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第13回ISSP学術奨励賞・ISSP柏賞

東京大学物性研究所では平成15年度から物性研究所所長賞としてISSP学術奨励賞およびISSP柏賞を設けました。ISSP学術奨励賞は物性研究所で行われた独創的な研究、学術業績により学術の発展に貢献したものを称え顕彰し、ISSP柏賞は技術開発や社会活動等により物性研究所の発展に顕著な功績のあったものを称え顕彰するものです。歴代受賞者は東京大学物性研究所所長賞のページで紹介しています。

平成27年度は次の3名の方が第13回の受賞者と決定しました。授賞式は平成28年3月16日に物性研究所大講義室において行われ、引き続き柏キャンパスカフェテリアにおいてお祝いの会が開催されました。


第13回ISSP学術奨励賞
松林 和幸 氏
(元・極限環境物性研究部門 助教  現・電気通信大学 准教授)
「圧力誘起相転移における臨界現象の研究」

松林氏は、圧力や磁場によってコントロールされる種々の相転移近傍での物性測定(電気、抵抗、比熱、磁化率等)を多重環境(極低温・磁場・超高圧)下で精密に行い、量子臨界点近傍で出現する新奇物性現象の研究を行っている。この種の研究は、良質な圧力環境の実現が鍵となるが、松林氏は、独自のアイデアにより、より均質な圧力環境の実現に成功した。松林氏は、この良質な圧力環境を用い、圧力誘起トポロジカル超伝導体Bi2Te3についての研究を行い、良質な圧力環境の重要性を指摘した。また、四極子秩序および近藤効果を示すPr化合物PrTi2Al20についての高圧下物性研究を行い、軌道揺らぎが超伝導のクーパーペアの形成に関係していることを明らかにした。この結果は、四極子秩序に起因していると考えられる圧力誘起重い電子系超伝導の初めての発見である。希土類金属間化合物YbNi3Ga9においては、圧力誘起磁気秩序が出現することを明らかにすると共に、その磁気秩序相が誘起される直前においては、価数の連続的な変化と価数揺らぎの量子臨界現象が関係し、磁化が急激に増大する事を明らかにした。松林氏のこれら一連の成果は、高圧誘起相転移における臨界現象の研究において、大きな進展をもたらすものであり、ISSP学術奨励賞に十分相応しいと認められた。

第13回ISSP学術奨励賞
小濱 芳允 氏
(附属国際超強磁場科学研究施設 金道研究室 特任助教)
「パルス強磁場下における物性測定の深化とそれを用いた物性研究」

物性研究所の非破壊型パルスマグネットは、単一電源で駆動するコイルとしては世界最強の磁場を発生できる。この磁場波形は、シンプルであり高精度測定に適しているものの、パルス幅が短いため伝導系試料の精密物性測定に技術的困難を伴うという問題があった。小濱氏は、この問題を解決し、パルス強磁場下における交流磁気抵抗測定の高精度化、世界最高精度の磁気熱量効果測定および比熱測定など、世界最先端の強磁場物性研究環境の構築に大きく貢献した。同氏が展開する熱量測定はエントロピーを直接評価できる実験手法であり、様々な磁場誘起相転移現象の熱力学的性質を明らかにできる。さらに小濱氏は、フラットトップのパルス磁場発生を実現し、それを高速温度掃引技術と組み合わせることで、一定磁場下における電気抵抗の温度依存性測定なども可能にした。このように、これまで定常磁場下でのみ可能であった測定をパルス磁場下においても測定可能とし、かつ物性物理の議論が可能な精度の測定を実現する事に成功した。これらの開発をもとに、小濱氏は所内外との共同研究を数多く展開し、すでにその一部が公表されつつある。一連の成果はパルス強磁場下における物性測定の深化とそれを用いた物性研究への道を開くものであり、ISSP学術奨励賞に十分相応しいと認められた。

第13回ISSP柏賞
藤澤 正美 氏
(附属極限コヒーレント光科学研究センター 軌道放射物性研究施設 助教)
「放射光ビームライン技術の開発」

藤澤氏は、世界で最初に物性研究用に建設された放射光施設SOR-RING において、初期の頃から、ビームライン全般の維持、改良に精力的に携わって来た。主に、ビームラインBL-1 で瀬谷-波岡型分光器の整備、改良などを行い、多くの共同利用を行ってきた。特に、半導体や、酸化物超伝導体関係の強相関化合物の研究に大きな貢献をしてきており、膨大な数のユーザーの論文として成果になっている。一方、Photon Factoryにおける物性研つくば分室においては、ビームラインBL-19B の分光器の設計と立ち上げを行った。SPring-8 では、SPring-8 BL07LSUでのビームライン建設作業に携わり、ビームラインの集光鏡システムの設計などに貢献し、偏光評価解析装置の立上げも行った。また、その他にも2013 年にUVSOR BL5U のビームライン分光器の設計に貢献した。藤澤氏が数多くの放射光施設で設計・建設してきたこれら真空紫外・軟X線ビームラインにおいて、これまで多数の放射光共同利用実験が実施されてきた。更に、藤澤氏はこれまでの放射光ビームライン技術を活かして超短パルス軟X線用の分光器の設計、製作及び開発に取り組んでいる。以上のように、藤澤氏の放射光科学や高調波レーザー科学の分光学への長年にわたる貢献はISSP柏賞に十分相応しいと認められた。

左から、藤澤 助教、瀧川 所長、小濱 特任助教、松林 元助教
(公開日: 2016年03月25日)