17 基礎光科学

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放射光・レーザー2光子分光

学術的意義・発展性

実用的なレーザーが存在しない深い価電子や内殻電子励起の領域で、広い範囲を容易に波長掃引できる放射光は分光光源として他の追随を許さない。しかし、特定波長での光励起ダイナミクス研究には、放射光ではエネルギー分解能・光子強度・時間特性などの面で不十分な点が多い。レーザーを併用することによってこれらの問題点を補ってやれば、50nm 以下の極端紫外域での分光・動力学研究に大きなブレークスルーがもたらされると期待される。例えば、(1)放射光解離生成物のレーザー分光で中性フラグメントの振動電子状態を観測し解離ポテンシャルエネルギー曲面を決定する、(2)赤外レーザー照射で生成する振動励起分子をさらに放射光励起することで状態選択的な分子結合切断と化学反応制御を実現する等、過去に類例のない研究領域を開拓することができる。

国際競争力

近年、放射光とレーザーの連結は多くの研究者から興味を持たれているが、これまで世界的にほとんど未開拓の領域であった。日本は、放射光と紫外波長可変レーザーの併用技術、多バンチ運転放射光とレーザーの完全同期技術、アンジュレータ光と自由電子レーザーの同期技術などで多くの卓越した成果を上げており、当該分野では世界をリードしている。しかし、高輝度高安定の第3 世代リングのアンジュレータ光を利用する道が将来開けなければ、上記の優位性を保ち、今後さらなる発展を目指すことは不可能である。

高輝度の必要性

気相中の分子やクラスターを対象とする場合、繰返し10Hz の可視光レーザー2 台を用いた2 光子励起の実験に比べて放射光とレーザーの併用実験では10 桁落ちる信号計数率しか期待できない。この差を縮める為には高性能のアンジュレータ分光ラインを利用して限界値に近い強度の放射光を供給する必要がある。理想的には、分解能1 万以上でフラックス1014 photons/ sec 以上の超高強度斜入射分光器の起用が望まれる。

技術的な実施可能性

放射光生成物の寿命が長い場合には放射光強度のみが重要因子であるが、1ns 以下の短寿命種をレーザー分光で検出したり、生成物の構造や状態変化を時間分解分光でリアルタイムに追跡したりする場合には、放射光パルスとレーザーパルスを1psの精度で同期させることも必要である。高強度と厳密な時間同期の両条件を同時に満足させることは簡単ではないが、ジッタが少なく時間幅の狭い第3 世代リングからの放射光を利用することで、近い将来には達成されるであろう。