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フェムト秒レーザーを用いたタンパク質の動的構造解析

日程 : 2017年7月26日(水) 3:30 pm 〜 場所 : 物性研究所本館6階 第5セミナー室 (A615) 講師 : 久保 稔 先生 所属 : 理化学研究所放射光科学総合研究センター ・ 専任研究員 世話人 : 吉信 淳 (内線:63320)講演言語 : 日本語

タンパク質は構造変化を起こすことで機能する。したがってその機能発現機構を理解するためには、タンパク質の構造の動的性質やダイナミクス(動的構造)を理解することが重要である。我々は種々のフェムト秒レーザーをヘムタンパク質に適用し、ヘムやタンパク部位の動的構造を調べてきた。
(1) ヘム(鉄ポルフィリン)の電子状態については古くからよく研究されているが、低振動や揺らぎといった核の振る舞いはまだよくわかっていない。そこで我々はフェムト秒コヒーレンス分光(ラマン分光の一つ)を用いて、ヘムタンパク質のヘムの低振動数モードを解析した。その結果、低振動数モードがヘム面の歪みと相関していることを明らかにした[1]。ヘム面の歪みは、鉄-ポルフィリン間相互作用を変化させるため、電子状態との相関について理論研究が待たれる。
(2) ヘムを取り巻くタンパク部分(反応場)の状態解析には赤外分光が有用である。ただし、タンパク質の赤外分光は水の強い赤外吸収が測定の妨害となるため、これまで適用が限られてきた。そこで我々は高輝度のフェムト秒赤外レーザーを用いて、水試料を扱える時間分解赤外分光装置を開発した。装置をチトクロム酸化酵素という巨大なヘムタンパク質(分子量21万)に応用し、配位子脱離後のダイナミクスを観測した結果、構造変化の途中で準安定状態が現れることを明らかにした[2]。
(3) 分光では実空間情報を直接得られないが、X線結晶構造解析は原子分解能でそれが可能である。これまで結晶構造解析はダイナミクス研究に対して十分に力を発揮してこなかったが、X線自由電子レーザー(XFEL)の出現により動的解析に新たな道が拓かれた。我々は最近、フェムト秒のXFELパルスを用いた時間分解結晶構造解析の装置を開発し、光合成タンパク質(光化学系II)などに適用した[3,4]。チトクロム酸化酵素の配位子脱離後の準安定状態の構造解析にも適用し、ヘムのスライドやそれに起因した機能部位への構造変化の伝播を原子スケールで観測した[5]。
本セミナーでは、上記研究を中心にヘムタンパク質の動的性質を紹介するとともに、今後の展望について触れる。

【参考文献】
[1] Kubo et al. J. Am. Chem. Soc. (2008) 130, 9800-9811.
[2] Kubo et al. J. Biol. Chem. (2013) 288, 30259-30269.
[3] Suga, Akita, Sugahara, Kubo, Nakajima et al. Nature (2017) 543, 131-135.
[4] Nango, Royant, Kubo et al. Science (2016) 354, 1552-1557.
[5] Shimada, Kubo, Baba et al. Sci. Adv. (2017) Accepted.


(公開日: 2017年07月03日)