本研究体験プログラムの概要

■世界最先端の固体科学の研究を推進する、東京大学物性研究所の設備を利用した研究体験プログラムです。最前線で活躍する研究者による講義と施設の見学に加えて、先端科学の現場を体験する実習テーマを用意しました。

■今回は応募された方々の希望を配慮して、理論と実験の実習をどちらも体験できる以下の2つのコースから構成されています。少数精鋭で、教科書では学べない研究の実際と物質科学の最先端を肌で感じていただけます。 なお、理論実習は2つのコースで共通で、実験実習のコース選択は初日の講義の後に行っていただきました。

1. 圧力誘起・金属―絶縁体相転移
2. スピンアイスと磁場誘起相転移

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プログラム・日程表

■圧力誘起・金属―絶縁体相転移(クリックで拡大)

■スピンアイスと磁場誘起相転移(クリックで拡大)

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講義

■今回の体験活動プログラムの導入として、最前線で活躍する研究者の方々に講義をしていただきました。

■物性物理学入門として、固体中の電子の振舞いをどのように記述するか、特に、 今回の実験実習のテーマの一つである「金属―絶縁体相転移」に重点を置いて学んでいただきました。

■また、磁性体の振舞いについて、ここでは特に、幾何学的なフラストレーションによって生じる数々の奇妙な現象について紹介しました。 これは今回の実験実習のテーマの一つである「スピンアイスと磁場誘起相転移」の導入となっています。

■物質に圧力をかけることで何がどのように変化するのでしょうか?高圧力実験技術のイロハに始まり、物質が高圧力下で見せる多彩な現象についても 学んでいただきました。これは今回の実験実習のテーマの一つである「圧力誘起・金属―絶縁体相転移」の導入となっています。

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理論実習

■物性物理学の大きな課題である金属-絶縁体転移の解析を,物性研究所スーパーコンピュータを使った大規模数値計算を通じて体験してもらいました.実際の電子系を扱うのは非常に困難なため,今回の体験学習プログラム理論演習では,量子モンテカルロ法が使えるハードコアボゾンハバード模型の数値計算を行いました.この模型では,金属状態に対応する超流動相と粒子間斥力によって生じるチェッカーボード絶縁体相,粒子が全て詰まった絶縁体相等が現れます.粒子数密度,超流動密度などの秩序変数を計算し,相図を作成することに成功しました.

図1:ハードコアボゾンハバード模型の相図。

図2:秩序変数(粒子数密度と超流動密度)の化学ポテンシャル依存性。

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圧力誘起・金属-半導体転移

■今回の実習ではカルコゲナイド化合物NiS2を用いて、「圧力誘起・金属絶縁体転移の観測」に挑戦しました。NiS2はバンド理論からは金属であると予想されるにもかかわらず、電子間の相互作用(クーロン斥力)が大きいために、電子が隣の原子に飛び移ることが出来ず局在化するMott絶縁体として知られている物質です。

■先行研究では圧力を加えることによってバンド幅が広がり、絶縁体→金属へと転移が起こるとの報告がされています。転移を観測することが出来るのでしょうか?

図3, 4:単結晶を加工し、常圧下での抵抗・磁化測定を行い、39 K での反強磁性転移と、30 K での弱強磁性転移を観測しました。 慣れない作業に悪戦苦闘しながらも、試料を作製し測定しました。

図5:常圧下での測定の後、圧力下での抵抗測定を行いました。写真のキュービックアンビル高圧装置を使用しました。3GPaの圧力下、 80 Kの温度において金属絶縁体転移の観測に成功しました。

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スピンアイスと磁場誘起相転移

■今回の実習ではスピンアイスとよばれる磁性体Dy2Ti2O7の合成と物性測定をしました。 Dy2Ti2O7はパイロクロア構造をしており、 磁性原子のDyが正四面体の頂点を共有してできるパイロクロア格子を構成しています。 パイロクロア構造を持つ物質には、 その結晶構造に由来する幾何学的フラストレーションの効果が現れている物質が数多くあります。 そのうち、スピンがイジング異方性を持ち、最近接のスピン間の相互作用が強磁性的であるときに、 スピンアイスとなることが知られています。 スピンアイスと呼ばれる所以は、低温におけるスピン配位が氷の結晶中の水素原子の配列と等価であるからです。

図6, 7:フローティングゾーン炉を使ってDy2Ti2O7の単結晶合成をしました。

図8:単結晶の切り出しと研磨をし、単結晶X線回折装置を用いて結晶の方位出しをしました。

■上記のように準備した単結晶試料に対して、磁気特性測定装置(MPMS)と輸送特性測定装置(PPMS)を用い、磁化と比熱をそれぞれ測定しました。 [111]方向に磁場をかけたときにメタ磁性転移することを確認しました。 また、ゼロ磁場と磁場中の比熱の測定結果からエントロピーを求め、 ゼロ磁場で残留エントロピーの存在を確認し、それが磁場中で解放されることを確認しました。

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プレゼン発表

■最終日には、4日間の活動をまとめ、プレゼンテーションを行いました。 本体験活動プログラムは多岐にわたる内容を盛り込み、物性物理学の入門から、最先端の研究の現場までを概観する、非常に密度の濃いものとなりました。 参加者の方たちにとっては、新しい体験の連続で息をつく間も無かったかもしれませんが、 いきいきとプログラムに取り組んでいる様子が大変印象的でした。 最先端の研究の雰囲気を感じ取っていただけたのではないでしょうか。

図9:プレゼンテーションの様子。皆さんしっかりと発表され、質問にもきっちりと答えられていました。

図10:最後にみんなで集合写真。お疲れ様でした。

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参加者の声

以下、参加者の方へのアンケートより抜粋しました。

■普段の授業では体験できないことを実際に体験でき、非常に有意義でした。初めて知った面白い研究テーマもあり、今後に生かしていきたいと思います。

■濃い4日間を過ごせて、大変満足です。紙でやっていたことが、目の前で見ることができて楽しかったです。

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このページについて

2013年9月9日 - 12日に行われた東京大学物性研究所主催の体験活動プログラム、最先端物質科学入門:「固体の中の宇宙」についてご紹介いたします。


関連リンク

東京大学物性研究所
川島研究室(物性理論)
中辻研究室(物質合成)
上床研究室(高圧実験)