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第15回物性研所長賞授与式を開催しました

3月12日、物性研究所にて第15回(平成29年度)物性研究所所長賞授与式が行われました。物性研で行われた独創的な研究、学術業績により学術の発展に貢献したものを称え顕彰するものにISSP学術奨励賞、技術開発や社会活動等により物性研究所の発展に顕著な功績のあったものを称え顕彰するものにISSP柏賞がそれぞれ授与されます。

平成29年度は、ISSP学術奨励賞に榊原研の橘高俊一郎氏、松田康研の池田暁彦氏、ISSP柏賞に附属物質設計評価施設の浜根大輔氏が決定しました。

これまでの受賞一覧はこちらをご覧ください。

左から、橘高俊一郎氏、池田暁彦氏、 浜根大輔氏、瀧川仁所長
左から、橘高俊一郎氏、池田暁彦氏、 浜根大輔氏、瀧川仁所長

第15回ISSP学術奨励賞

橘高 俊一郎 氏(凝縮系物性研究部門 榊原研究室 助教)
「精密磁場中比熱測定による重い電子超伝導体CeCu2Si2の研究」

橘高氏は、回転磁場下の比熱測定装置を格段に改良してCeCu2Si2の超伝導ギャップの符号が反転するノードの構造を調べ、その超伝導対称性を決定しました。本研究では、極低温磁場中比熱を精密測定することにより、超伝導体のゼロエネルギー付近の準粒子状態密度の異方性を調べています。研究対象としたCeCu2Si2は、発見以来30年にわたって線状ノードを持つd 波超伝導と考えられてきました。同氏は超伝導転移温度(0.6 K)以下の精密な測定により、この系のギャップにはノードがないことを初めて指摘しました。また、比熱測定の結果をバンド計算から求められたフェルミ面の形状と比較し、超伝導対称性がs ±を含むA1g である可能性が高いこと、比熱の温度依存性がマルチバンドのフルギャップ超伝導で説明可能であることを示しました。電子相間の強い重い電子系でA1g のフルギャップ超伝導が実現しているという可能性は、多くの研究者に強烈なインパクトを与えました。さらにその後、詳細な解析により、d 波超伝導の証拠と考えられてきたNMRの磁気緩和率のT3温度依存性が、s ±型のマルチバンドフルギャップ超伝導でも説明できることを示しました。そして、この系ではパウリ常磁性効果が比熱や磁化の特徴的な磁場依存性に現れることも指摘しています。これらの研究成果は重い電子系超伝導の典型物質であるCeCu2Si2 における電子対形成メカニズムの再考を迫るとともに、重い電子系超伝導研究に一石を投じたものであり、ISSP学術奨励賞に十分相応しいと認められました。


池田 暁彦 氏(附属国際超強磁場科学研究施設 松田研究室 助教)
「100テスラ領域における新奇スピン状態秩序相の発見と磁歪計測装置の開発」

池田氏は世界に先駆けて150テスラ(T)に至るパルス磁場中の磁化測定装置を開発し、強相関コバルト酸化物(LaCoO3)の磁場温度相図を構築しました。このコバルト酸化物はスピンが揺らぐスピンクロスオーバーに長年興味がもたれており、50 T以上の磁場でコバルトの高スピン状態の出現に伴う磁気相転移が期待されています。同氏はパルス強磁場中の誘導磁化測定装置を改良して130 Tまでの測定を行い、60 T以上の磁場中でLaCoO3に複数のスピン状態秩序相があることを見出しました。このような強磁場では、異なるスピン状態の超格子秩序相やスピン状態の量子凝縮相などの存在が理論的に予想され、新たに発見されたスピン状態秩序相の解明が待たれています。二つ目の業績は、高速磁歪計測手法の開発です。この手法は1000 Tに至るパルス強磁場下での新たなスピン状態測定法として利用できます。これにより、スピン状態秩序相解明のための有力な研究手段を得たことになります。従来の誘導磁化測定は1000 Tパルス磁場と併用することが困難であり、磁化測定に代替するスピン状態測定法の開発が不可欠でした。開発した磁歪計測装置は、外部磁場による磁性体の体積変化を、試料に取り付けたファイバーブラッググレーティングの長さの変化として、パルスレーザー光を用いて検出するものです。本装置は様々なスピン系・強相関電子系の150 Tまでの高速磁化測定に現在使用しており、開発中の1000 Tパルス磁場中での測定を計画しています。このように、学術的価値が高いばかりでなく、開発した装置の応用範囲も広く、ISSP学術奨励賞に十分相応しいと認められました。


第15回ISSP柏賞

浜根 大輔 氏(附属物質設計評価施設 技術専門職員)
「電子顕微鏡を用いた鉱物研究と社会貢献」

浜根氏は、物質設計評価施設・電子顕微鏡室において、様々な物質について専門的な電子顕微鏡技法を用いた微細組織観察、結晶構造解析、組成分析などで、全国共同利用および所内の研究を支援しています。また、電子顕微鏡に関する高度な知識と習熟した技術にもとづいて、研究者と学生に対して適切な技術指導を行い、後進の教育にも寄与しています。このように物性研究の基盤を支え、その発展に大きく貢献してきました。これらの業務に加えて、自らの研究も高いレベルで遂行して原著論文を多数出版しており、中でも透過型電子顕微鏡技法を用いた微細領域での化学組成定量分析を実現した研究においては、日本鉱物科学会から論文賞ならびに研究奨励賞を受賞しています。このような電子顕微鏡技法を応用することで、これまでに19種もの新種鉱物の発見に関わり、鉱物学の発展にも貢献してきました。新鉱物発見に対しては鉱物科学会から櫻井賞を受賞しています。そして、浜根氏の鉱物科学での活躍が社会に知られるところとなり、2018 年1 月より朝日小学生新聞において鉱物にまつわる記事を連載し、物性研究所の社会アピールにも貢献しています。以上のように、電子顕微鏡室における物性研究への貢献と鉱物科学の発展への寄与およびその広報活動は、ISSP柏賞に十分相応しいと認められました。

(公開日: 2018年03月15日)