Home >  研究会等 > 量子物質セミナー:キタエフ量子スピン液体における熱輸送特性と磁場効果

量子物質セミナー:キタエフ量子スピン液体における熱輸送特性と磁場効果

日程 : 2018年12月10日(月) 11:00 am - 12:00 pm 場所 : 物性研究所本館6階 第5セミナー室 (A615) 講師 : 那須 譲治 所属 : 横浜国立大学 大学院工学研究院 世話人 : 押川 正毅 (63275)
e-mail: oshikawa@issp.u-tokyo.ac.jp
講演言語 : 日本語

極低温まで磁気秩序を示さない量子スピン液体はP. W. Andersonによる理論提案以降、およそ半世紀にわたって磁性物理学の主要な研究テーマのひとつである。その中でも近年、厳密に量子スピン液体を基底状態にもつキタエフ模型[1]が注目を集めており、さらに、スピン軌道相互作用の強い絶縁磁性体がその候補物質となり得ることから[2]、実験理論共に精力的な研究が行われている。量子スピン液体の顕著な特徴として分数励起の存在を挙げることができ、キタエフ量子スピン液体においては、量子スピンがマヨラナ準粒子とZ2ゲージ場へと分数化することが知られている。これらの分数準粒子がどのように熱力学量や励起構造に現れるかを明らかにすることは、量子スピン液体の存在を実験的に示す重要な証拠になりうる。
本研究では、キタエフ量子スピン液体に内在する分数準粒子が生み出す輸送特性及びごく最近活発に研究がなされている磁場効果を明らかにするために、可解なキタエフ模型を出発点として熱伝導度を計算し、さらにその磁場依存性を調べた。まず、磁場が小さいときの摂動的なアプローチを用いて有限温度の熱伝導度を計算した。その結果、有効磁場によって生じるマヨラナ準粒子系のトポロジカルな変化とZ2ゲージ場の揺らぎが、特異な熱ホール伝導度の温度変化を生み出すことを示し[3]、この計算と実験結果との比較を行った[4,5]。さらに摂動的な扱いを超えて磁場を強くしたときに、非自明なトポロジカル転移が生じることも明らかにした[6]。

[1] A. Kitaev, Ann. Phys. (N. Y.) 321, 2 (2006).
[2] G. Jackeli and G. Khaliullin, Phys. Rev. Lett. 102, 017205 (2009).
[3] J. Nasu, J. Yoshitake, and Y. Motome, Phys. Rev. Lett. 119, 127204 (2017).
[4] Y. Kasahara et al., Phys. Rev. Lett. 120, 217205 (2018).
[5] Y. Kasahara et al., Nature 559, 227 (2018).
[6] J. Nasu, Y. Kato, Y. Kamiya, and Y. Motome, Phys. Rev. B 98, 060416(R) (2018).


(公開日: 2018年11月29日)