Home >  ニュース > 福山秀敏東京大名誉教授(第12代物性研究所長)が平成28年度の文化功労者に選出

福山秀敏東京大名誉教授(第12代物性研究所長)が平成28年度の文化功労者に選出

  第12代物性研究所長(平成11年度〜14年度)の福山秀敏東京大名誉教授(現東京理科大学教授)が、物性物理学の分野における多大な功績が評価されて、平成28年度の文化功労者に選ばれました。福山秀敏名誉教授は、「超伝導」を始めとする固体の様々な物性の理論的研究において幾多の顕著な成果を上げられ、この分野における指導的研究者として活躍されるとともに、学術研究の環境整備にも長年に渡り精力的に取り組まれてきました。

  研究成果のうち、特に重要なものとしては、「軌道磁性・ホール効果」「1次元有機導体」「強磁場下電子系」「アンダーソン局在」「銅酸化物高温超伝導」「分子性結晶」等が挙げられます。
  「軌道磁性・ホール効果」では、量子力学誕生直後である1930年代以降永年の謎とされていたビスマス結晶が示す大きな反磁性の説明に成功し、現在ではFukuyama formulaの名称のもと「軌道磁性」研究の基本となる軌道磁化率の厳密かつ簡便な公式の導出を行い、さらにホール係数についての一般公式の導出を行っています。
  「1次元有機導体」では1970年代初頭から着目され、電子格子結合系の集団励起による伝導に対して秩序変数の位相の運動として表現する方法を考案し、不純物による位相のピン止めの問題等に適用しています。この方法は位相ハミルトニアン、あるいはFukuyama Hamiltonianの方法と呼ばれ、Fukuyama-Lee-Rice length等のキーワードとして残っています。
  「強磁場下電子系」では、電子間のクーロン相互作用に起因する電子の結晶(ウィグナー結晶)及び電荷密度波の強磁場による安定化の可能性を論じています。とりわけグラファイトで発見された電気抵抗の異常な温度依存性について「電荷密度波」の可能性を指摘されています。また、磁性体で出現するスキルミオン結晶の特性が磁場中の電荷密度波と同じであることを明らかにされています。
  「アンダーソン局在」では、電子間相互作用によるアンダーソン局在の促進、及びアンダーソン局在の強磁性、超伝導への影響も明らかにしました。この「弱局在」に関する研究はその後「メゾスコピック系の物理」、とりわけ「電気抵抗の揺らぎ」という現在多くの関心を集める「ナノ系の物性」研究へと展開し、これらの業績により、昭和62年第1回日本IBM科学賞を受賞されています。
  昭和61年に出現した「銅酸化物高温超伝導」では、一貫してAndersonのRVB (resonating valence bond) の視点に立って、常に実験に即して研究を推進され、特に、安岡弘志氏(第11代物性研究所長)がNMRで最初に発見し、後に「擬ギャップ」と呼ばれる「銅酸化物超伝導」での最も重要な現象についての理論的提案をされています。それらの功績により平成10年第2回超伝導科学技術賞を受賞されています。
  「分子性結晶」では、電子間クーロン相互作用に関する「モデル化」を実現し、相互作用効果についての統一的視点を世界で初めて提示されています(第3回日本物理学会論文賞(平成10年))。加えて強相関効果に起因する電子の局在化に対して、「分子の二量化」の大小に伴う「ダイマーモット絶縁体」と「電荷秩序」が可能であることを明らかにされました。(第9回日本物理学会論文賞(平成16年))。

  また、「物性物理学」の研究のみならず、広く日本の「物質材料科学」研究や、更には研究の環境整備や学術行政にも長年に渡り貢献されてきました。物性研究所長在職中に、国立大学等の法人化後の我が国の学術研究体制における大学共同利用機関のあり方の検討を行う科学技術・学術審議会専門委員(学術分科会)を始め、多くの重要な役職に着かれています。特に日本の大型施設の設置・運営形態に対して初期の時代から取り組まれており、SPring-8では、現在の「供用形態」の構築に向けた「供用法」適用について審議した高輝度光科学研究センター選定委員会委員等を務め、J-PARCや大型計算機「京」についても、その当初から現在に渡り各委員等を務められておられます。
  産官学全体の連携を基にした新しい創造的な試みである文部科学省「元素戦略プロジェクト<研究拠点形成型>」制度設計に関与され、現在も「運営統括会議」構成員を務められています。さらに学術審議会専門委員をはじめ、日本物理学会理事(平成8年~平成10年)等を歴任し、我が国の大学の教育・研究の向上を目指したグローバルCOEプログラム委員会委員、及び国立大学教育研究評価委員会専門委員等を務められています。
  若手研究者の育成に向けては、平成18年に秋光純氏と協力し、私費を投じて現在では若手研究者の登竜門となった「凝縮系科学賞」創設しています。また、純粋及び応用物理国際連合(IUPAP)は「男女共同参画」運動推進のためにWomen in Physics ワーキンググループを平成11年設置しましたが、このWGでただ一人の男性委員として世界的な視点に立って活動し、国内では直ちに「日本物理学会」「応用物理学会」の連携体制構築に努め、平成14年パリでの第1回国際会議の開催には大変ご尽力され、その結果「男女共同参画学協会連絡会」が平成14年に誕生しています。

  物性研究所長の後には、東京理科大学副学長、同総合研究機構機構長を歴任されており、これまでも平成15年春には紫綬褒章、平成27年秋には瑞宝中綬章を受賞されています。

文部科学省:平成28年度 文化功労者
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/28/11/attach/1379064.htm

福山 秀敏 名誉教授
(公開日: 2016年11月09日)