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第11回ISSP学術奨励賞・ISSP柏賞

東京大学物性研究所では平成15年度から物性研究所所長賞としてISSP学術奨励賞およびISSP柏賞を設けました。ISSP学術奨励賞は物性研究所で行われた独創的な研究、学術 業績により学術の発展に貢献したものを称え顕彰し、ISSP柏賞は技術開発や社会活動等により物性研究所の発展に顕著な功績のあったものを称え顕彰するものです。歴代受賞者は東京大学物性研究所所長賞のページで紹介しています。

平成25年度は次の3名の方が第11回の受賞者と決定しました。授賞式は平成26年3月17日に物性研究所大講義室において行われ、引き続き柏キャンパスカフェテリアにおいてお祝いの会が開催されました。


第11回ISSP学術奨励賞
新見 康洋 氏
(ナノスケール物性研究部門大谷研究室 助教)
「外因性スピンホール効果とスピン緩和機構の研究」

 近年のスピントロニクス分野では、いかに効率よくスピン流を生成できるか、またはこれを電圧信号に変換できるかが最重要課題となっている。これまで知られている中で最も効率よくスピン流から電流に変換できる物質が希少貴金属である白金である。新見氏らは希少貴金属を使用せず、大きな変換効率を生み出す外因性スピンホール効果に着目して研究を行い、安価でスピン軌道相互作用の弱い銅にイリジウムを混入させると、白金と同程度の変換効率が得られること、さらには銅にごく微量のビスマスを混入させると、白金と比べて変換効率を1桁増強できることを発見した。さらに近年スピントロニクス分野で論争になっているスピン緩和長の定量的な算出に取り組み、新見氏らを中心として構築してきたスピン吸収法のモデルの正しさを証明するために、これまでとは全く別の「弱反局在効果」を用いてさまざまな物質のスピン緩和長を調べ、スピン吸収法で得られた値と定量的に一致することを示した。以上の業績はISSP学術奨励賞に十分相応しいと認められた。

第11回ISSP学術奨励賞
松本 洋介 氏
(新物質科学研究部門中辻研究室 助教)
「強相関電子系における量子臨界現象、異方的重い電子状態の研究」

 “量子臨界点近傍に形成される新しい量子相”は強相関電子系に置ける新概念創出の舞台として重要な研究テーマとして注目される。松本氏は、Yb系として初めての重い電子超伝導を示す価数揺動系YbAlB4の新規な量子臨界性と異方的重い電子状態の研究を行った。物性研における極低温での精密物性測定により、β−YbAlB4における零磁場量子臨界点を発見した。この物質では磁場や圧力などの制御パラメータによるチューニングのいらない“自発的量子臨界現象”が実現しており、金属では初めての例である。さらに、多形体 α−YbAlB4における電気伝導度の精密測定から、その異方性が重い電子系のなかでは最高の10を超える値を持つなど、異方的な混成効果が、価数揺動系における重い電子状態の形成に重要であることを見いだした。以上の業績はISSP学術奨励賞に十分相応しいと認められた。

第11回ISSP柏賞
伊藤 功 氏
(附属極限コヒーレント光科学研究センター小林研究室 技術専門職員)
「LabVIEWを用いた測定システムの構築」

 伊藤氏は2004年4月から2011年3月まで軌道放射物性研究施設の技術職員として主に加速器制御システムの開発に従事し、先端的な加速器開発の研究支援を行ってきた。 2010年、日本ナショナルインスツルメンツ主催のアプリケーションコンテス トにて伊藤氏の作成した「偏光制御アンジュレータ用電磁石型移相器のためのフリップコイル直流積分磁場測定システム」が一般部門最優秀賞を受賞した。この開発で、これまで1時間以上かかっていた測定がわずか1秒以内で行えるようになった。2011年度から伊藤氏は先端分光研究部門(現、極限コヒーレント光科学研究センター)小林研究室に異動し、先端的なレーザー開発に従事するとともに、研究に不可欠な実験装置制御システムの開発・運用にあたり、実験の効率化を図っている。伊藤氏の計測制御システム開発は、 ISSP柏賞の目的である「技術開発により東京大学物性研究所の発展に顕著な功績」 に相応しいと認められた。

左から、松本氏、新見氏、瀧川所長、伊藤氏
(公開日: 2014年05月09日)