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多田靖啓 助教(押川研)が日本物理学会若手奨励賞を受賞

押川研究室の多田靖啓助教(現・広島大学准教授)が日本物理学会若手奨励賞(領域6)を受賞しました。この賞は将来の物理学を担う優秀な若手研究者の研究を奨励し、日本物理学会をより活性化するために設けられたものです。

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受賞対象となった研究は「カイラル超流動体におけるエッジカレントと軌道角運動量の理論的研究」です。

カイラル超流動(超伝導)体では、フェルミ粒子が相対角運動量がゼロでないクーパー対を形成します。カイラル超流動体の実例として、液体ヘリウム3の超流動A相が確立しています。近年では、トポロジカル超伝導体の観点からもカイラル超流動体に改めて注目が集まっています。カイラル超流動体における長年の懸案として、系の端に流れる自発的な質量流・電流と、それに関連する軌道角運動量の問題がありました。前述のようにカイラル超流動体ではクーパー対が角運動量を持つため、超流動体全体も軌道角運動量を持つと考えられます。全てのフェルミ粒子がクーパー対を形成すると仮定すると全軌道角運動量は電子数に比例した巨視的な値を取りますが、フェルミ面付近の低エネルギー粒子のみがクーパー対を形成すると考えると全軌道角運動量は小さな値に抑制されます。このように異なる描像が異なる理論的予言を導くため、この問題はしばしば「固有角運動量のパラドックス」と呼ばれ、40年以上未解決でした。

多田氏は、2015年出版の共著論文で、カイラル超流動体が回転対称な容器に閉じ込められ、端が理想的な境界である場合について系統的な解析を行い、平均場理論の範囲で決定的な結果を得ました1)。それによると、クーパー対の角運動量が1のp波カイラル超流動体では、全軌道角運動量はあたかも全てのフェルミ粒子がクーパー対を作っているかのような巨視的な値を取るのに対し、クーパー対の角運動量が2以上になると全軌道角運動量がむしろ抑制されて小さくなります。この驚くべき結果は後に海外の他のグループの計算でも支持されています。しかし、一般的な境界条件を考えると、全軌道角運動量は境界条件に依存して大きく変化します。多田氏は、2018年出版の単著論文において、このような全軌道角運動量の境界条件依存性とその本質について考察しました2)。それによると、他の多くの「バルク」で定義される物理量と異なり、全軌道角運動量はバルク量として一意に定義できなません。このことは、カイラル超流動体の端における質量流(カイラル超伝導体の端電流)も境界の詳細に大きく依存することを示唆しています。これら一連の基礎的な研究は、長年の未解決問題に大きな進展をもたらし、最近注目されているトピックにも波及効果が大きいものとして評価されました。

関連論文

  • 1)Yasuhiro Tada, Wenxing Nie, and Masaki Oshikawa, Orbital Angular Momentum and Spectral Flow in Two Dimensional Chiral Superfluids, Phys. Rev. Lett. 114, 195301 (2015).
  • 2)Yasuhiro Tada, Non thermodynamic nature of the orbital angular momentum in neutral fermionic superfluids, Phys. Rev. B 97, 214523 (2018).

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(公開日: 2021年04月15日)