VSX高輝度光源への期待
東京都立大学大学院理学研究科 宮原恒あき
VSX高輝度光源計画(東大計画)が「第一期計画」と「本来計画」にわけられ、当面「第一期計画」を推進することになりました。もともと昔の東大計画は、エネルギー的には、1.5GeV程度でしたから、この計画もそんなに不自然ではありません。ただし、設計が相当に特殊ですのでそれに見合った利用法を考え、「本来計画」で考えられていた利用計画の位置づけや重点の置き方などを多少は変更する必要もあるかと、思われます。
そこで私は、この光源の輝度が非常に高く、長尺アンジュレータ放射ではモードあたりの光子数(ボーズ縮重度)が1を十分に越えそうなので、それを利用した研究テーマを紙面の関係で2つだけ提案したいと思います。
- 1)2光子光電子放出
- 通常の放射光では、入射光子エネルギーが2倍とみなしたところに光電子スペクトルがあれば、それは光源に含まれている回折格子の2次光の影響ということができます。その証拠に、分光器をスキャンすると光電子収率スペクトルは半分の幅になってしまいます。
- しかし、光源を非常に純粋にして(準周期回折格子と普通の回折格子の組み合わせなどを利用)本当に、光子エネルギーが2倍とみなしたところに光電子がやってくればこれは確かに2光子のエネルギーを利用した光電効果が起きたことになります。
- もちろん、このような2光子過程がおきるためには物質内に十分な非線形性があることが必要です。非線形性は電場にたいして分極が比例しないところから生じます。ところが、内殻ホールの引力はもともと非常に非線形です。力が変位に比例するとはとうていいえません。もし物質に10%の非線形性があり、入射光の統計が、ボーズ縮重度|1〉と|2〉が同じオーダーの重率になっていれば、2光子過程はおおよそ1%の確率で起きるでしょう。当然のことですが、今考えているのは2次高調波発生ではないので、反転対称性のある系でもこの2光子過程は起こります。
- 始状態が価電子帯の場合、この非線形性はもっと小さくなります。しかし、入射光が十分に強力で純粋ならば、このわずかな2光子過程を検出できるでしょう。価電子帯については、この方法で非線形性の程度を調べることができ、これから逆に価電子帯にできたホールの局在性・遍歴性についての知見がえられると予想されます。たとえば、通常の光電子放出では遷移行列の差異による効果は(共鳴光電子分光を別にすれば)あまり見えませんが、この方法では2光子過程による非線形性が効いて、一見して、価電子帯スペクトルは局在効果が強調されると期待されます。
- 2)2光子相関による物質内のコヒーレンスの生成・消滅に関する研究
- 仮に1)の研究によって、それぞれの光子エネルギーに対応した非線形物質が発見されたとしましょう。そうすると、この物質と光電子分光器のセットをを掛け算素子として利用することが可能になります。一般に掛け算素子ができると、2光子相関実験ができることになります。
- 我々はこれまで掛け算器の時定数の遅さ(高々1nsec)に悩まされてきました。その結果真の相関より偽の相関のほうが圧倒的に大きく、測定エレクトロニクスに複雑なフィルターが必要となり、光源がかわるたびに測定回路も変えざるを得ませんでした。したがって、上のような新しい掛け算素子ができれば容易に真の2光子相関を検出できるはずです。
- 実際の応用の基本的発想は以下のようなものです。まず、入射光をフラウンホーファー回折などを利用して2つにわけます。この2本のビームを物質の任意の2カ所に照射します。そして、この2カ所から放出された発光の2光子相関を測定するのです。
- 少し考えればわかるようにこの測定は、入射光が相当に強力でなければ困難です。しかし、遅い掛け算器を使ってさえ、ボーズ縮重度が10−6の光源の2光子相関はすでに1956年にHanbury-Brown
& Twiss によっておこなわれ、我々も放射光に対してより困難な実験に成功しています。したがって、発光が相当に微弱であっても、その2倍の光子エネルギーの不純な光の混入が発光強度より4桁ほど小さければ(掛け算器の2次非線形性が数%あると)この測定は十分に可能であると予想されます。
- 上のような測定をやるとどうして物質内のコヒーレンスの生成・消滅がわかるのか。実は、これは入射光のスポットサイズや、見ようとしている物質内コヒーレンスの及ぶ範囲に依存するのですが、編集者から「簡潔に」といわれていますので、詳しい説明は別の機会にさせていただきたいと思います。
T.Miyahara miyahara@phys.metro-u.ac.jp
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Thursday,20,August,1998
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