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全反射高速陽電子回折(Total-reflection high-energy positron diffraction, TRHEPD)による結晶表面の構造解析

日程 : 2017年8月9日(水) 1:30 pm 〜 場所 : 物性研究所本館6階 第一会議室 (A636) 講師 : 兵頭 俊夫 所属 : KEK物質構造科学研究所 世話人 : 長谷川 幸雄 (63325)
e-mail: hasegawa@issp.u-tokyo.ac.jp
講演言語 : 日本語

物質の特性や機能は、構成原子の種類と配置で決まる。したがって、物質・材料の構造(詳細な原子配置)解析は、物性・機能の研究を支える基盤である。三次元物質では、Bragg等によって見出されたX線回折法が100年の間に発達し、放射光を使った構造解析が、タンパク質や複雑な機能性化合物・合金などの結晶にも有効な、標準的構造解析手法となっている。一方この間、二次元的な表面についてもさまざまな構造解析法が開発されてきたが、単独の標準的手法として、三次元物質に対するX線と同じような精度で結晶表面とその直下の詳細な原子配置を決めることができる手法は未だ存在しないといってよい。
全反射高速陽電子回折(TRHEPD、トレプト)は、反射高速電子回折(RHEED)の陽電子(電子の反粒子)版[1]であるが、すべての固体に共通な、内部の静電ポテンシャルが正であるという基本物性に基づく、他に類を見ない表面超高感度をもっており、表面構造決定の標準的な手法になる可能性がある[2]。
現在、KEK 物質構造科学研究所低速陽電子実験施設では、高強度低速陽電子ビームを用いた世界唯一のTRHEPD装置を共同利用に供している。これまでに、起伏が大きいために10年来決着していなかったGe(001)-(4×2)-Ptナノワイヤ構造[3]、30年来決着していなかったルチル型TiO2(110)-(1×2)表面の構造[4,5]を決定した。また、基板上に合成したグラフェンの基板との距離が基板の種類(CuとCo)によって大きく異なることの実証[6]、Ag(111)面上のシリセンのバックリングの大きさと基板からの距離の実測[7]、Al(111)面上のゲルマネンのバックリングがそれまでの予想と異なって非対称的であることの解明[8]などを行ってきた。
ここでは、TRHEPD法の原理とその表面超高感度の由来、測定法および具体的な測定例について解説する。
参考文献
[1] 一宮彪彦,日本物理学会誌 70, 683 (2015).
[2] Y. Fukaya, et al., Appl. Phys. Express 7, 056601 (2014).
[3] I. Mochizuki, et al., Phys. Rev. B 85, 245438 (2012).
[4] I. Mochizuki et al., Phys. Chem. Chem. Phys. 18, 7085 (2016).
[5] 望月出海他,表面科学 37(9), 451 (2016).
[6] Y. Fukaya, et al., Carbon 103, 1 (2016).
[7] Y. Fukaya, et al., Phys. Rev. B 88, 205413 (2013).
[8] Y. Fukaya, et al., 2D Materials, 3, 035019 (2016).


(公開日: 2017年08月10日)