Home >  ニュース > 第9回ISSP学術奨励賞・ISSP柏賞

第9回ISSP学術奨励賞・ISSP柏賞

東京大学物性研究所では平成15年度から物性研究所所長賞としてISSP学術奨励賞およびISSP柏賞を設けました。ISSP学術奨励賞は物性研究所で行われた独創的な研究、学術 業績により学術の発展に貢献したものを称え顕彰し、ISSP柏賞は技術開発や社会活動等により物性研究所の発展に顕著な功績のあったものを称え顕彰するものです。歴代受賞者は東京大学物性研究所所長賞のページで紹介しています。

平成23年度は次の6名の方が第9回の受賞者と決定しました。授賞式は3月12日に物性研究所大講義室において行われ、引き続き柏キャンパスカフェテリアにおいてお祝いの会が開催されました。


第9回ISSP学術奨励賞
宮田 敦彦氏(国際超強磁場科学研究施設 博士課程3年(物工)、日本学術振興会特別研究員)
「600 Tに至る極限超強磁場によるクロムスピネル酸化物の全磁化過程の解明」

宮田氏は、3次元フラストレート磁性体のクロムスピネル酸化物に対し、破壊型コイルによる超強磁場発生装置と磁気光学測定を組み合わせた物性測定という極めて困難な研究開発に取り組み、3次元系で初めて熱揺らぎによる磁気秩序“order driven by fluctuation”現象を観測したり、極低温5 Kにて600 Tという超強磁場での磁気光学測定を成功させるなど、独創的な成果を数多く挙げた。また、超強磁場下での吸収分光測定に取り組み、飽和磁化直前に従来の理論の枠を越えた磁気的異常を観測した。そして、磁性体と4Heでは対称性の破れ方に類似性があることから、この異常は、「超流動相」に対応する磁気相への転移であると提案した。これらの実験を踏まえ、スピン系をボソン描像で捉えることにより、4Heの研究で活発に議論されている超流動や超固体といった量子相を磁性体中において見出した。これらの業績はISSP学術奨励賞に十分値すると認められた。

第9回ISSP学術奨励賞
Kittiwit Matan氏(中性子科学研究施設 元特任研究員)
「歪んだ籠目格子反強磁性体における風車型VBS状態の観測」

Kittiwit Matan氏は、東工大グループが帯磁率測定からRb2Cu3SnF12系のシングレット基底状態を報告するや否や、単結晶中性子散乱実験を提案し、JRR-3のGPTAS分光器を用いて、その磁気励起スペクトルを詳細に測定し、世界初のs = 1/2籠目格子反強磁性体の単結晶非弾性散乱実験を行った。この実験の結果、磁気励起スペクトルは単純な非分散シングレット-トリプレット局在励起ではなく、強い分散を伴ったものであること、さらにはトリプレットが大きく分裂している事などを発見した。さらに理論グループとの共同研究から、この励起スペクトルが風車型に配列したシングレットからの励起であることを明らかにした。この業績はISSP 学術奨励賞に十分相応しいと認められた。

第9回ISSP ISSP柏賞
野澤 清和氏(放射線管理室 技術専門職員)、鷺山 玲子氏(低温液化室 技術専門職員)、浅見 俊夫氏(中性子科学研究施設 技術専門職員)、杉浦 良介氏(中性子科学研究施設 技術職員)
「東日本大震災の復興支援に貢献した」

未曾有の大災害をもたらした東日本大震災により、物性研究所もかなりの被害を受けた。通常業務以外の仕事を余儀なくされ、この被災からの復興に特に貢献した4名をISSP柏賞に決定した。

野澤氏は放射線管理室の技術専門職員として、福島原発事故による放射線汚染の調査を定期的かつ平日、祝祭休日を問わず行った。また、正しい放射線知識を伝えるべく、速やかに講習会を開催した。鷺山氏は、津波で壊滅的被害を受けた岩手県大槌町にある大気海洋研究所の高圧ガスボンベの安全確認のため、震災直後に直接、現地に赴き調査、協力を行った。浅見氏・杉浦氏は物性研の中でもっとも被害が大きかった東海村中性子科学研究施設が行っている中性子散乱全国共同利用装置の速やかな修理、復旧に尽力した。また、震度4以上の余震の発生のたびに施設に駆けつけて対応にあたった。

左から、杉浦氏、浅見氏、Kittiwit氏、家所長、宮田氏、野澤氏、鷺山氏
(公開日: 2012年04月20日)