MBE-STMを用いた重い電子系化合物薄膜の研究
e-mail: hasegawa@issp.u-tokyo.ac.jp
ランタノイドやアクチノイドなど、f電子を含む化合物は重い電子系化合物と呼ばれる。強いクーロン斥力によって局在したf電子は、近藤効果による伝導電子との混成(c–f混成)によって低温では遍歴的にふるまう。それらの競合によって有効質量が通常よりも非常に大きい重い電子状態を形成する。このように、近藤効果によって、非磁性の重い電子状態を誘起する一方で、Ruderman-Kittel-Kasuya-Yosida (RKKY)相互作用によってf電子間の磁気秩序状態が誘起される。したがって、近藤効果とRKKY相互作用の競合によって、磁気秩序相転移が0 Kで起こる量子臨界点が存在する。量子臨界点周辺においては、非フェルミ液体や非従来型超伝導など、多彩な興味深い物性が発現する。
以上のことから、重い電子系化合物は、非常に興味深い研究対象として注目を集めており、数多くの物性測定がなされている。しかしながら、走査トンネル顕微鏡(STM)を用いたナノスケールでの電子状態測定は、限られた物質でしか行われていない。その理由として、単結晶の劈開性の悪さから、STM測定に適した清浄面を得るのが困難であることが挙げられる。
一方で、分子線エピタキシー法(MBE)と呼ばれる薄膜成長技術が近年注目を集めており、高純度の薄膜や人工超格子などの作製が行われている[1]。この技術を用いれば、STM測定に適した原子レベルで平坦な表面を容易に得ることができ、STMを用いた重い電子系化合物研究が加速されることが期待できる。
そこで本研究では、MBEによって成長させた重い電子系化合物であるCeCoIn5及びCeRhIn5薄膜のその場STM観察を行った。講演ではまず、非従来型超伝導体である重い電子系超伝導体CeCoIn5中の不純物効果[2]についての講演を行う。次に、重い電子系反強磁性体CeRhIn5におけるc–f混成状態[3]についての講演を行う。
References
[1] M. Shimozawa et al., Rep. Prog. Phys. 79, 074503 (2016). [2] M. Haze et al., J. Phys. Soc. Jpn. 87, 034702 (2018). [3] M. Haze et al., submitted.