Home >  研究会等 > 第6回:スピン依存トンネル伝導が関わるナノスピントロニクス素子の進展

第6回:スピン依存トンネル伝導が関わるナノスピントロニクス素子の進展

日程 : 2017年5月25日(木) 11:00 am - 12:00 pm 場所 : 物性研究所本館6階 第5セミナー室 (A615) 講師 : 介川 裕章 所属 : 国立研究開発法人 物質・材料研究機構磁性・スピントロニクス材料研究拠点 世話人 : 中辻 知講演言語 : 日本語

巨大磁気抵抗素子(GMR素子)やトンネル磁気抵抗素子(TMR素子)はスピントロニクス技術を用いた代表的な素子として知られ、これまで高密度な磁気記録の実現(ハードディスク)や不揮発磁気メモリなどへの応用に重要な役割を果たしてきた。これらの磁気抵抗素子は強磁性体間の相対磁化方向の制御のみで電気抵抗を変化させることができ、動作に原子移動や化学反応などを伴わないことから、高速動作と無限回の状態書換えが可能という特長を有する。これらの素子において良好な磁気抵抗効果を得るためには、スピン偏極した伝導電子を非磁性体層を介して隣の強磁性体へ効率的に輸送することが要求される。特に、TMR素子では非磁性体に絶縁体(トンネルバリア)を用いるため、トンネル電流の制御のため原子面厚さスケールでの構造最適化を必須とする。そのため薄膜成長技術とナノスケール微細加工技術の向上に加え、新材料の導入が特性の向上に極めて大きな役割を果たしてきた。例えばTMR素子では、トンネルバリア材料の発見が大きな飛躍につながっており、アルミナ(1995年頃)、MgO(2001~2004年頃)が発見され、実用上の大きなブレイクスルーとなった。また、これらの技術向上に付随して新しい現象、例えばスピン移行トルクによる磁化状態制御や強磁性層/トンネルバリア界面に誘起する垂直磁気異方性など、興味深い現象が明らかになっている。これらの新現象は基礎的な興味にとどまらず、素子応用を目指した実用研究も近年盛んに行われている。

本セミナーではTMR素子を中心に、スピン依存伝導が関わる磁気抵抗素子の歴史的経緯から最新の動向までを、特に材料の観点から概括したい。また著者らがこれまでに関わってきたスピネル(MgAl2O4)系トンネルバリア[1]や高スピン分極強磁性材料と知られるCo基ホイスラー合金の利用[2]などについて紹介したい。

[1] H. Sukegawa et al., Appl. Phys. Lett. 96, 212505 (2010); H. Sukegawa et al., Phys. Rev. B 86, 184401 (2012); M. Belmoubarik et al., Appl. Phys. Lett. 108, 132404 (2016); H. Sukegawa et al., Appl. Phys. Lett. 110, 122404 (2017).
[2] R. Shan et al., Phys. Rev. Lett. 102, 246601 (2009); W. Wang et al., Phys. Rev. B 81, 140402(R) (2010); Z. Wen et al., Adv. Mater. 26, 6483 (2014); T. Scheike et al., Appl. Phys. Express 9, 053004 (2016); H. Sukegawa, Appl. Phys. Lett. 110, 112403 (2017).


(公開日: 2017年05月19日)