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渡部研究室が世界最短光パルスの発生・測定に成功

9次高調波(44nm)の自己相関波形。ガウス関数を使った最小二乗法から求められるパルス幅は(a) 950 as、(b) 1.3 fs。高調波発生に用いたレーザーのパルス幅は(a)8.3 fs、(b)12 fs。赤い実線はガウス関数による最小二乗最適化の結果。青い実線は高調波のスペクトルより計算した自己相関波形。時間領域のおける自己相関計測の結果が、スペクトル領域から独立して得られる結果と整合性が取れていることを示す。
9次高調波(44nm)の自己相関波形。ガウス関数を使った最小二乗法から求められるパルス幅は(a) 950 as、(b) 1.3 fs。高調波発生に用いたレーザーのパルス幅は(a)8.3 fs、(b)12 fs。赤い実線はガウス関数による最小二乗最適化の結果。青い実線は高調波のスペクトルより計算した自己相関波形。時間領域のおける自己相関計測の結果が、スペクトル領域から独立して得られる結果と整合性が取れていることを示す。

「目にも留まらぬ早業」や「電光石火」という表現があるように、数百ミリ(10-3)秒以下で起こる現象の過程を、人間が自分の目で直接追うことは出来ない。しかし、カメラに付いているフラッシュを使えば、フラッシュの時間幅より遅い現象の瞬間写真を撮ることが可能となる。人類が最初に瞬間写真を撮ったのは19世紀半ばのことで、ライデン管中の放電にともなう閃光が使われたという。時間幅は500マイクロ(10-6)秒であった。それ以来フラッシュの超短パルス化の努力が開始され、レーザーの発明・高次高調波発生の発見を経て、アト(10-18)秒領域へと突入している。フェムトケミストリー(フェムト秒化学)は原子の動きに注目したものであるが、アトフィジックス(アト秒物理)では物性を担う電子の動きを捉えることが課題となる。

今回、我々は、高次高調波によりアト秒パルス発生に成功した[1]。現在、パルスレーザー光源としてよく用いられる800nm(赤色)の光の1サイクルは2.7フェムト(10-15)秒であり、これ以下の光パルスを作ることはできない。そのため、400nm(800nmの2倍波で青色)の強いレーザー光[2]を希ガスに集光することによって得られる9次高調波(基本波800nmの1/18の波長を持つ)でアト秒パルスを発生した。特徴は、比較的低い次数を用いたことにより、高調波の強度がこの分野の他のグループに比べ10倍以上強いことである。

光のパルス幅は、光パルスを2つに分け、2つのパルスが同時に重なった時に信号が増える非線形現象を使って測定する(自己相関法)。歴代の可視域世界最短パルスは、非線形効果に基づく自己相関法により測定されてきた。今回使った非線形効果は、希ガスが2個の光子を同時に吸収してイオン化する現象(2光子イオン化)である[3]。この2光子イオン化は世界で最も短い波長で観測された非線形効果であり、用いた9次高調波が強いことにより成功した。パルス幅は950アト秒であり、測定されたパルスとしては世界最短パルスである。

参考文献

  • [1] T. Sekikawa, A. Kosuge, T. Kanai, and S. Watanabe, Nature 432, 605 (2004).
  • [2] T. Kanai, X.Zhou, T. Sekikawa, S. Watanabe, and T. Togashi, Opt. Lett. 28, 1484 (2003).
  • [3] N. Miyamoto, M. Kamei, D. Yoshitomi, T. Kanai, T. Sekikawa, T. Nakajima, S. Watanabe, Phys. Rev. Lett. 93, 083903 (2004).
(公開日: 2004年12月09日)