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レーザー光電子分光によるエネルギー・時間・空間的に微細なスケールの電子構造研究

日程 : 2019年6月5日(水) 10:00 am - 12:00 pm 場所 : 物性研究所本館6階 大講義室(A632) 講師 : 岡﨑 浩三氏 所属 : 東京大学物性研究所 極限コヒーレント光科学研究センター 世話人 : 岡﨑 浩三 (ext.63355)
e-mail: okazaki@issp.u-tokyo.ac.jp

角度分解光電子分光(ARPES)は、物質中の電子構造を直接観測できる強力な実験手法であり、電子構造の精密測定から物性の発現機構を明らかにする事ができる。いわゆる非従来型超伝導体においては、高分解能ARPESを用いることでクーパー対形成に伴う超伝導ギャップを運動量空間における異方性も含めて観測できる事から、対形成機構の理解に大きな寄与を果たしてきた。講演者もこれまで極低温超高分解能レーザーARPES装置を用いてそのような報告をしてきている[1]。一方、フェルミ面の有無から金属か絶縁体かが判別できるように、超精密ARPESによって逆に電子構造から物性を予言する事も可能になる。一般に非平衡状態における物性を知る事は実験的に難しいが、講演者は高次高調波レーザー時間分解ARPESを用いることで非平衡状態における電子状態を観測し、そこで発現し得る物性予測なども行っている[2]。

近年、鉄系超伝導体や銅酸化物高温超伝導体における常伝導状態において、電子系が自発的に回転対称性を破る液晶的な電子状態、「電子ネマティック」状態が実現されることが明らかになってきている。このような電子状態はこれまで知られていなかった全く新しい状態であり、新しいエネルギー・時間・空間のスケールが現れると期待される。エネルギー・時間スケールの解明には極低温超高分解能レーザーARPESと高次高調波レーザー時間分解ARPESが力を発揮するが、空間スケールの解明には大強度連続波レーザーを用いた光電子顕微鏡(PEEM)が適している。実際、電子ネマティック状態においてPEEM像の線二色性を取ることで、その回転対称性の破れを直接捉えることに成功し、これにより鉄系超伝導体における電子ネマティック状態に特異なドメイン構造が存在することがわかってきた。講演ではより詳細と今後の展望などについて議論したい。

Reference

[1] K. Okazaki et al., Science 337, 1314 (2012), Y. Ota, K. Okazaki et al., Phys. Rev. Lett. 118, 167002 (2017), T. Hashimoto, K. Okazaki et al., Nat. Commun. 9, 282 (2018)など

[2] K. Okazaki et al., Phys. Rev. B 97, 121107(R) (2018), K. Okazaki et al., Nat. Commun. 9, 4322 (2018), T. Suzuki, K. Okazaki et al., arXiv:1905.12138など


(公開日: 2019年05月30日)