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第10回ISSP学術奨励賞・ISSP柏賞

東京大学物性研究所では平成15年度から物性研究所所長賞としてISSP学術奨励賞およびISSP柏賞を設けました。ISSP学術奨励賞は物性研究所で行われた独創的な研究、学術 業績により学術の発展に貢献したものを称え顕彰し、ISSP柏賞は技術開発や社会活動等により物性研究所の発展に顕著な功績のあったものを称え顕彰するものです。歴代受賞者は東京大学物性研究所所長賞のページで紹介しています。

平成24年度は次の2名の方が第10回の受賞者と決定しました。授賞式は3月11日に物性研究所大講義室において行われ、引き続き柏キャンパスカフェテリアにおいてお祝いの会が開催されました。


第10回ISSP学術奨励賞
吉田 誠氏(新物質科学研究部門 瀧川研究室 助教)
「フラストレートした磁性体ボルボサイトの磁気相転移と異常なゆらぎの観測」

フラストレートした二次元スピン系は、新しい量子状態の出現への期待から近年大きな注目を集めています。吉田氏は異方的カゴメ格子構造を持つボルボサイト(Cu3V2O7(OH)2・2H2O)の純良な粉末試料に対して極低温・強磁場中のNMRを駆使し、これまでに例のない磁気相転移とスピン構造を発見しました。まず低磁場では1 K以下において異常に遅いゆらぎを伴った新奇な磁気秩序状態にあることを見出しました。また高磁場では、モーメントの大きさに変調があり遅いゆらぎを伴ったスピン成分と通常の秩序を示すスピン成分がミクロに共存するheterogeneous spin stateと呼ぶべき状態が実現していることを見出しました。この結果は、磁場によってフラストレーションが解消され磁気秩序が安定化されるプロセスが、段階的かつ空間的に非一様に起こることを示唆しています。この一連の研究はフラストレートスピン系におけるボルボサイトの重要性を確立し、関連分野の多くの研究者の注目を集めました。以上の業績はISSP学術奨励賞に十分相応しいと認められました。

第10回ISSP柏賞
内田 和人氏(極限環境物性研究部門 技術専門職員)
「位置シフトによる空間2次微分イメージング装置の発明」

光学顕微鏡によるグラフェン片などの判別は、僅かな色調コントラストの差を検出器限界まで増幅することにより行われますが、本発明はこれを高感度化する技術です。一般に画像データは空間2次微分を施すことによりコントラスト差が強調されますが、ソフト的な数値2次微分ではCCD 検出器の素子特性のばらつきや光学系の不完全性も拾ってしまいます。本発明は、これらの影響を除去するために、被観測物と検出器を相対的に動かしてハード的微分をとるもので、検出感度限界のコントラスト差の映像化が可能となります。本技術は単にグラフェン片検出に限らず幅広い応用が考えられることから、東大知的財産本部を通して特許出願されました。本発明は、物性研究のみならず幅広い応用の可能性によって社会に貢献できるものとして高く評価され、ISSP柏賞に相応しいと判断されました。

左から、吉田氏、家所長、内田氏
(公開日: 2013年03月27日)