に盛られた内容である。その後、学内での多くの議論の結果、高輝度光源計画を、その重要性に鑑み、物性研究所から切り離して東京大学の全学的支援のもとに「新しい研究センター」として組織化し計画を推進することが合意された。この決定に対しては所内でいろいろな意見が出されたが、いわゆる「東京大学高輝度光源研究センター」計画の誕生に至ったわけである。この計画は東大の柏新キャンパスにおける「加速器科学研究センター」なる壮大な構想の中で緊急かつ最重点項目として、評議会の了承のもとに、平成9年度概算要求がなされた。また、全国の高輝度光源利用者懇談会(VUV・SX高輝度光源利用者懇談会)の全面的な後押しや、当時の高エネルギー物理学研究所および分子化学研究所など他機関からの応援も得て行われたものであった。しかしながら、折からの財政不況の煽りをくったために本計画のスタートには至らず、「次世代放射光科学のための基礎研究経費」が予算化されたに留まった。10年度も引き続いて計画実現のための努力がなされたが、財政構造改革のもとに国立学校特別会計の更なる財政難にぶつかり残念な結果となったわけである。現在、世の中は景気刺激策として大型の補正予算が組まれて、学術研究に対しても、いろんな意味で予算措置がされようとしている。しかしながら、この措置には年次進行する長期的な計画に対してはあまり理解が得られないのが現実である。そこで、東大当局の指導もあり、本来の高輝度光源計画を涙を飲んで縮小した計画に修正し、それを実現すべく11年度要求には背水の陣で望んでいるところである。藤森会長も前号で書かれているように、この計画は、縮小されたとはいえ、世界の例のない特徴を持つファシリティとして物性研究所SOR施設の総力をあげて立案されたもので、11年度は是非とも前進させなければならないと考えいるところである。
    私の所長としての任期も残すところ5が月になってしまった。前所長よりこの計画の推進を引き継ぎ、細部にわたる計画の検討や学内外の調整、更には関係機関への働きかけなど私なりに努力してきたつもりである。しかしながら、未だに先が見えてこない状況にあり実現を悲願として待ち望みかつ支援して頂いている多くの研究者の皆様に大変申し訳なく思っている次第である。物性研究所はこの計画の推進部局としての責務を負っているわけで、所長しても残された期間できる限りの努力を継続していくつもりである。関係各位の更なる応援をお願いする次第である。

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Wednesday,9,Dec,1998

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