レーザー励起時間分解分光および非線形分光
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学術的意義・発展性
時間的に調整された2 つのレーザー光パルスを用いるポンプ・プローブ分光は、高速現象を研究する標準的手法として用いられており、電子、格子、スピンの緩和、欠陥生成、光誘起相転移、化学反応の素過程の研究において絶大な威力を発揮している。しかし、原子位置や化学結合の変化をともなう現象をより直接的に観測するには、結晶回折と化学シフトを時間分解的に測定する必要がある。中距離秩序の変化、主要元素の内殻励起を観測するためには100〜1000eV 程度のフォトンエネルギーがプローブ光に要求されるが、レーザー光源によって実用レベルの強度をもった100eV 以上の光を得ることは依然として困難であり、放射光とレーザーを組み合わせることが必要である。この手法は非常に汎用性が高いので、固体物性のみならず、化学、生命科学へも大きな寄与が期待される。また、高エネルギー領域における非線形分光は全く未知の分野であるが、現在のレーザー分光における隆盛ぶりを見れば、将来重要になることは明らかである。 |
国際競争力
レーザー励起時間分解構造解析で先行しているのは ESRF(フランス)であるが、エネルギー領域から見て競合するのは SPring-8 であろう。本計画は軟X線、VUV 領域であるので、エネルギー的には ALS(アメリカ)と近い。彼らはパルス切り出しの技術開発などで世界のトップを走っているが、ポンプ・プローブの系統的な実験はこれからと思われるので、本計画が直ちに開始されれば十分互角に戦うことができると考えられる。高エネルギー領域の非線形光学に関しては、外国においても放射光を利用した実験はほとんど行われていないのが現状であり、長尺のアンジュレータを割り当てる、分光器なしの超高強度ビームを使用するなどの特徴を出せば、日本のオリジナリティを発揮するチャンスがある。 |
高輝度の必要性
ポンプ・プローブ分光を行うためには、ポンプ光の像を絞って面積当たりの励起密度をなるべく高くする必要がある。同時にプローブ光はその励起面積よりさらに小さく絞ってポンプ光によって誘起された変化を検出する必要がある。したがって、光源が高輝度であることが本質的に重要である。また、時間分解能を上げるために、フェムト秒レーザーと電子ビームの相互作用やブラッグスイッチを利用してパルス切り出しを行うことも考えられるが、その場合は切り出し幅に比例してフォトン数が減少するので、光源には高い出力が要求される。非線形光学の実験においては、現象は光電場の3乗以上の冪に比例するので、単位面積あたりの入射エネルギーを大きくすることが観測の必須条件となる。したがって、高輝度光源が不可欠である。 |
技術的な実施可能性
超高速レーザー技術はこの10 数年間で未曾有の発展を遂げ、環境(除振、清浄大気、温度管理など)さえ整えば、確実に赤外から近紫外のパルスを安定供給することができるようになった。したがって技術的な問題はほとんどない。一方、第3 世代といわれる高輝度放射光光源はすでにレーザーに近い特性を備えており、試算によればレーザーと組み合わせたポンプ・プローブ実験が十分に可能である。非線形光学実験については、回折限界まで絞ることで十分な電場強度が得られるので、実行可能であると期待される。 |
その他
レーザーを複合した実験は、これからますます発展が予想されるので、十分なビームライン数とレーザー設置スペースの確保が望まれる。 |