光励起分子反応動力学
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学術的意義・発展性
分子を極紫外・軟X線を用いて励起すると、電子緩和と分子解離とが競合して起こる。励起状態における核の運動あるいは励起状態の振動は電子緩和と競合して起こるために、電子スペクトルに直接反映され、電子緩和後にさらに進行する分子解離にも影響を及ぼす。本研究でめざすところは、分子励起により発現する新たな反応チャンネルを探索し、それを制御する指針を得ることにある。本研究では、分子が励起された時点からの数フェムト秒以内の核の動きを励起スペクトル(イオン収量分光)と脱励起スペクトル(電子分光・発光分光)により捕らえ、複数個のイオン間の運動量相関を同時計測することから解離につながる核の運動と解離ダイナミクスを明らかにする。さらに電子緩和過程終状態を電子分光で選択した上で、分子解離によって生成するイオンの運動を測定することにより、反応面のトポロジーを明らかにする。 |
国際競争力
本分野は日本が世界をリードしてきた。本分野の研究には、様々な同時計測技術が不可欠であるが、これは日本のお家芸となっている。一方、もう一方の大事な柱である高分解能分光では、今まで一歩遅れをとっていたが、400 eV (N 1s 励起領域) 以上のエネルギー領域では、SPring-8 の BL27SU において世界最高峰の分解能が達成され、イオン収量分光による励起スペクトル測定も共鳴オージェ電子分光も世界をリードできるようになった。C 1s (300 eV) 以下のエネルギー領域では、アメリカの ALS やイタリアのといった第三世代低エネルギーリングに先行されている。日本にこの領域をカバーできる第3世代低エネルギーリングができれば、このエネルギー領域の高分解能分光においても世界をリードすることになる。 |
高輝度の必要性
400eV 以上のエネルギーにおける SPring-8 の BL27SU の成功、300eV 以下のエネルギーにおける ALS、Elletra の優位性からしても、高分解能・高フラックスを達成するためには高輝度光源は不可欠である。 |
技術的な実施可能性
特定の解離チャンネルに注目して励起スペクトルを観測するイオン収量分光、ドップラーフリーでの極限の分解能での共鳴オージェ電子分光、多重イオン同時計測による反跳イオン運動量測定等の測定技術はすでに確立している。高分解能モノクロメータ建設のためのノウハウも国内に蓄積されている。よって、2 KeV 以下の高輝度放射光リングにおいて30-300 eV 領域で1次光を出すことのできる偏光可変アンジュレータが実現できればこの研究を推進するのになんら支障はない。 |