超高輝度放射光利用S01, S02

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超高輝度放射光利用

学術的意義・発展性

○超高輝度放射光利用 I :「コヒーレンス・ハイフラックス放射光」
高輝度光源では2本の17m長直線部が予定されており、そこには15m級のアンジュレータを設置可能である。ここで上げる研究テーマは、他でも検討されるプロポ−ザルと重複するものもあるが、より高度の研究を目指すことになる。一つのアンジュレータでは、長直線部の特徴である、周期数が稼げるという利点を生かし、光のバンド幅が周期数Nの逆数に比例することを利用した準単色光を、回折格子を使わず高効率で利用する。この場合コヒーレント性が高く、超高強度(ハイフラックス)の放射光が利用でき、以下のような実験研究が可能である。
(コヒーレント性を利用した実験研究)
コヒーレント放射光が非常に高いボーズ凝縮度を持つことを利用した以下の実験が可能である。(関連研究課題14)
・「レーザーとの同時照射実験」及び「軟X線領域の多光子実験」:光子エネルギー50〜800eV
 1.非線形感受率の検討。
 2.2光子内殻励起による光反応ダイナミクスの研究。内殻を利用した元素選択制を利用。
(高いフラックスを利用した実験研究)
・「軟X線顕微鏡による生体内遺伝情報伝達の研究」,「材料科学の研究」(関連研究課題02, 05):光子エネルギー300〜800 eV
 1. 水の窓領域で、生体サンプルの観察。1ショットの撮像により、ブラウン運動の影響の少ない高分解能観察を目指す。細胞分裂の途中での遺伝情報伝達機構、ホログラフィやステレオ投影による立体顕微鏡。この研究では空間コヒーレンスの利用も重要である。
 2. マイクロ磁区リアルタイム観察など。
・「PEEM 光電子顕微鏡によるナノ構造の研究」(関連研究課題01、02、12):光子エネルギー50〜800eV
 1. リアルタイム観察。
 2. PEEM とスピン検出の組み合わせ実験。
・「スピン分解光電子分光」(関連研究課題09):光子エネルギー50〜800eV
 1. 新材料探索。
 2. 光電子回折実験。(関連研究課題11)
・「準単色光を用いた光化学反応」光子エネルギー60〜300eV(関連研究課題01 及び02)
 1. エネルギー可変性や偏光を利用した、表面反応の制御。(関連研究課題03)
○超高輝度放射光利用 I :「高純度偏光スイッチング」
もう一方の長直線部には、最近北村らによって提案されている、改良型 crossed field アンジュレータを入れ、高速偏光スイッチング、高純度、高偏光度の光を利用した研究が提案されるであろう。(関連研究課題02、09、10)。通常のCDやLD測定では難しい微小シグナルの検出が可能になり、生体物質を含む様々な物質での研究の展開が期待される。また、蓄積リング型の自由電子レーザーやコヒーレント放射発生の R&D を行うためにこの直線部を使うという考え方もある。

国際競争力

この種の実験のうち、ハイフラックスを用いた研究は海外ではほとんど報告例がなく、成果があがることでの国際競争力はすぐ発揮できるはずである。一方、コヒーレンスを用いた研究テーマでは、短期的には自由電子レーザーの開発との競争になる。自由電子レーザーが安定に使用できる環境になれば、多光子過程などかなりのテーマはそちらでの研究が有利になる。しかし、光源の安定性を必要とするテーマの場合には、長尺アンジュレータの価値は大きい。
これまであまり盛んにならなかった、スピン分解光電子分光、リアルタイム光電子顕微鏡観察、軟X線生体顕微鏡など、高いアウトプットが期待できる。諸外国のVUV・SX 蓄積リング型光源では、SLSの11m長直線部の利用があり、円偏光のスイッチングや、高調波除去のためにその直線部は利用されている。今回の計画で、高フラックス&コヒーレント放射光の利用、もう一本の長直線部で高純度光速スイッチング可変偏光放射光の利用が可能になれば、双方ともユニークなものとなろう。

高輝度の必要性

光のバンド幅が1/N に近くなるような光源、高速円偏光スイッチングのための光源、双方ともに光の quality が十分よくなるためには電子ビームが低エミッタンスでなくてはならず、しかも15mを越える長さの直線部が必要である。

技術的な実施可能性

高フラックスの利用に関しては、アンジュレータ技術そのものはすでに確立されている。ビームラインに関しては多層膜分光器の利用、回折格子分光器の利用を含め、熱負荷対策が必要になる。ただし SPring-8 に比べるとその値は小さく、十分対処可能である。軟X 線顕微鏡の場合、ゾーンプレートが焼けることも想定されるので、チョッパーの利用などにより、光学素子への負荷を減らす工夫が必要である。多層膜分光器に関しては、東北大多元研、分子研、東大、KEK、また、縮小光学系については筑波大、姫工大、SPring-8 等の協力で建設する。高速偏光スイッチング&低高次光アンジュレータビームラインに関しては、北村らによって最近考案されたアンジュレータを利用する。分光光学系では偏光主軸の傾きを損なわないよう、横、縦振り光学素子の配置を考慮する必要があるが、通常の技術で対処可能である。KEK、SPring-8、東大のグループで建設可能であろう。

その他

いくつかの実験テーマがこの長尺アンジュレータ利用に適したテーマとなっており、成果の上がることが期待されるが、どのテーマを重点的に行っていくのか、実験グループの力量を含め見極める必要がある。