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遷移金属二硫化物WS2を用いたグラフェンへの異方的スピン軌道相互作用の誘起

日程 : 2018年2月13日(火) 2:00 pm - 3:00 pm 場所 : 物性研究所本館6階 第5セミナー室 (A615) 講師 : 若村 太郎 氏 所属 : パリ南大学 世話人 : 大谷 義近、 阪野 塁講演言語 : 日本語

内因的なスピン軌道相互作用が極めて小さいグラフェンへの強いスピン軌道相互作用の誘起は、スピントロニクスへの応用や、量子スピンホール状態など新奇な物性の発現への期待から、近年盛んに研究が行われている。その中でも特に、グラフェンと同様の2次元層状物質であり、強いスピン軌道相互作用を持つ遷移金属二硫化物とグラフェンの積層構造を作製し、界面での相互作用を通してグラフェンのスピン軌道相互作用を増大させる手法が注目を集めている。
本研究では、グラフェンと遷移金属二硫化物WS2の積層構造を作製し、グラフェンに誘起されるスピン軌道相互作用の大きさを弱反局在効果の測定により評価した。遷移金属二硫化物は膜厚によってバンド構造などの特性が変化するため、WS2として単層、およびバルクの2種類を用いて素子を作製し、比較を行った。低温での磁気抵抗効果の測定の結果、WS2が単層の場合とバルクの場合の両方で強いスピン軌道相互作用が誘起されたことを示す弱反局在効果が観測され、特にWS2が単層の場合、バルクWS2の場合と比較して1桁以上大きいスピン軌道相互作用を見積もることが出来た。さらに誘起されたスピン軌道相互作用の対称性についても詳しく考察を行ったところ、弱反局在効果の解析から、グラフェン-単層WS2/バルク WS2両方の系において対称的なスピン軌道相互作用が支配的であることが分かった。
これらの結果は、グラフェン-単層WS2構造がグラフェンにより効率的に強い面対称的スピン軌道相互作用を誘起可能であり、グラフェンでの量子スピンホール状態の実現に有用な系であることを示唆している。本発表では、上記の内容に加えてグラフェン-単層WS2構造で見られた異常な抵抗の温度依存性、スピン緩和機構とスピン軌道相互作用の対称性の関連について、またヴァレー-ゼーマン型スピン軌道相互作用の存在についても議論する予定である[1]。

[1] T. Wakamura et al., arXiv :1710.07483 (2017).


(公開日: 2018年01月09日)