03 ナノ・材料科学

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材料プロセスのリアルタイム光電子分光

学術的意義・発展性

21 世紀の先端科学と環境適応型高度産業技術の研究開発の要素技術となるナノテクノロジーにおいて、その中心的役割を担うのは物質科学と材料プロセス科学である。ナノテクノロジーでは原子スケールでの表面化学反応、自己停止機能、自己組織化などの制御が求められ、プロセス中の「その場」観察による表面動的過程の解明とそれに基づく斬新な材料プロセスの開発が必要とされている。リアルタイム光電子分光による「その場」観察では表面組成、化学結合状態と表面電子状態の情報が得られるために、プロセス中の表面反応解析だけでなく、反応生成物の物理的評価においても極めて有効である。とりわけ光エネルギー可変の高輝度放射光を用いることで表面感度を連続的に変えられ、原子スケールでの非破壊測定が実現できる。これまでシリコンドライプロセスや触媒反応のリアルタイム光電子分光が行われてきたが、これからは多様な材料プロセスへの展開が考えられている。走査電子顕微鏡や反射高速電子回折などによる表面構造・形態の観察法とリアルタイム光電子分光を組み合わせることにより複合表面解析への発展を図ることで、材料プロセスの表面動的過程の統合的理解が得られ、ナノテクノジー開発のブレークスルーに結びつくものと考えられる。

国際競争力

一般に世界中において、材料プロセスの評価・解析はプロセス終了後に試料を解析装置に搬入して、室温・超高真空で行っている。これに対して超高密度集積回路開発のためには材料プロセスの表面反応の解析が必要とされたために、1970 年代末頃からプロセス中の「その場」観察が欧米をはじめとして日本で開始された。80 年代後半頃から放射光を用いたリアルタイム光電子分光の試みが日本で開始された。その後、リアルタイム光電子分光の光源として最適な真空紫外・軟X 線の第三世代放射光源が建設されるにともない、Advanced Light Source(米国)やELLETTRA(伊)などにおいてリアルタイム光電子分光の専用ビームラインが整備され、高温やガス雰囲気などの過酷環境や、より実用的な測定環境と組み合わせることで多くの先端的データが発表されている。しかし、リアルタイム光電子分光では光源や測定機器の装置性能だけで研究レベルが決定されるのではなく、まさに日本が得意とする物質科学、材料科学、プロセス科学に基づいた研究対象の絞り込みが重要となる。諸外国に比べて日本はリアルタイム光電子分光において国際競争力が十分にあり、今後、高輝度放射光を用いたリアルタイム光電子分光の実用開始が諸外国より大きく遅れことになるが障害にはならない。

高輝度の必要性

リアルタイム光電子分光による材料プロセスの表面動的過程の「その場」観察では価電子帯と浅い内殻準位が測定対象になるので、励起光として5〜1000 eV の真空紫外・軟X 線が必要である。また、内殻準位の化学シフトを用いて化学結合状態の解析を行うためには1000 eV の光エネルギーで0.1 eV 以下のエネルギー分解能と、それを0.1 秒ほどの時間分解でリアルタイムモニタリングするためには桁違いの強度が求められる。このような要求を同時に満たすためには高輝度放射光が不可欠である。

技術的な実施可能性

放射光を用いたリアルタイム光電子分光は日本において多くの実績を有しており、過去15 年間にわたってPhoton Factory、NTT-SOR 施設常伝導リング、SPring-8 などで行われてきた。SPring-8 を除いて全て第二世代光源の偏向電磁石からの放射光を用いて行われたために、リアルタイム光電子分光の能力を十分に発揮した実験とはなっていないが、電子エネルギー分析器の改良、試料過熱・ガス導入の工夫、真空装置の設計などで多くの技術的蓄積がなされてきた。そのために0.1 秒以下の時間分解でのリアルタイム光電子分光を高輝度放射光源のビームラインで実現するための技術的蓄積は十分にある。建設は弘前大、東北大、東大、NTT、原研などの協力で進めることができる。

その他

リアルタイム光電子分光では材料プロセスの表面動的過程の「その場」観察を目的とするために、一般の表面解析用の光電子分光装置と異なり、分子線エピタキシー装置、ドライプロセス装置、スパッタリング装置などのプロセス装置にリアルタイム光電子分光機能を組み込むことを特徴とする。そのためにエンドステーションは大型で多くの付帯設備をもつ装置となるので、場所の専有面積が大きくなる。