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希土類単分子磁石の中性子散乱研究

日程 : 2018年8月20日(月) 11:00 am - 12:00 pm 場所 : 物性研究所本館6階 第5セミナー室 (A615) 講師 : 古府 麻衣子 氏 所属 : J-PARCセンター 世話人 : 益田隆嗣 (63415)
e-mail: masuda@issp.u-tokyo.ac.jp
講演言語 : 日本語

単分子磁石とは、ナノスケールの単一分子が保磁力を示し、あたかも磁石のように振る舞う物質群である。通常の磁石(強磁性体)と異なり、分子間の相互作用は無視できるほど弱く長距離秩序は現れない。保磁力の起源は、分子の大きな磁気モーメントと磁気異方性が、上向きと下向きのスピンの間に高いポテンシャル障壁を作り出し、磁化反転を非常に遅くするためである。単分子磁石は、その磁化反転機構が物理的に興味深いだけでなく、1分子メモリーとして応用の観点からも注目されている。1980年に最初の単分子磁石Mn12錯体が発見されて以降、3d遷移金属を含む物質が数多く研究されてきた。2000年以降、希土類元素を含む単分子磁石の研究が盛んに進められている。希土類単分子磁石の面白さのひとつは、量子性が色濃く現れることである。ポテンシャル障壁を超える単純な古典的熱活性過程ではなく、トンネリング過程を介した磁化反転過程が観られることが多く、そのメカニズム解明が中心的研究となっている。
本セミナーでは、Tb-Cu二核錯体や現在研究を進めているZn-Ln-Zn(Ln = Ce, Pr, Nd)三核錯体の中性子散乱研究について紹介する。Zn-Ln-Zn錯体では、分子中の磁性イオンは1つのみで、f電子数の偶奇性に応じて磁気緩和挙動が大きく変化する。クラマースイオンであるCe (J = 5/2)とNd (J = 9/2)は単分子磁石的挙動を示すが、非クラマースであるPr (J = 4)では遅い磁気緩和は観測されない(非単分子磁石)。中性子非弾性散乱により得られた磁気励起スペクトルも、f電子数の偶奇性で大きく変わる。これは、基底状態の違いと単分子磁石挙動が密接に関わっていることを示している。また、我々は中性子準弾性手法を用いて磁気緩和の観測を試みた。交流磁化率測定で観測された遅い磁気緩和と合わせることにより、緩和の全体像を捉えることに成功した。その結果、磁気緩和が単純なOrbach機構では記述されないことが明らかになった。
講演では、最近始めた磁性イオン液体の研究についても触れ、今後の研究の展望について述べたい。


(公開日: 2018年08月02日)