放射線生物学
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学術的意義・発展性
放射線の利用が不可欠な現代社会において、放射線の生物作用機構を明らかにすることは非常に重要である。特に人間の生活環境にとって重要な低線量放射線の作用機構を解明することは緊急の課題である。放射線のエネルギー付与はランダムに起きるので、そのメカニズムを調べるには広いエネルギー範囲でチューナブルな高輝度放射光は必須のツールである。研究対象となる試料は生体構成分子から細胞試料にまでの多岐にわたっているので、光源の制約から不可能であった実験・研究が多く残されている。高輝度放射光の利用によってそれらの研究が可能となって新しい展開が開けると期待される。
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国際競争力
放射光を放射線生物作用機構の解明に利用しているグループは世界中でほぼ日本だけといってよい。これまでに日本で放射光を用いて報告された研究成果は貴重でかつ重要なデータであるので、海外からも非常に高く評価されている。また20年以上にわたる放射光利用のノウハウが蓄積しているので、当面は諸外国の追従を許さない状況にある。このような理由から、最近は日本のグループに外国からの共同研究の申し込みがある。
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高輝度の必要性
放射線生物学研究における試料および手法は非常に多岐にわたっている。その中では細胞内部の構造体を区別して狙い撃ち照射するマイクロビーム照射法は細胞や細胞組織の放射線応答の研究に画期的な方法であり、高輝度ビームはそれを容易にする。また、高輝度ビームによって放射線エネルギーをミクロン以下の狭い領域に集中的に与えるとそのエネルギー密度はガン治療などで注目されている高LET重粒子放射線に匹敵するものとなる。作用機構の解明によりガン治療などの応用研究に資することが大きい。
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技術的な実施可能性
放射光を放射線生物学の研究に利用してきた研究者グループは、田無のSOR-RING以来の利用経験があり、放射光を生物研究に利用するための各種の装置を開発してきた実績があるので、高輝度放射光を利用するための技術開発能力は充分にある。
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その他
高LET重粒子放射線との比較では100 eV から1 keV の領域で、4x108 photons/ mm2/ sec が必要となる。
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