11 物性科学

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表面・界面二次元光電子分光

学術的意義・発展性

表面では原子レベルで構造を制御したり、新物質を人工的に作成することができ、既に、半導体超格子による半導体レーザーや、磁性薄膜超格子による巨大磁気抵抗物質を利用したハードディスクの読み取りヘッドなどに利用されている。これらのナノサイズの材料においては、巨視的な大きさのものとは大きく異なる電子状態と原子構造が利用されている。次世代のナノテクノロジーでは、さらに微細な原子数個の厚さの膜や分子吸着表面が利用されるようになり、本研究課題の「表面・界面の二次元光電子分光による電子状態・原子構造の研究」で世界の最先端にいることが、次世代の日本の独創的な技術を創製することに直結している。物理的には、二次元系特有の電子状態である表面準位や量子井戸についての研究が進んでおり、最近ホールバンドが測定できるようになり、さらに発展している。電荷密度波など、低次元系に特有な現象の解析として、フェルミ面の二次元測定がこれからも発展する。また、表面に吸着した分子の原子構造と電子状態の研究は、触媒や有機EL 素子、バイオ機能表面の構築に不可欠のものであり、化学、バイオナノテクノロジーに発展する。

国際競争力

諸外国の高輝度光源には、電子状態の二次元マッピングや、原子構造を光電子回折やホログラフィーで解析するための二次元(全立体角)の角度分解光電子分光装置が完備されており、エネルギーを変えた三次元的な測定を行うことが世界の常識になりつつある。日本では、これまで高輝度光源が存在しなかったため、データの測定効率と分解能の面で遅れをとっている。日本の研究者が、米国 ALS、スウェーデン MaxLab、イタリア Elettra などに出かけて測定した例も多い。特に、最近完成した Elettra の装置は、10 ミリ秒でスペクトルがとれ、リアルタイム測定や二次元測定の能力が日本の装置より数桁すぐれている。また、そこには光電子顕微鏡で微視的な電子状態を二次元的に測定する装置も完成している。これらの装置面の遅れは早急に取り戻す必要がある。日本には、これまで20 年近く表面エネルギーバンド分散と表面光電子回折の研究を行ってきているグループが幾つかあり、電子状態では二次元軌道解析、熱散漫散乱、差分ホログラフィー、立体原子顕微鏡なと独自の解析法が次々と開発され、装置としても独自の二次元分析器があるなど、光源以外のポテンシャルは非常に高い。従って、高輝度光源と使いやすいステーションの組み合わせが実現すれば、世界をリードすることは充分可能である。

高輝度の必要性

表面・界面の二次元光電子分光においては、(1) 分解能、(2) フラックス、(3) 微小領域の測定、という3 つの理由から高輝度光源が必須である。
(1) 分解能:表面では多くの相転移が観測されているが、その電子状態の変化はごくわずかであり、これまでの測定では違いが検出されていない。数ミリeV の分解能でブリルアンゾーン全体を詳しく測定する必要がある。また、光電子回折による構造解析に於いては、表面内殻シフトを利用した解析が不可欠であり、1000eV程度のエネルギー領域で0.1eV の分解能が必要である。これは高輝度光源でなければ実現できない。
(2) フラックス:エネルギーバンドマッピングにしても、光電子回折にしても、全立体角での二次元、三次元測定がこれからは不可欠であり、表面が汚れないように数時間のうちに数万個のスペクトルをとるためには、従来より数桁大きいフラックスで測定時間を短縮する必要がある。
(3) 微小領域:表面は小さなドメインに分かれていることも多く、ひとつのドメインだけのデータを取るためには、試料上での光のスポットサイズが1μm 程度であることが必要であり、高輝度が必要である。

技術的な実施可能性

必要な装置は、汎用の高分解能角度分解光電子分光装置、高分解能二次元光電子分光装置、および幾つかの試料準備装置である。高分解能二次元光電子分光装置は我が国で既に完成しており、他の装置は市販品の組み合わせで実現可能である。従って、技術的な問題は無い。

その他

表面研究は、超高真空中で試料を原子レベルでその場で作成し、汚染されたら作り直すなど、真空立上げ、試料調整と測定に多くの時間がかかる。測定装置は市販の高分解能角度分解光電子分光装置と自作の高分解能二次元光電子分光装置の2台がミラーの切り替えで使えれば良いが、試料準備装置は、幾つかの装置が常に接続されていて、幾つかのグループが種々の試料を並列で作成・評価できるシステムにする必要がある。