生体軟X線イメージング
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学術的意義・発展性
生体試料を高分解能で生きたまま観察することは、生体の構造と機能を理解する上で生物学者の夢の一つである。染色体構造、細胞分裂装置、分子モーターなどの超分子構造の観察には、10-100nm の分解能が必要であるが、光学顕微鏡では分解能が不足し(蛍光色素染色などにより存在の検出は可能)、電子顕微鏡では、生理的状態での観察が困難である。X線顕微鏡はこの領域を埋めるものとして期待されている。特に軟X 線は、光学素子の進歩で50nm 以下の分解能が達成可能であること、超分子構造の解明が最も期待される細胞や染色体など比較的薄い試料に対し、コントラストが十分とれること、などの利点がある。また、軟X線領域の存在する生体構成元素の吸収端やその微細構造を利用して、元素・分子分布解析が行える点も他の顕微鏡にない特徴である。細胞ばかりでなく組織でも切片を用いれば、病的組織の高分解能元素分布解析も可能となる。これらの課題に対しては、これまで散発的な観察が行われているのみで、今後常設ステーションが整えば、さらに発展することが期待できる。
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国際競争力
シンクロトロン放射を利用した軟X線顕微鏡常設ビームラインは世界に数カ所ある。用いられている光学系は、光学顕微鏡と類似の結像型とマイクロビームを利用した走査型に分類されるが、高分解能観察に加えて元素・分子分析は主に走査型によって行われている。走査型では分解能はビームサイズに加えて光強度に依存するので、本計画では、走査型の採用によって、高輝度の特徴を生かした世界最高の性能をもつ装置が可能となろう。さらに、厚さのある生体試料では、3 次元観察が必須である。走査型とともに同じくマイクロビームを利用する投影型を併設することにより、これまでにない特徴を持った装置となりうる。投影型は、ホログラフィやステレオ観察、CT 観察への拡張が容易で、広い視野をもつという生物観察顕微鏡に重要な特徴を備えている。これらを実現し、試料を提供する生物・医学研究者を加えたグループを構成することにより、十分国際競争力が確保できる。
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高輝度の必要性
走査型及び投影型X 線顕微鏡の分解能は、マイクロビームの質によって決まる。光強度の高いマイクロビーム形成には、高輝度光源が最適かつ必須である。マイクロビームはゾーンプレートを用いることによって、20-50nm 程度のものが得られる。例えば、20nm の分解能を得るためには、この領域に105-106 個の光子が必要であることが計算により推定されている。重要な点は、この光子数が水溶液中での試料の動きより短い時間に得られなければならないことで、そのためにも高輝度光源が必要になる。
なお、空間コヒーレンスを要求するホログラフィにおいては、高輝度アンジュレータ光源が最適であることは言うまでもない。
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技術的な実施可能性
投影型及びX線ホログラフィについては、東京大学、千葉大学をはじめとして、いくつかのグループで経験が積まれている。走査型については、SPring-8における硬X線走査型顕微鏡グループの援助も期待できるだろう。軟X線領域における建設では、姫路工業大学、アンジュレータラインに走査型の建設経験のある米国ブルックヘブン国立研究所のNSLS のグループにも協力を仰ぎ、試料観察も含めて国際協力の形によって、より完成度の高い特徴ある顕微鏡装置が完成できるものと考えられる。
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