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謝 長澤 研究員(押川研)が日本物理学会若手奨励賞 (素粒子論領域)を受賞

押川研究室の謝長澤 Chang-Tse HSIEH研究員 (Kavli IPMU 兼任、現・理化学研究所)が日本物理学会若手奨励賞 (素粒子論領域)を受賞しました。この賞は、将来の物理学を担う優秀な若手研究者の研究を奨励し、日本物理学会をより活性化するために設けられたものです。

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受賞対象となった研究は「マックスウェル理論における電磁双対性の量子異常 / Anomaly of the Electromagnetic Duality of Maxwell Theory」です。

曲がった時空上のマックスウェル理論における電磁双対群SL(2,Z) の作用の効果は、1995年にWitten, Verlinde によって詳しく解析され、2018年にはSeiberg, Tachikawa, Yonekura によって重力-SL(2,Z)混合量子異常(アノマリー)として理解できることが示されていました。謝氏らは、SL(2,Z)量子異常の純粋部分を決定し、さらにカイラルフェルミオンの量子異常との対応関係を示しました。現代的な量子異常の理解によれば、量子異常をもつd+1次元理論は(d+1)+1次元バルクにおけるSPT(Symmetry Protected Topological)相の境界に実現されて、量子異常流入(Anomaly-inflow)が成り立ち、対応するバルクSPT相はコボルディズム不変量で分類されます。謝氏らは、3+1次元マックスウェル理論を4+1次元時空におけるBdC理論の境界に実現し、SL(2,Z)量子異常を特徴づけるコボルディズム不変量をsignature演算子のη不変量およびArf不変量によって与えました。さらに、この結果が3+1次元カイラルフェルミオン56個の量子異常を特徴づけるコボルディズム不変量(ディラック演算子のη不変量)と一致することを見出しました。この量子異常の一致の理由として、M5ブレーン上に実現されるE-弦理論(E8対称性をもつ5+1次元超共形場理論)の2次元トーラスコンパクト化による説明が与えられています。自己双対テンソル場を生じるテンソル相、E8-インスタントンによりE7対称性に破れたヒッグス相のそれぞれに対応してマックスウェル理論、カイラルフェルミオン56個の理論を低エネルギー有効理論の一部として実現できることが示されています。

謝氏の寄与による、3+1次元マックスウェル理論と4+1次元BdC理論の対応に基づいた、直接的なSL(2,Z)量子異常の解析は、現代的な量子異常の理解に立脚し、幾何学とトポロジーを駆使した精緻なものです。このマックスウェル理論のSL(2,Z)量子異常は弦理論の無矛盾性において重要な役割を果たします。新たに得られたカイラルフェルミオン量子異常との対応関係は、1+1次元カイラルボソンとカイラルフェルミオンの関係を一般化する、興味深い結果であり、これらの点が高く評価されました。

関連論文

  • C.-T. Hsieh, Y. Tachikawa, K. Yonekura, Phys. Rev. Lett. 123, 161601 (2019).

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(公開日: 2021年04月15日)