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秋山研究室で半導体量子細線1本の光吸収を測定することに成功

固体物質はその大きさをナノメートル程度(1 cm の千万分の1)まで小さくすると、それまでとは異なる電気的特性、光学的特性を示すようになる。これは電子が波の性質を持つことに起因しており、量子効果と呼ばれる。この効果を半導体レーザー等の光デバイスに応用できれば低消費電力、高速変調、安定動作など大きな利点につながることが古くから予測されてきた。

固体物質の大きさを小さくする場合、1方向だけ小さくする薄膜構造、2方向にわたり小さくする細線構造(量子細線)、3方向全てで小さくする箱構造の3パターンが考えられる。その中でも薄膜構造は、1969 年の江崎玲於奈らによる超格子構造の提案以降爆発的に研究されてきた。その結果、現在の情報化社会を支える半導体光デバイスのほとんど全てに薄膜構造が用いられている。一方で細線構造、箱構造は薄膜構造以上の高性能が期待されてきたが、作製の困難さの為に研究されるようになったのは1990年頃からと比較的最近である。しかも対象があまりにも小さい為に、応用・基礎両面において最も基本的な情報である光吸収の大きさでさえ、定量的に測定できていなかった。

我々はこれまでに、米国ルーセント・テクノロジー社・ベル研究所との共同研究により、世界最高の均一性を持つ断面寸法14×6 nm(原子数50×30 個)の量子細線の作製に成功し、そのレーザー発振等を実現してきた。今回、光導波路を用いた顕微透過計測技術を開発し、通常の方法では測定が極めて困難であった量子細線の吸収を世界で初めて、しかも1本だけで測定することに成功した。

実験では単一の量子細線を光導波路の中心に入れた構造を持つ試料を用いた(図1)。導波路の一端から光を入射し、他端から透過してくる光の強度を測定することで、量子細線1本だけの光吸収の強さを測定した。図2 (a) が長さ500μm の量子細線を光が透過したときの透過率スペクトルである。1.583 eV (凡そ780 nm:CDに使用されている波長) では透過率がそれ以外の部分に比べ極端に小さくなっている。図2 (b) が透過率から求めた光吸収スペクトルである。1.583 eV の吸収は励起子と呼ばれる半導体中の電子・正孔が作る状態によるものであり、吸収係数のピーク値は80 cm-1 である。この値は量子効果が無い時に比べて16 倍、薄膜構造と比べても3~5 倍大きな値である。具体的な数字で言うと、たった1本の量子細線を500μm通過するだけで98 % の光が吸収されてしまう程の大きさである。

量子細線は体積の小ささや量子効果から超省電力、超高速などの高性能が期待される一方で,「ナノメートルの細線では体積が小さくなりすぎて、光吸収が小さくなり実用的なデバイス化は難しいのでは」という直感に基づく懸念も唱えられてきた。しかし今回の結果はそのような直感的な懸念を科学的に否定し、量子細線のデバイス性能を定量的に予測する為の基礎データを提供するものである。(文責:高橋和)

 news20050804

参考文献

  • [1] Y. Takahashi, Y. Hayamizu, H. Itoh, M. Yoshita, H. Akiyama, L. Pfeiffer, and K. West, Appl. Phys. Lett. 86, 243101 (2005).
  • [2] Y. Hayamizu, M.Yoshita, S. Watanabe, H. Akiyama, L. Pfeiffer, and K. West, Appl. Phys. Lett. 81, 4937 (2002).
  • [3] H. Akiyama, L. Pfeiffer, M. Yoshita, A Pinczuk, P. Littlewood, K. West, M. Matthews, and J. Wynn, Phys .Rev. B 67, 041302 (2003).

関連サイト

(公開日: 2005年08月04日)