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勝本教授、井上学術賞を受賞

勝本信吾教授
勝本信吾教授

物性研究所ナノスケール物性研究部門の勝本信吾教授が第22回の井上学術賞を受賞されました。井上学術賞は、自然科学の基礎的研究で特に顕著な業績を挙げた50歳未満の研究者に対し井上科学振興財団から授与されるもので、受賞の対象となったのは、「固体中のコヒーレントな輸送現象の実験的研究」です。

電子回路中で電気を伝える電子は、粒子であると同時に波動でもあります。しかし、電子は固体中で頻繁に散乱されるため、通常の電気伝導には、この粒子・波動の2重性という不思議な性質が表に顔をのぞかせることはありません。しかし、一見何でもない伝導現象の裏にもこの2重性はひそんでおり、ナノスケールの系では、実験条件を工夫することでこれを表に引き出し、どのような役割を果たしているのか直接調べることができます。

勝本教授は、長年、この2重性が電気伝導に現れる「量子輸送現象」の研究に取り組んでこられました。特に、電子の波動的性質によって物質が電気を通したり通さなくなったりする金属絶縁体転移を外部から半導体試料に光を照射することで制御する実験は、独創的で精度が高く、この基礎的な問題に対して重要な知見を与えました。

また、電子の粒子性を使って1個1個の電子をピンセットでつまむようにして制御する単電子デバイスに取り組み、このような粒子性が強く現れる量子ドットと呼ばれる素子を電子が通過する時にも、波と波との干渉を利用して波動性を保持していることを証明しました。

量子ドットは人工原子とも呼ばれ、内部に電子が波動として共鳴するエネルギーを持っています。電子がこのような共鳴エネルギーを通過する際、電子波動の波面が特異な動きをして異常な共鳴現象が生じます(ファノ効果)。勝本教授のグループではこれを量子ドットで初めて観測し、これを用いて基礎物理学の様々な問題を調べました。

電子は、こまのように自転していると考えることができ、このため、小さな磁石としての性質を持ちます。勝本グループでは、この「磁石」が、量子ドットを通過する際に量子ドット内の電子による磁石を揺らすと、通過する電子の波動としての性質が消失してしまうことを見出しました。また、量子ドットを通過する電子には、ドット内にある電子による磁石を外部から見えないように隠蔽する性質(近藤効果)がありますが、この状態になると波動性が回復し、しかも波面の移動の仕方に規則性があることを示しました(ファノ-近藤効果)。

研究成果の重要性、手法の独創性が高く評価されて、今回の受賞となりました。


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(公開日: 2006年02月07日)